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ヤーシャの国の魔法技師 作者:アラトリウス

東の森の来訪者達

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Exception02 天使たちの舞台裏

「……で、エンジ様は、なんて?」
「うん。分かった、と」

 中庭での勉強会も終わり、今度こそ本当に女性同士で花のティータイム。
 ここ数日はエルフの文化について様々なことを聞いていたシャルロッテは今日もうずうずしていたのだが、相談があるんだが、と始まったサアラの話が始まると、上向きだった心はジェットコースターのように急降下していった。

 そもそも。

「相談だというのなら、なぜエンジ様を夜這いに誘う前にしてくれなかったの?」
「よ!?」
「ご飯のあと、寝る前の時間に誘い出したらそうなるでしょうよ。誘ってしまったあとなんだから、アドバイスのしようがないんですけど……私、処女だし」
「わ、私だってそうだよ!?」

 年齢差を気にせず友人のように、というサアラの希望で、誰の前でも崩さなかった本音の口調が漏れているシャルロッテだったが、それを直す余裕すら無い。
 夜這い。という言葉を聞いて背筋をビンと伸ばし、サアラは汗をかきはじめてい。
 意図していたわけではなかったのだろう。彼女にはなにか、もっと大事な要件があって……そうでなくても同じ誘いをかけてしまうだろうが……とにかく"そういう意味"ではなかったのだろう。
 だが、シャルロッテとしても余裕を取り戻すどころか、むしろ焦る一方だ。

 普段のエンジは礼儀正しいを通り越して従順そのものだ。犬や家畜ではないのだし、人間にそこまで従順になられても信じられないというのがシャルロッテの感想だった。

 だが、昨日は違った。
 彼のあの判断の速さ。
 サアラを追いかけた必死さはどうだ。

 もしかしたら、アレが彼の本性なのかもしれない。

 彼をこの国にとどめておくのは国益を越えてもはや使命だ。その使命を果たせるのは、恐らく……まぁ、少なくとも兄では無理だろう。無理であってほしい。まぁ、サアラへのあの態度からして大丈夫だろう。

 しかしいくら理屈で考えたコミュニケーションをとっても、魔法技師を手込にする計画は進んでいない。
 感情で乗り切らねば、乗り越えられない障壁があまりにも大きいのだと分かっていたが、その壁を、この美女はあっさり飛び越えるだろう。
 そして、なにより。

 この日この時、シャルロッテは確信て、自覚した。

「まんざらでもなさそうだけど?」
「そ、そんなわけあるかっ!私は彼に伝えなくちゃいけないことが……」
「ふぅん。それって私に言えること?」
「うぐ……言え、ない……」
「じゃあ相談事って?」

 先程は(褐色で分かりづらいが)顔を青くして汗をかいていたサアラだったが、今度は恥ずかしそうに頬が赤らんでいる。
 いやらしいことでないならなんだろう、とシャルロッテは実に下衆く考えていたのだが、正解の助け舟を出したのは後ろに控える侍女だった。

「姫様ももっと純真な考えをお持ち下さい」
「なによー。メリルは分かるっていうの?」
「はい。お召し物のご相談ですよね?」
「わ、分かるのか!?」

 サアラの反応は正解だと言っているのに等しかった。
 お召し物。食べ物などにも当てはまるが、この場合は、

「デートに行くための服が欲しいってことかしら?」

 限界までヒートアップして椅子に倒れるようにして座り込んだサアラとは真逆に、「やっぱりいやらしいことなんじゃない」と、やっぱり下衆な考えは捨てきれないシャルロッテだった。


* * * * *


「エルフの服装に誇りがないわけじゃないんだが……やっぱり狩人の服と、ロッテのような服だと違うだろう?」

 メリルからしてみれば、口に出さなくても分かるほど彼女の考えはハッキリと漏れていた。だだ漏れている。
 先程から、尻まで零れそうなショートパンツの、ありもしない裾を引っ張ってのばそうとしている。シャルロッテのイヤリングに目線を吸い寄せられつつ耳元をこねくり回している様子など、なにもかも見覚えがある。
 見覚えがないだけで自分もそうだったのかもしれないが、とにかく、今のサアラの姿は小さい頃のシャルロッテにそっくりだった。

 メリルがシャルロッテの侍女を担当していた期間は、シャルロッテが6歳から9歳までの3年間だった。
 多感で、誇らしげな家族に囲まれていたシャルロッテは実に健やかに育った。そして手元のおもちゃから、背伸びして上を見上げるような年頃でも合った。
 当時はメリル自身も18歳から21歳と、遅咲きながら嫁に行く直前の期間であった。
 当然のことながら化粧っけも増え、花に磨きをかけていた。
 そんな侍女を間近で見ていれば興味を持って当然である。

