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手製攻略ガイドだけじゃ足りない?

「クロンファード砦は街道のすぐ傍。本来ならば外敵からの侵入を防ぐための、エヴラールに次ぐ第二の砦のようなものですがな……」

「エヴラールからも警戒をするよう早馬で知らせたのですが、予想以上に早く占拠されてしまったようですね」


 現在、リメリック侯爵とアランの会話を聞きながら、食事をしている。

 考えながら食べるのは、消化に悪いのではないかと思うが仕方ない。

 話せることは、話しておかないと時間がないのだ。

 滞在日数二日とはいえ、今日はもう打ち合わせのみ、明日は軍の編成等と最終確認、明後日朝には出発してしまうのだから。


 それでも兵は一時の休暇を得て、リメリック侯爵の城下町へ出て必需品を買い足したりと、自由に過ごしているはずだ。

 指揮官達上層部に、休む余裕はない。

 情報交換を今日中に終えて、体力温存のために早く休まなくては。明日は私も、自分の魔術に慣れてもらうために、デモンストレーション的に沢山の人が見える場所で、軽い訓練を行うことになっている。

 その時になってから、魔術に驚いて逃げだしたり予定外の行動を取られては困るのだ。


 思えばディルホーン丘陵では、リメリックさんやレインスターさんところの兵士さんがすごく動揺してた。エヴラールの兵士さん達があまり驚きもせず受け入れてくれたのは、背に腹は代えられない状況だったからだろう。危機的状況で、助けてくれるなら何でもいい、みたいな感じで。

 慣れてもらうためにも、段階を追って土人形を動かすべきかとかんがえる私の前で、アラン達の会話は続く。


「カッシア男爵の消息はご存知ですか?」

「情報が二転三転しまして、今まで掴みにくかったのですが……どうも城へ攻め入られた時に逃げだしたものの、掴まって殺されたらしいと」

「首がさらされたという話を、逃げてきた市民が話していたそうですよ」

 リメリック侯爵の話に、年若いレインスター子爵が、難しい表情で補足した。


「しかしこうまでカッシアが完膚無きまでに蹂躙されるとは……。ルアインが前面に出した魔術師くずれに押されて、軍が潰走したとか。ルアインは魔術師くずれを簡単に作り出す方法を知っているそうですな」

「そのようですね。非人道的としか言いようがありませんが」

 応じたアランに、リメリック侯爵がうなずく。


「ディルホーンで一瞬だけ見ましたが、予備知識もなく襲い掛かられては、兵達もなすすべもなかったでしょう」

 ディルホーン丘陵に来ていたレインスター子爵の叔父エダム将軍が同意した。


 魔術師くずれか……。

 確かにあれが出てきてしまうと、魔術師無しで戦うのはきつい。

 これもゲームとは違う所だ。アランが戦うフィールドに、敵として魔術師くずれが頻出することはなかった。時折魔獣が含まれているぐらいだ。


 厄介だが、ルアイン側もそう簡単には出さないようだ。軍の本陣がついていく戦いでも、素早く蹂躙するつもりだったエヴラール、次に激戦になることが予想されたクロンファード砦には出してきたようだが、カッシアの城を落とす時には投入しなかったらしい。

 やはり契約の石が貴重なので、ルアイン軍本隊の誰かと、クレディアス子爵あたりの主要人物のみが使用できる状態なのだと思う。


 それでも十分に恐ろしい。

 ついでに、クレディアス子爵までもが魔術師だったと知って、私は納得した。

 ゲームのキアラを魔術師にしたのはクレディアス子爵だったのだ。そのつもりで、パトリシエール伯爵は私を彼に嫁がせようとしたのだろう。密かに魔術師にするために。

 クレディアス子爵は王妃側についている。その師の命令で、逃げることもできずにゲームのキアラは戦っていたのだろう。


 でも、アランとの戦いではクレディアス子爵なんて一度も出てこなかった。なんでだろう? もう死んでたとか?

