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ヤーシャの国の魔法技師 作者:アラトリウス

東の森の来訪者達

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東の森の長老

「しっかし、ほんによう似とるねぇ」

 老婆の方は己のことを"長老"とだけ呼んでほしいと名乗り、瑛士に誤って接吻した美女の方は名をサアラというらしい。らしいというのは、彼女自身は羞恥でヒートアップして使い物にならなくなったので、老婆がそう紹介したからだ。
 想定外のハプニングはあったが、今回の謁見の主役はサアラではなく長老だったからだろうか。早とちりで粗相をしたサアラのことは全く無視して、用意された会食の場へと舞台は移された。

 以前にドラゴンが実在すると聞いた時、瑛士はファンタジーな世界に感動したものだが、人間の姿をした異種族というのはそれらを凌ぐほどの感動を生んでいた。
 過分にサアラが美女であったというのもひとつの理由であろうが。

 彼女らはヤーシャの国の東にある大森林を領土としているらしい。
 以前は森の人と呼ばれていたらしいが、前任の魔法技師が彼女らをエルフと呼んだことでこの世界にも呼び名が定着したらしい。グッジョブ。
 エルフはてっきり草食系なのかと思っていたが、実際は森の中で狩りを営んでいるらしく、普通に肉も食べるそうな。
 というわけでテーブルの上に並べられたのは、採ってきたそのままの野菜と、狩ってきた現地直送の動物である。

 王城の中では毒味やらを通さなければならずいつも冷えた料理ばかりを口にすることになるのだが、エルフは毒の有無を見抜けると彼女らが言うので、今日は熱々の食事に相伴することができていた。

 と、そんなリラックスした空気の中で長老が放った発言が先のセリフである。

「似ているというのは、先代の技師様にですか?」
「そうだよ、姫。細かな部分は違うが、全体的には髪も肌の色も似ておる」

 プログラミングが出来るだけであればどこの国の人が呼ばれたのかわからない、と瑛士は思っていたのだが、どうやら少なくともアジア系の黄色人種だったらしい。

「エンジ殿、気を悪くされたならすまないねぇ。二百年前の先代と会った時、こやつはまだ小娘だったんじゃ。顔も覚えとらんくせによくもまぁ接吻などしたもんだが」
「い、いえ。大変光栄ですから。はい」
「そうかい?こやつはまだ大使でもなければ長でもない。遠慮はせんでえぇぞ?」

 殊勝な表情で俯いていたサアラは、その老婆の言葉に反応して表情を不満そうなものに変えていった。
 出会ったばかりの彼女の内面など誰一人(長老を除いて)見抜けるはずもなかったが、どう感じているかはありありと伝わった。

(姫様と違って、ずいぶんと表情にでるなぁ)

 先代の魔法技師は、ヤーシャの国が建国された二百年前に召喚された。
 当時のサアラはまだ五歳の子供だったと長老は説明した。今は二百五歳というわけだ。人間ならば既に長老のように老成していてもおかしくないのだが、彼女はまるで子供のようだった。比べるのもおかしいがシャルロッテよりもはっきりと感情が顔に出ている。

 エルフは成人するまで人間と同じペースで成長するものの、エルフ社会では一度与えられた職場をずっと守り続けるため、内面はそれほど変わらない。寿命が数百年あればさもありなん。
 まったりと同じことを繰り返して暮らすというのは退屈な反面で安定しているということだ。それにしてもと瑛士は思ったが、それもまた人間の寿命の短さゆえの考えなのかもしれないと納得することにした。
 今はそんなことよりも目の前にデンと置かれた巨大なイノシシの焼き肉に心奪われていたのだ。

 それに、ファーストコンタクトが事故すぎたせいで瑛士から彼女に話しかけられないような空気が出来ていた。
 よって、サアラの相手をするのはもっぱらシャルロッテの役目となった。

