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私は敵になりません! 作者:奏多
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リメリック侯爵領に到着

 前世から引き継いだ知識。
 その中には、戦場の兵の配置、伏兵の場所や投入タイミングなども入っている。

 状況も変化してしまったし、その通りに戦も進むかどうかはわからない。リアルタイムで事態が動く以上、移動中の敵の一隊と遭遇することもあるだろうし、サレハルドの軍がトリスフィードから動く可能性もある。
 それでも何らかの助けにはなるだろう。

「この後確実にあるだろう場所はクロンファード砦。ここで駐留してるルアイン軍と戦って、ティロン河川で逃げてきた人達を守っての山賊との戦い。途中で敗走してきたカッシアの騎士と合流できるんだよね。メイナール市街戦で傭兵相手に戦闘があって、デルフィオン男爵領のラグモア平原での戦い……」

 最初の砦は結構苦戦するんだ。
 砦から、一定時間後に敵兵が出てきて敵戦力が増えるんだよね。
 10ターン後だったけど、この世界の時間でどれくらいなんだろ……。時間がわからないので、後から出てくるとだけ書こう。

 向こうもこっちを攻撃するつもりで砦から出てきてくれるので、砦近くでの戦いになる。確かこの辺りに弓兵が配置されてて、騎馬兵と歩兵がいて……。
 林の中に敵がいると敵弓兵の攻撃力が上がるんだよね。でもわかってたら、横から突撃して蹂躙できるかな? ユニットが3つぐらいだったから30人とか? もっと数が多いかな。
 本当なら私が敵兵が出てくる前に蹴散らせたらいいんだけど、私の持続力的に、戦場が広すぎると途中で息切れするだろうし。援軍来てからが辛くなる。
 かりかりと書きながら、難しい顔で図を眺めているカインさんに尋ねる。

「これどうでしょ。予め潜んでる場所さえわかったら、全部闇討ちとか可能ですか?」
「闇討ちとは、凶悪で良い手じゃのぅ。ヒッヒッヒ」
 おぬしも悪よのぅみたい調子で、師匠が楽し気に笑う。
 一方のカインさんは「不可能というわけではありませんが……」と真面目に検討してくれた。

「この図だと結構大雑把ですよね。扇状地をさかのぼった場所なので、けっこう勾配があります。敵に気付かれないよう山側を移動するのに時間がかかるでしょう」
「あ、やっぱり」
 矢だって下に向かって射る方が楽だっていうもんね。

「ただ確実にこの辺りにいると分かっているなら、最初からその部隊を先行させ、本体は遅れて行くことができれば……先に我々の方が、隠して布陣しておくと言う手が仕えるかと思います」
「あ、時間差か」
 敵だってこちらが接近してることを、斥候かなんか出して調べてから移動するんだよね? てことはその前に隠し部隊を置いてしまえばいいのか。

「でも相手が場所を変えると厄介……」
 鉢合わせでもしたらと思うと、おススメできないやり方かもしれない。

「それならば、少し距離を置いた場所に待機させて、本体が動いてから再度敵がどこにいるのか確認して動くように指示しては?」
「その手があったか……。戦わなくちゃいけない状態だったら、その方向で頼みますか」
 カインさんの案をメモ書きして次へ。

「ティロン河川……これ、アランが少数で移動してる場合の話なんだよね。一万の軍と移動してたら、山賊が出ないんじゃないかな」
 ゲーム時には騎士達が移動距離の長い戦力として使えたけど、今の状況だとどうだろう。

「同国人ですから、無視はできないように思えますね。軍の先行隊に、そういった者たちがいたら保護するように言づけるのが一番でしょう」
 ふむふむと、これまたカインさんの言葉を書きこむ。

「メイナール市街戦とは?」
「ルアインが雇ってた傭兵隊が、賃金代わりに略奪してるって設定だったの」

 言いながらふと思う。
 ゲームだと煙が上がる町の絵とか悲鳴だけだったけど、略奪か……。今度は非戦闘員の遺体や、もっとひどい状況を目の当たりにすることになるのか。
 気付けば、無意識に唇をかみしめてた。
 これも軍が到着することが察せられたら、助けるどころか傭兵隊は逃げ出すんだろう。

「軍としてぶつかりそうなのは、デルフィオン男爵領のラグモア平原での戦いかな」
「デルフィオンは降伏してルアインに明け渡されたわけですから、ルアイン軍とデルフィオン軍とが敵になるわけですか」
 カインさんの言葉にうなずく。

「ただデルフィオンは、さすがに一枚岩じゃないから。男爵は娘を人質にとらわれた上、ルアインに敵わないと諦めて降伏したけど、当然納得していない親族もいるの。男爵の弟は、たとえ令嬢を犠牲にしても素直に明け渡さず、せめて軍を移動させておいて、ファルジア王国の軍と合流すべしって人でね」