 つまり、今のシャルロッテは、サアラにとってそのように見えているのだろう。

「エンジ殿も、やはりヤーシャの国に居着いたということはこの国の風習に慣れ親しんでいるということだろう?だったら、私もそういう服装を着てみたほうが良いと思うんだ」

 しどろもどろな言い訳に、メリルはシャルロッテと同じく黒い考えを腹に留めたが、姫とは違ってあっさり飲み下した。
 ひらひら舞うドレスより、零れ落ちそうなその胸や尻の方に彼も惹かれますよ、という助言は逆効果だろう。

「サアラの言いたいことはわかるけど、物珍しさだけじゃなく、エンジ様はそのエルフの衣装の方が好みのようよ?」
「そ、そうかなぁ……。こんな可愛げもない実用的な服、ロッテのドレスの万分の一も素敵じゃないと思うけど……」
「そ、そんなこと……。まぁ、興味があるんなら着てみれば良いと思うわ。時間はたっぷりあるのだし……メリル」

 そう言われるだろうと思っていたメリルは、いつの間にかその手に巻き尺を握っていた。

「そ、それは……?」
「現在城内に、サアラ様の体型に合うドレスをお持ちの貴婦人はございません」

 そんなぁ、と涙目で訴えるサアラだったが涙目になりたいのはこっちの方だ。
 着飾るドレスが邪魔になるくらいの美貌を、どれだけの女が欲しがってきたか。
 その辺りの説教を飲み込んで自信満々に答えたのは、侍女ではなく姫だった。

「まぁ待ちなさいサアラ。私の自慢の侍女がちゃあんと見繕ってくれるから」

 応えるのは私なのに……。自分の手柄のように言うシャルロッテには、今度キツメのドレスをあてがってやろう。
 固く心に誓ったメリルだった。


* * * * *


 サアラにはおしゃれが分からない。
 エルフは森で狩りをして暮らす種族である。生い茂る自然を絶やさぬように自然から採取し、同じく森のなかで増えた動物だけを食らう。
 文明というものを発展させなくても安定した社会を築いている彼ら彼女らにとって、そして子を成す周期が非常に長いエルフにとって、人間の世界のように逐一変わっていくおしゃれというものを追っていく機能は全く備わっていなかった。

「伝統的な狩猟服だけ?体一つで性をアピールしてるってこと?」
「だんだん分かってきたけど、ロッテは口がわる、ウッ!」

 悪いのは口だけではなく性格もです、という指摘を飲み込みながら、メリルはサアラに着せようとしているドレスをぎゅっと絞った。
 正確にはドレスの下に着せるコルセットだ。姿勢という意味では彼女には必要ないが、いかんせん健康的過ぎて肉が分厚い。ドレスの縮尺を合わせるにしても、無限に広がるわけではないので、ある程度彼女の方にも無理を強いねばならない。
 とは思っていたのだが、これと決められる衣装もないまま、時間だけが無為に過ぎていた。

「メリル、方針を変えましょう」
「ドレスは諦めるのですか?」
「……その悲しそうな表情のサアラを見て、あなたがそう決断できるならそれでもいいのだけど」

 ふっ、とサアラの表情を確かめて、メリルは首を横にふった。

「そう仰られるということは、姫様には何か良い案が?」
「うん。やっぱりその胸と尻は隠しちゃダメだと思うのよ」
「ですが、それでは普段の服と変わらないのでは?」
「そうでもないんじゃないかなー」

 どこか懐かしいものを見るように、部屋に並ぶドレスを見渡してシャルロッテが悲しそうに笑った。
 メリルが先ほど思ったことと、同じことを思い出したのだろう。

「ねぇサアラ。あなた、ドレスのどこを気に入ってくれたのかしら?」
「絢爛だったり、華美だったり、そういうところ」
「もっと具体的に言うと?」
「ひらひらー、とか、ふわふわー、とか」

 それは具体的ではないでしょう、というツッコミは、ひらめきに押し流された。

「なるほど。分かりました」
「分かったのか……すごいな……」

 自分の表現力の拙さは自覚があったのだろう。
 分かってもらえるとは思っていなかったというより、理解力のありすぎる女性陣に若干引きながら、サアラは悲鳴を上げることになる。

「ふっふっふ。任せておきなさい」

 いやらしく微笑むシャルロッテの手に握られた光り輝くそれを見て生唾を飲み込みつつも、サアラには「よろしくお願いします」と言うしか選択肢は無かったのだった。
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