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ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

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十二話「飛び交うは破壊」

ゾフィは練兵場の近くまで行き、足を止める。
 黒くて小さな球体があり、その中からマリウスの気配を感じた。

(結界……それも空間干渉系か? 感覚的には魔法ではなく、スキルに属するタイプか)

 ざっと見積もっていると、兵士に声をかけられる。

「あの、ゾフィさん、一体何が起こっているんでしょう?」

 思索を邪魔されたゾフィは、声の主に目を向けた。
 色気を擬人化したような美女に見られ、まだ若い男はどぎまぎする。

「知らない方がお前達の為だ」

 ゾフィはそっけなく言うが、これは本心であった。
 アウラニースが現れ、マリウスと交戦中など言えば、多分この国が恐慌状態に陥るだろう。
 別にそれはどうでもいいのだが、マリウスが望んでいないのだからやってはいけない事だ。
 すげなくあしらわれた兵士は、何か言いたげに口をもごもごさせたが、やがて諦めたのか、練兵場へと戻っていく。
 戻った兵士は、仲間達から問い詰められる。
 情報を求められたのではなく、ゾフィに声をかけた行為そのものを糾弾するかのようであった。
 美女で強くて、魔人を倒すという大きな手柄を立てた彼女は男を中心に人気があるのである。
 それを兵士達の会話から察知したゾフィは、小さく鼻を鳴らした。
 そんな彼女をからかうようにアイリスが声をかける。

「随分、人間の男に人気があるようだな、淫魔の魔人よ」

 ゾフィは緊張と警戒で表情を強張らせた。

「誤解されがちなのだが、別にあいつらはどうでもいい。私はあくまでもマリウス様の召喚獣だからな」

 その言葉にアイリスは目を丸くしたが、反対にソフィアは納得したように頷く。

「淫魔の魔人とは珍しいと思いましたが、その律儀さこそが理由でしたか」

 褒められたはずのゾフィは顔をしかめる。

「淫魔は節操なしだとどいつも誤解しているようだな」

 魔王級二人を相手に、内心では緊張していても表面上には出さない。
 現にアイリスは気づいていないようだが、ソフィアの方はごまかされなかった。

「もっと気楽にしてていいですよ? 私達、アウラニース様が興味ない事に興味がないので」

 つまりお前と戦う気はないと言うのである。
 舐められたとは思わない。
 とても思えないくらいの力の差があるのが現実だ。
 ただ、言われっぱなしで終わるのはゾフィの気性に反するので、言い返してみる。

「こちらこそ意外だよ。魔王に匹敵する強さを持ちながら、他の存在に忠実に従っているなんて」

 アウラニースならば、魔王級の部下を持っているのは決しておかしくない。
 だが、それほどの力を持った部下が忠勤に励むかは別の話である。
 聞きようによっては「お前達の忠誠心は信用出来るのか」とも解釈が可能で、これは忠義に厚い者にとっては、無視出来ぬ侮辱だろう。
 現にアイリスは、表情をやや険悪なものに変える。
 それだけでゾフィは、心臓を氷の手で掴まれたような気分になったが、引けない場面というものがある。
 マリウスへの忠義を疑われたまま、黙って引き下がれるはずがない。
 両者のにらみ合いを制止したのはソフィアであった。
 彼女はアイリスの肩に手を置き、諭したのである。

「先にからかったのはあなたでしょう、アイリス」

「ぬう……確かに私が浅慮だったかな」

 アイリスはあっさり非を認め、ゾフィに頭を下げる。
 ゾフィとしても謝罪された以上、勝算がほぼない相手に強硬な態度をとり続けるつもりはない。
 そして結界の中を心配げに見る。
 そんな彼女の心を察したソフィアが言った。