 彼と合流して呼びかけることによって、デルフィオンの軍は半数がこちら側に寝返ることになる。
 むしろそれができないと、戦力差がかなり厳しい場面だ。
 ゲームでは回復薬があったけど、一気に傷が無くなるような代物は存在しないのだから。

 多少、魔法があるせいで世界を形作る成分とかが違うのか、効き目のすごい傷薬とか、いい熱冷ましとか、薬の面では前世にも勝るだろう部分はあるけれど。
 なので戦闘中に薬を使う暇が存在するなら、血止めや痛み止めを使って、急場しのぎは可能だ。怪我は怪我なので、骨折などしたら一気に戦力外だが。

 そもそも軍といっても1ユニットで何人分なのか。あれが100人だったとして、HPを半分削られたということは50人死亡するということかもしれない……想像して、背筋がぞっとした。回復って、もしかして人員補充? それなら確かに回復したことにはなるけど……こわっ。
 とりとめのないことを考えるのは、ここまでにしよう。

 こうしてエヴラールの城を出発してから五日。思い出せるだけのことを紙に書く作業を繰り返した。
 六日目、ようやくエヴラール南西のリメリック侯爵の居城へと到着する。

 リメリック領はルアインの進軍路から外れている。
 それもあって通り過ぎた町の人々も、エヴラール軍が行進していくのを不安そうに見てはいたが、落ち着いた様子だった。国境はさすがに要所にかなりの兵を配置していたけれど。

 エヴラール辺境伯領のように、常に兵の備えをしている領地ではないので、国境に詰める兵も農村から賦役でやってきたのだろう人が散見された。
 そんな中、エヴラールとともに遠征の軍を出すというのだから、リメリック侯爵も、先にこちらへ合流しているレインスター子爵も、状況を憂えているのだろう。

 エヴラールと比べて、堅固さよりも優美さが優先されたようなリメリック侯爵の城は、白味が強い壁石だ。この土地で産出される石がそういう種類なのだろう。
 出迎えたリメリック侯爵は、こちらも歴戦の勇士というよりは穏やかに年を重ねた紳士という様子だ。隣にいた侯爵の弟の体格の良さからすると、一回りほど肩幅なども細く見える。

 レジーの代理でアランと騎士団長が挨拶する。
 こうして少し離れて見ると、アランはほぼゲーム通りの立ち姿だ。
 15歳の時よりもやや伸びた黒髪といい、堂々とした立ち振る舞いといい、立派だ。そのアランが私も呼ぶので、後ろについてきてくれるカインさんとともに、おずおずと前に出る。

「この者が当家の魔術師キアラ・コルディエです」
「……紹介にあずかりました、キアラでございます」
 なんと言えばいいのか分からず、私は戸惑う気持ちを押し隠して、とりあえず一礼してみせる。

 一応貴族令嬢としての礼儀作法は学んだ私だけど、魔術師ってどう挨拶したらいいのかわからない。とりあえずご令嬢時代を思い出しつつ行動したのだが、問題はなかったようだ。リメリック侯爵も、まだ三十代になったばかりというレインスター子爵も不愉快そうな顔はしていなかった。

「これはまた、叔父から話は聞いておりましたが……美しい魔術師殿ですね」
 三十歳からすると子供にしか見えないだろう私に驚いたのだろう、金茶の巻き毛を首元で結んでいる貴公子らしい出で立ちのレインスター子爵が目を見開いていた。

 しかもお世辞までありがとうございます……。みっともないとか、こんな子供が? とか言われないかとドキドキしていたのでほっとする。
 あ、でも子供みたいだとかは言うわけがないのか。そんなことを口に出したら、私の一個上なだけの代表代理のアランも、真の指揮官であるところのレジーも、バカにすることになっちゃうものね。

「こんな可憐なお嬢さんだとは、私も思いもしませんでしたよ。戦場に同行していただくのが忍びないほどですが、私たちは貴方にご協力を仰ぐしかない身。どうぞ宜しく頼みますよ、キアラ殿」
 私の親より上の年だろうリメリック侯爵も、丁寧に応じてくれた。
 希少な魔術師が味方にいることが重要であって、年も外見も関係ないとわかっているのだろう。

 軍を率いていた彼らの親族と会ったときも、魔術師には敬意を、という姿勢で接してくれていたので、貴族は皆こんな風に魔術師に応対するようになっているのかもしれない。
 とにもかくにも、ここで打ち合わせと補給を兼ねて二日逗留する。
 その後北上して、カッシア領のクロンファード砦を落とす予定になっている。

「できれば殿下が来るまでに、露払いしておきたいですからね」
 そう言うアランを、侯爵達は頼もしそうに見ていた。

 私も心の中でアランに同意する。
 怪我をしたばかりのレジーには、まだ少しは安静にしてもらいたい。早めに攻略を終えてしまわなくては、と。

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