「五歳のころから想い続けるなんて、素敵ですわ」
「そ、そうだろう!?」

 シャルロッテ姫が120%の笑顔でサアラを褒めそやし、女同士の会話に花が咲いた。オーバーしている20はいつもの社交の顔だが、恋愛の話には完全に同調しているらしい。
 血の繋がった兄も面倒臭がって彼女らを放置していたのだが、瑛士に目配せをする。

(余計な事は言うなよ、エンジ)
(ヤーシャ王も、黙って食べててくださいね)

 ふたりとも、自分の口からロマンティックなセリフどころか実務的な感想しか出ないことは重々承知していた。
 なにより、二人の後ろに控える侍女からのプレッシャーで、飯の味もわからない有様だ。
 シャルロッテはサアラから子供時代の恋心について話を聞き出していたのだが、その間長老はヤーシャ王に向かって本来の要件について語りだした。

「先代のことを知ったのはつい最近になってしもうた。弔いが遅くなってすまんかったのう」
「いえ、それもナの国の連中が街道を抑えたからでしょう。こうして足を運んでいただき有り難く思います」
「そう恐縮しなさるな。話し方も普通でよい。お主は父からしっかり引き継がれんかったから知らんだろうが、こっちは人間に年の差を意識されたくないのでな」
「ですが、建国から協力いただいた長老相手に」
「盟を結んだ条件がソレでもかい?」

 それは彼女が何回も繰り返し勝ってきた詰み将棋だ。
 人間の指す手などお見通し。
 そんなことをしておいて年の差は意識するなというのだから、

「……食えない婆さんだ」
「おぉ、それでよいよい。その物言いは先代よりゃ初代に似とるの」
「その話はまた後で聞こう。すぐには帰らんのだろう?」
「おぉ、それがもう一つの用件でな」

 老婆は楽しげに盛り上がるサアラの後頭部を杖ではたく。

「救国の祭りは終わってしもうたかな?次の建国の祭りをこの不肖の孫娘に見せたくての」
「ということは次の……?」
「我々森の一族は家で長を引き継がん。それで言えば、この孫娘はろくすっぽ外の世界を知らん阿呆じゃ。望みは薄かろう」
「し、仕方ないだろ、長老様!」
「しかしまぁ、血縁のよしみを無下にしたいわけでもない。機会くらいは与えてやりたくての。どうじゃ、シャルロッテ姫か技師様よ、孫娘の案内役をませんかな?」

 良いですよ、と二つ返事をするのは背後から妨げられた。
 背中の肉をこれでもかと言わんばかりにつねあげられていたのだ。

(め、メリルさん!?痛いっす!)
(お待ちください)

 そういえば彼女からも快諾はされないなと訝しんで様子をうかがえば、珍しく姫が迷いに動きを止めていた。
 しばらく動きを止めて黙考していた彼女に助け舟を出したのはヤーシャ王だ。

「エンジ一人でゆかせるのも不安だ。護衛はいずれにしろつけるが、ロッテも行かねば二人で迷子になるだけだぞ」
「……言われてみればそうですね。分かりました。私で良ければお伴しますわ」

 瑛士をちらっと一瞥したサアラはシャルロッテの言葉に安堵のため息をついた。
 さすがに人違いで初対面なのにキスした男と二人では出かけたくあるまい。
 特に傷つくこともなく納得した瑛士は、むしろ自分が行かないほうが良いのでは、とすら思った。
 姫の側から来るなとは言いづらかろう、と思ったのだが。

「では孫娘は姫と技師殿にお任せして、あたしゃ王と相伴に預からせてもらおうか」
「ほう、飲めるのか?」
「もちろんじゃ。手土産もある。肴は人間の世界のものが欲しいのぅ」

 二人は嬉々として部屋を出ていってしまった。
 辞退するタイミングはなく、年上とはいえ、このおてんばエルフを送り出して何かあったら「任せたのに」と言われてしまうだろう。
 ……もしかして彼女の最初のミスを帳消しにするために、謀られたのでは?
 そんなことを思いついたのは、翌日出かける支度が整ってからだった。
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