 そのあたりがまだよくわからないが、このまま進軍していけば戦うことになるかもしれないのだ。あちらの手を探りつつ、対策を考えなければ。


「しかしディルホーンには魔術師殿がおられましたからな。すぐさま倒して下さったおかげで、被害もほとんどなかったのは僥倖でした」

「さすが魔術師殿……」

 感心したようにリメリック侯爵がうなずく。


「どのように倒されたのですか?」

 侯爵が私に視線を向けてくる。ついでにみんなが私を振り返る。う、どう返したらいいんだろう。

 戸惑っている私に代わって、アランと共に同席していた騎士団長が答えてくれた。


「巨大な土人形を出現させ、その足のひと踏みでした」

「……ひと踏み、ですか」

 目を見開く人々に対して、私はうつむく。


 褒めてくれないよりは、賞賛される方がいいのは分かっている。けれど、思い出してしまうと喜べない。

 苦しがっていた人達のこと。助けられない彼らに私がしてあげられることは、もう死なせてあげることぐらいしかなかったことを。

 土人形をその場で崩して彼らを埋めたのは、墓標代わりだ。

 遺体をそのまま晒しておきたくはなかった。せめて死んだ後くらいはそっとしておいてあげたかったから。


「……しかし毎回魔術師くずれを出してくるわけでもないのは、やはり作りだすにも制限があるということでしょう」

 そこに口をはさみ、アランが彼らの意識を引きつけてくれた。

 視線が私から外れて、ほっとしてしまう。


「ならばこれからクロンファード砦を攻めるにあたっては、出てこない可能性がありますかな?」

「ルアイン軍は、本隊をデルフィオン男爵領から王領地へ向けて進めているといいます。制限があるのなら、そちらに振り向けているのでは?」

 そのまま話題が私から離れていってくれた。


 夕食が終わった後は、建物に宿泊した時だけのご褒美とばかりに入浴させてもらい、リメリック侯爵家の召使さん達が、乾いたまま温めたタオルで、髪を拭ってくれる。

 綺麗に乾いた髪をさっとまとめた私は、リメリック侯爵夫人が用意してくれた替えのドレスを着用してアランの元を訪れた。

 部屋の中には、小ざっぱりとしたアランとカインさんがいた。二人で何か打ち合わせをしていたのだろう。


「さっきはありがとう、アラン」

「いや……俺としてもあまり長く続いてほしくない話題だったからな。延々と人の死にざまを語るのは趣味じゃない。お前もそうだろ?」

 軽く話を振られ、私はうなずく。

 どうやらアランは、私と同じように思っていたようだ。


 アランの感覚は私に近いみたいで、レジーのように予想するのではなく、自分が違和感や不快感をおぼえることで、似たようなことを私が考えるのではないかと気遣ってくれるのだ。

 大変ありがたい。


「それで、どうした?」

「これをちょっと見てほしいんだけど」

 差し出したのは、手製攻略本状態になった、ゲームの時のことを思い出して書いた冊子だ。


「ああウェントワースから聞いている。お前が記憶してる、敵の配置や場所だろう?」

「そう、使えそうかな?」

「まぁ待て。……ふーん」

 冊子を開いたアランは、真剣な表情になって私が記述した、ややいびつな図や説明書きに目を通していく。


 少し、へたくそな図を見せるのが恥ずかしかった。もうちょっと絵心があったら、綺麗な図が描けたんだろうなと思うが、前世も今世も絵心は備わらなかったのだ。

 とにかくわかればいいんだからと自分を励まし、アランの返事を待つ。


「僕もこの通りに敵が動くとは思わないが、それでもこの配置に似た形にするだろうことはわかる」

「そうなの?」


「場所から言って、教科書通りに配置するならこうだって感じだからな。兵力としては、これ一つが100とか、そういう単純な分け方はできないかもしれないな。こっちの数に応じてって感じだろう。弓兵も接近戦になれば剣を使わせれば歩兵扱いになる。弓の腕があるやつを選ぶから、完全な歩兵扱いにはしないけどな。盾兵だって乱戦になれば大盾を捨てて戦うことになるし、それを考えると……」


 どうやら現実には、歩兵が弓兵になったりと、状況に応じて隊ごとにクラスチェンジさせられるようだ。

 そして1ユニットは何人分? という私の疑問は『その時による』という曖昧な数字のようだというのが分かっただけだった。


「使えると思うぞ。こっちも国内のことだから、土地勘もある程度あることだし、布陣の場所に当たりがつけられれば、ウェントワースが言ってたように、別働隊を潜行させておいて敵をかく乱したり、側面を突くこともできる」

「それなら良かった」

 とりあえず役に立たない落書きを作りだした、なんてことにはならなかったようだ。


 しかしこれでも、参考になる程度だ。

 起こることを知っていても、全てがそのままというわけにはいかない以上は仕方ない。けれど夕食の席の会話から、私は考えてしまっていた。

 敵を倒すのは仕方ない。減らさなければ、他の場所を占拠したルアイン軍に加わって、その後の戦いを難しくさせるばかりだ。


 けれど味方の被害くらいは、もう少しなんとかならないだろうか?

 何かもっと違う方法を思いつければ。

 ……それこそ少数の犠牲だけで、砦を落とすくらいのものを。

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