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ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

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十三話「猛威」

 全てのレーザーを叩き落としたアウラニースは、マリウスにたしなめるようにして言う。

「マリウス。一応言っておくとだな、オレにただの魔力攻撃をするのはおすすめしないぞ。そもそもオレが使っていた力だから、魔力って言うんだからな」

 マリウスはとっさに返事をしかねた。
 アウラニースにとんでもない事を打ち明けられた気がする。

「何かお前が魔力を使う元祖っぽいみたいな事を……」

「そうだぞ。やっぱり知らなかったのか」

 アウラニースは「きちんと教えておかないとな」とうんうん頷いた。

「それはおかしいだろう」

 マリウスは戦闘中だと分かっていたが、ついツッコミを入れる。

「お前は確かただの獣だったはず。最初に魔力を使い始めたのは、モンスターでないとおかしいだろう」

「何故だ?」

 アウラニースはきょとんした顔をして訊き返してきた。

「何故って……」

 あまりにも不思議そうに言われたので、とっさに言葉が出てこない。
 そんなマリウスに対して、アウラニースはやや失望した表情になった。

「お前って意外と頭固かったりするのか? モンスターだからって最初から上手く力を使えたりしたわけじゃないんだぞ。もしそうだったら、さすがのオレだって殺されていたかもしれん」

 アウラニースの言葉には実感がたっぷりこめられていて、疑う方が悪いのか、という気分にさせられる。

「そうなのか。疑って悪かった」

 マリウスが律儀に謝ると、アウラニースは鷹揚に「許す」と笑った。
 戦いの最中だよな、とつっこんだら負けだとマリウスは思い、別の事を口にする。

「そろそろ本番といこうか?」

 そう、挑発であった。
 アウラニースがまだ本気を出していないのは明らかである。
 何故ならば技を出していないのだから。
 一発一発が強烈で、呆れるほどに圧倒的な物量攻撃をしかけてきてはいるが、研ぎ澄まされている感じはしない。
 ゲームで持っていた必殺技を持っていないならばありがたいが、技の一つもないというのはさすがにありえないだろう。
 アウラニースは生まれた時から今のような強さを持っていたわけではない。
 彼女の出身種族タイラントは、彼女を除いて絶滅している事からも推測出来る。
 タイラントが最強種だったのは、あくまでもモンスターが生まれる前の時代なのだ。

「えー」

 アウラニースは不満だという反応を示す。
 彼女にしてみれば、せっかく出会えたまともな敵との戦いを、まだまだ心ゆくまで楽しみたいのである。

「<……力となれ>【ヴァジュラ】」

 マリウスは再び雷系特級魔法を放つ。
 先程破ったばかりだというのに、とアウラニースは眉を寄せながら迎撃する。
 数千の魔力弾を生み出して打ち消したのだ。

「で、前座の次は?」

「【リフレイン】<……存在しえず>【アブソリュートゼロ】」

 リフレインの効力により、数十の雷神の槍はまたもや出現し、アウラニースの体には全てを凍らせる冷気が吹きつける。

「おお、特級の波状攻撃か!」

 これがマリウスの本気か、とアウラニースは喜んだ。
 確かに禁呪、それも系統が異なるものを連続して叩き込まれると、さすがのアウラニースでも少し厳しい。
 マリウスが平気で連発出来るから忘れそうになるが、そもそも禁呪とは扱いが特に難しい魔法の事なのだ。
 アブソリュートゼロ対策で魔力を炎に変え、ヴァジュラ対策に無数の魔力弾を生成する。
 冷気で体を氷漬けにされ、それから逃れたところに雷神の槍が飛んでくる。
 さすがに被弾しながらではあったが、見事に切り抜けたアウラニースの耳に届いたのは、次なる詠唱だった。

「<天に在りて世を照らす神の星、地に降りて断罪の一撃となれ>【アグニ】」

 炎系統の特級魔法、アグニが炸裂する。
 全てを焼き尽くす神の業火が、アウラニースを飲み込まんと襲いかかってきた。
 更にマリウスは次の詠唱の準備に入っている。

(本当に凄いな、マリウス!)