「大丈夫ですよ。アウラニース様は強い人間が大好きなので。よほど怒らせない限り、マリウスの命は安全でしょう」

「逆に言えば、怒らせてしまうと、マリウスどころかこの国も無事かどうか、一切保障は出来なくなるがな」

 アイリスもしみじみと言う。
 その顔には意趣返しの色はなく、どちらかと言えば嘆きや同情に近い。

「想像とはだいぶ違ったな。もっと無差別攻撃をする性格かと」

 ゾフィの言葉にソフィアは頷く。

「確かによく誤解されていますね。アウラニース様は、決して無差別攻撃をしたりしませんよ。ただ、怒ったら攻撃範囲が恐ろしい事になるだけで」

「そ、そうか……」

 どう反応すべきか困り、ゾフィは沈黙してしまう。





 結界内は隔離されていて、外の様子は分からない。
 部下達の様子を知らずに主人達の戦いは続いている。

「今度はオレからいくぞ?」

 アウラニースはそう宣言すると、魔力の塊を目の前に並べる。
 その数は十や二十ではきかず、あるいは百でも足りないかもしれない。
 白くて細い手が動き、雨のごとく魔力の弾丸が飛来し、マリウスが展開した防御結界を一瞬で貫通した。
 予期していたマリウスは、ワープでかわして返礼とばかりにスターレインを唱える。

「<……討ち滅ぼせ>【スターレイン】」

 人間一人くらい軽く粉砕する、無数の星々がアウラニースへと襲い掛かった。

「は、いいなぁ!」

 アウラニースは楽しそうに笑い、飛んできた星を拳で砕いた。
 間断なく降り注ぐ星の雨を二つの拳だけで迎え撃ち、悉く粉砕する。
 十秒ほど撃ち続けたマリウスは、効果はなしと判断して魔法を止めた。

「楽しいけど、スリルはないな」

 かつてデカラビアを圧倒した攻撃を事もなげに潰し、アウラニースは笑顔で感想を述べる。
 そして再び魔力の塊を全身から放出した。
 その数は先ほどよりも数倍であり、打ち出される速さも比べものにならない。
 デカラビアの突進がスローモーションとすら思える速さで打ち出される、魔力の弾雨に対し、マリウスは防御結界を張って迎え撃つ。
 怪訝そうな顔をしたアウラニースを尻目に、展開された「ディメンションシールド」は全ての攻撃を防ぎきった。

「おお! さっきの防御結界は手を抜いていたんだな!」

 アウラニースは心のそこから感心したとしか思えない、飛び切りの笑顔で拍手をする。
 対するマリウスは、互角に戦いながらも少しも嬉しそうではない。
 アウラニースは明らかに手を抜いているからだ。
 宣言した通り遠距離攻撃しかしてきていないし、その攻撃も無造作に繰り出しているだけで、研ぎ澄まされているとは言いがたい。
 しかし、見方を変えればそこが付け目でもある。
 本気になったアウラニースは、プレイヤー達から「理不尽ニース」と呼ばれた悪辣な強さを発揮した。
 目の前にいるアウラニースがどうかは知らないが、出来れば本気になる前に倒してしまいたい。
 もっともそれが非常に困難だとも承知している。

「じゃ、オレも手を抜くのを止めようかな!」

 アウラニースはそう言いながらも、先ほどと同じ攻撃を繰り出してくる。
 今度はより巨大な魔力で、打ち出される速度も更に上がり、避けた先にも雨嵐の如く襲いかかってくる。
 マリウスは攻撃を諦め、防御と回避に全力を注ぐ。
 耐久力が魔法使いレベルでしかないマリウスにしてみれば、最早受け方を間違えると即死する領域になっていた。
 最初の攻撃がただの児戯だった事は言うまでもない。
 それどころか、デカラビアらの攻撃も全てがただのそよ風だったという印象に変わってしまう。
 やがて怒涛の波状攻撃は止まり、アウラニースは両目を輝かせてマリウスを賞賛した。

「お前って本当に凄いな! 今のを耐えたのって、メリンダとかソフィアとかアイリスとか、それくらいだぞ!」

 無邪気に満面の笑みを浮かべる魔王は、純粋に戦いを楽しんでいる。
 決してマリウスを侮ったりしているわけではない。
 単に本気を出す機会がほとんどなく、すぐには本気になれない癖がついてしまっただけなのである。
 それはマリウスにも伝わり、だから舐められているとは思えなかった。
 ただ、状況はあまりよろしくない。
 まだお互い、一度も攻撃が命中していないのだ。
 今のところは完全に互角と言えるだろう。