 ここまで禁呪を立て続けに放ったというのにも関わらず、まだ連続攻撃が出来るというのは驚異と言えた。
 だが、これで勝てると思っていると言うならば、

「オレを舐めすぎだな」

 アウラニースは魔力を更に高め、両拳に集約させ、そして解き放つ。
 彼女が誇る大技の一つを。

「ジャガーノート!」

 天を穿ち地を砕くような爆発音が轟き、迫っていた神の炎がかき消され、全てを蹂躙する暴力的な波濤がマリウスを襲う。
 アウラニースの必殺技の一つ、ジャガーノート。
 巨大な魔力を両拳に集約して爆発させる、単純な技なのだが、アウラニースの圧倒的身体能力と膨大な魔力が合わさり、空前絶後の破壊力を生むのだ。
 ただの打撃技として扱われていたものの、とあるプレイヤーが「阻止不能の破壊」と名づけ、最終的には公式に採用された過去がある。
 この技の恐ろしい点はその威力ではなく、装備破壊効果と全ての特殊効果及びスキルを打ち消す効果を伴う事だ。
 アウラニース専用スキル「レッキング」は、彼女が技を使った時のみ発動する。
 しかも射程範囲が広い為、近接攻撃主体の者はまず避けられないという鬼仕様だ。
 当初は「クリアさせる気あるのか」という罵倒が起こったほどである。

(持っていたか)

 想定していたマリウスは驚かない。
 肉弾戦を主とする者にとっては悪夢でしかない攻撃も、充分な距離を置いて戦うマリウスならば避けられる。
 特級魔法による連続攻撃は、アウラニースに技を使わせる為の誘いに過ぎない。
 遠距離からしか攻撃しなかったのもだ。
 遠距離から連続攻撃をしかけ、普通の防御が間に合わなくなれば、カウンターで大技を使うと読んでいたのである。
 まさにマリウスの読み通りの展開だった。
 彼はワープでアウラニースの真横に移動し、ジャガーノートの発動直後で、反応が珍しく遅れた魔王に向かって最強の魔法を叩き込む。

「<……無に帰せ>【アニヒレーション】」

 マリウスの魔力の全てをつぎ込まれた最強の黒風が、アウラニースを飲み込んだ。
 虚脱状態がマリウスを襲い、マリウスは膝をつく。
 幸い魔力回復スキルのおかげで、すぐに立ち直れる。
 魔力が多少回復した時点で、マリウスはワープで距離を取り直した。
 今の一撃で倒せるほどアウラニースは甘くないと思っている。
 結界「グレイプニル」も壊れる気配がない。
 アウラニースが死んでいない何よりの証拠だろう。
 ただ、出来るだけダメージを与えてはおきたいし、かなりのダメージを与えられたはずだとも考えていた。

(無防備なところに、全力アニヒレーションを叩き込んだからな……)

 これでノーダメージだったならば、自分では倒せる気がしない。
 黒い風が消え去って視界がはっきりした時、マリウスの予想通りアウラニースは生きていた。
 右膝をつき、両腕で前を庇うように交差させ、肩を大きく動かしながら。
 アウラニースと言えども膝をつかざるをえなかったらしい。

「さすがに今のは効いた……」

 アウラニースは低い声でそう言うと、体を震わせ始める。
 そして立ち上がると大きな声で笑い出した。

「あはははは、嬉しいな! これだけ痛い思いをしたのはいつ以来かな!」

 笑いを引っ込めてマリウスを見る。

「遊んでて悪かった、マリウス。お詫びにオレの真の姿を見せよう! お前なら死なないだろうからな!」

 アウラニースの体の輪郭がぼやけ、次に巨大化する。
 肩高が五メートル、体長と尻尾が十メートルはありそうな巨体、そしてそこから更にそびえるように伸びている首、それらを覆うのが青い鱗だ。
 黄金の瞳と白い牙、赤く細い舌。
 大昔に絶滅した、地上の暴君タイラント。
 その威容が明らかになった。

(まるで恐竜だよなぁ)

 マリウスにとって、見覚えのある姿である。
 元の世界で伝え聞く恐竜に近いイメージだ。
 ずしりとマリウスの心臓に重厚な圧迫感が覆い、すぐに消える。
 アウラニースのスキル「覇者の猛威」だろう。
 アウラニースが本気になった時にのみ発動し、一定の強さを持たぬ者を強制的に気絶させてしまう。
 しかも最低限の強さがあるだけだと、恐慌状態になり、事実上の戦力外にする。
 並みの者では対峙する事すら出来ないのが、最強の証なのかもしれない。

「あははは、さすがだ。マリウス」

 アウラニースが感心したように笑う。
 姿が人のものとはかけ離れても、人語は流暢なままだった。

「オレのこの姿を見ても平気なんだな! お前に会えてよかったぞ、マリウス!」

 そう叫ぶアウラニースに対して、マリウスは冷静に答える。

「俺は会いたくなかったな。出来れば一生」

「ははは、そうつれない事を言うなよ。オレが本気になっても平気だなんて、お前だって相手がいなかったはずだぞ。いつも手加減をさせられて、鬱憤は溜まらなかったのか? 本気を出せる相手が欲しくはなかったのか? 一度でいいから死力を尽くしてみたいと思った事はないのか?」

 どういう仕組みになっているのか、アウラニースの声は人型の美しさそのもので、しかも今は興奮して上ずってきている。

「正直になろうか」

 マリウスは何となく適当にあしらえない気分になった。
 アウラニースは純粋で、無邪気でそして直線的すぎる。

「全力を出したいとは思っていたよ。でもお前みたいな奴と命懸けで戦うのはごめんだな」

 これはまぎれもない本心である。
 周囲に気遣う事なく戦ってみたい、という欲求はあったが、別に同等な敵を求めていたわけではない。
 まして命懸けの戦いなんて考えた事もなかった。

「はは、まあお前ら人間は生きる為に戦う奴らだもんな。戦う為に生きるオレとは違うか」

「分かってくれたなら、さっさと死んでくれないか? 妻達が俺を待っているんだ」

 マリウスの発言がどうツボにはまったのか、アウラニースは爆笑した。

「やっぱりお前は最高だよ、マリウス。今のオレに死んでくれなんて言えた奴なんて、初めてだ」

 どうやら本気形態の自分が少しも怖くない、という部分を評価しているらしい。

「安心しろ。殺されたらちゃんと死んでやるよ。オレを殺せるならな」

 アウラニースが前傾姿勢になり、発せられる圧力が更に増す。

(ここからが正念場だな)

 マリウスも気合いを入れ直した。



 「覇者の猛威」の効果は、結界の外にも現れた。
 練兵場にいた兵士達が一斉に白目をむいて気絶し、近くにいたゾフィも圧倒的な恐怖で両手足をついて震える。

(な、何だこれは……)

 意識が遠のきかけるのを必死に耐える。
 それを見て、ソフィアとアイリスが感嘆の声を漏らした。

「アウラニース様の威に耐えるとは、大したものね」

「魔人で耐える奴は珍しい」

 部下である二人には何が起こっているのか、はっきりと分かる。
 遂にアウラニースが、本気で戦うのだ。
 マリウスとはそれほどまでに強いのである。
 ソフィアはため息をつく。

「マリウスはいいとして、この街は大丈夫かしらね」

 彼女の心配は当たった。
 突如として王都を包んだ強烈な威に耐えられた者は、ゾフィだけであった。
 他の者達は、全員が次々に失神し、王都フィラートスは機能不全に陥ったのである。
 余談ではあるが、空を飛んでいた鳥も失神して地上に激突し、地を這っていた虫達もその場でひっくり返った。
 アイリスとソフィアにとっては、見慣れた光景ではあったが。

「これは……アウラニースのプレッシャーか?」

 脂汗をにじませながら、根性で耐え続けるゾフィがつぶやく。
 彼女の事を素直に賞賛していたソフィアが、褒美代わりとばかりに答えた。

「そうです。もっとも、私達が感じているのは、マリウスにのみ向けているものの余波みたいなものでしょうけどね」

「よ、余波……」

 ゾフィはどう言えばいいのか分からない。
 分かったのはただ一つ、伝承として残るアウラニースの強さは、恐らく誇張がないという事だけだ。
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