「じゃあ次はまた俺の番でいいか?」

「おう」

 マリウスの問いかけに、掌と拳を打ち合わせてアウラニースは構える。

(まるでターン制のゲームだな)

 無垢な子供とイメージが重なるその姿を見て、マリウスは苦笑に近い感覚がこみ上げてきた。

「<邪悪を滅する雷神の槍よ、彼の地に顕現し、我が力となれ>【ヴァジュラ】」

 雷系の特級魔法である。
 巨大な雷の槍が何十と生まれ、アウラニースに降り注ぐ。

「ほう!」

 アウラニースはまたも目を輝かせると、魔力弾で迎え撃つ。
 数十の弾丸で一つの雷槍を相殺する。
 それだけならば後手に回りそうなものだが、アウラニースは一度に数千数万の弾丸を作り出せるのだ。
 あっという間に全ての雷槍は消し去られてしまう。

「何も起こらず、何も動かず、何者も生きえず、何者も存在しえず【アブソリュートゼロ】」

 そこに追撃を入れる。
 白銀の空間が生まれ落ちた。
 動くもの全てがその活動を永久に止め、生きとし生けるものが全て永遠の眠りつく、終焉の世界である。
 覆せるものなき、白い牢獄が大きな音を立てて砕け散った。
 中から現れたアウラニースは、全身に黒い炎をまとっている。

「あー、びっくりした。今のは結構やばかった」

 笑いながら言ったので、説得力というものがなかった。
 スターレインに続き、二つの禁呪が破られた事になる。

(禁呪はきっちりガードするんだな)

 しかし今更マリウスに驚きはなく、彼は冷静にアウラニースの対処方法を観察していた。
 普通に攻撃するだけでは、アウラニースにダメージを与えるのは難しいようである。
 魔力を注ぎ込んで威力を上げれば、あるいは可能かもしれないが、アウラニースもまだ余力はあるだろう。
 真正面から突破するのは得策ではない。

「じゃあオレの番だな」

 アウラニースは獰猛に笑う。 

(次は何が来るか?)

 マリウスは警戒をやや強めにして待ち受ける。
 単に魔力を飛ばすだけではマリウスをどうこう出来ない、というのは既にやってみせた。
 次からは何らかの変化をつけてくるだろう。
 と思っていたら、今度は小石程度の魔力弾を大量に作り出す。

(まさかワンパターン?)

 マリウスが怪訝に思った時、アウラニースはニヤリと笑って手を動かす。
 魔力弾は互いに激しくぶつかりあい、縦横無尽に跳ね回りながらマリウスの方へと飛んでくる。
 撃った本人もどうなるのか分からない、跳弾の嵐であった。

(無茶苦茶しやがる!)

 マリウスもこれには驚く。
 サイズが小さくなったところで威力は全く落ちていないようである。
 安全地帯と言えそうな場所は、アウラニースの真後ろくらいしかないだろうが、気づいていないとも思えない。
 マリウスは腹をくくり、アウラニースの背後にワープで移動する。

「だろうな」

 アウラニースはもちろん予測していて、マリウスが移動した場所に無数の魔力弾を降らせた。

「【リフレクション】」

 マリウスが張った二重の障壁は間に合ったが、次の瞬間、魔力弾に耐え切れずに破壊される。
 しかし、障壁は続いて何重にも展開され、魔力弾は貫通出来ずに跳ね返った。

(今のはやばかった)

 マリウスは非常に久しぶりに冷や汗をかく。
 神言の指輪を装備していなかったら今の攻撃で死んでいたかもしれない。
 アウラニースはと言うと、恐ろしい事に跳ね返された魔力弾を全て素手で叩き落としている。
 彼女にしてみれば特に難しい事ではないようだ。

「今のは少しひやりとしたか? オレもしたからな、お返しだぞ!」

 そう言って笑う。
 マリウスは黙ってレーザーを数発撃ち込みながら距離をとる。
 アウラニースは、片手でそれを弾いただけで追撃をしてこなかった。

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