挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ネクストライフ 作者:相野仁

七章「黄昏ゆく世界」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

111/186

十一話「アウラニースからは逃げられない」

マリウスは白い世界に浮かんでいる。
 これは二度目の経験だ。
 やはり警告は起こらず、これは攻撃ではなさそうだ。
 ゾフィ達が何も気づかないというのも変である。
 あるいは魔王の攻撃か、とは思ったのだが、やはりおかしい。

「……とう」

「ん?」

 声が聞こえてくる。

「……くれて……がとう」

 やはりお礼を言われているようだ。
 前にこれを体験したのは、ザガンを倒した後である。
 そう考えると、魔王を倒した事への礼だろう。
 すると誰が、となる。
 それも何故デカラビアを倒した時、すぐには出てこず今になって出てきたのだろうか。


 気がつくとマリウスは目が覚めていた。
 あくびをしながらベッドから出る。
 左右で眠る五人の美女を起こさないように注意しながら。
 昨夜は六人で激しい一夜をすごしたのである。

「俺、大丈夫か……」

 今更ながら今の自分の方向性にいくらかの疑問を感じつつ、あくびをした。
 部屋の外に出ると、測っていたとしか思えないタイミングでエマが現れ、一礼をする。

「おはようございます。本日の朝食はいかがなさいますか?」

「軽めで。今日はハー……厳しい戦いになりそうだし」

 何を意味するのか察したものの、エマはいつもと変わらずクールな表情を保ち、一礼して去って行った。
 もう一度あくびをし、大きく背伸びをするとロヴィーサが起きてくる。

「おはようございます」

「おはよう。一晩で結構慣れたよな」

 マリウスがそう言うと、ロヴィーサは耳たぶまで赤くなった。

「せ、せめて室内で仰って下さい」

「ごめんごめん」

 ニヤニヤ笑っているので、わざとなのは明らかである。
 当然、ロヴィーサも気づいて拗ねたように口を尖らせた。

「もう、あなたったら、意地悪なんですから」

「はは。ごめん」

 右手で作った拳で、ポカポカと胸を叩いてくるロヴィーサに、マリウスはされるがままになる。
 マリウスの呼称は「マリウス」だったり「あなた」だったりして一定していないのだが、そのあたりは指摘せず甘い感覚を楽しんでいた。

「むう、朝からいちゃつくなんて、意外とロヴィーサは破廉恥」

 バーラは起きてきて、ちょっぴりの不満の羨望が入り混じった声を出す。
 ロヴィーサは再び顔を赤らめ、それでも反撃する。

「あ、あなただって昨日はあんなに凄かったじゃないの」

「む、むう」

 そして二人で仲よく真っ赤になった。
 下手な口撃は自爆と同じだな、とマリウスは他人事のように思う。
 三匹はまだ起きてこない。
 淫魔だけに早起きは苦手と言うのもあるが、それ以上に昨夜、二人の新妻の補助に疲れたのだ。
 もっとも一番大変だったのは、二人がダウンした後のご褒美の方、とゾフィは叫んでいたのだが。
 五人を相手にして平気なんて化け物、とは妻達の弁だ。

(俺は人間だぞ)

 最近、少し自信がなくなってきたマリウスである。


 朝食を済ませ、食後の紅茶を飲みながらマリウスは皆に尋ねた。

「どこかに無人島ってないかな?」

 アウラニース戦を想定しての事だ。
 エマとエルはすぐに、他の者は一瞬遅れてそれを悟る。
 かつて大陸を消し飛ばしたという伝説を持つ魔王と、近くに民家があるところで戦えるわけがない。

「ありませんね」

 それだけに答えたエマも困った顔をしている。
 皮肉な事にベルガンダの土地での再建作業は大変順調なのだ。
 でなければベルガンダで戦えたのだが。 

「バルシャークやミスラ、ヴェスターにするか? でも、確か生存者はいるんだよな」

 これもエマが首肯する。

「はい。ミスラは半壊ですみましたが、他二つは全壊し、生き残りが難民と化しています」

 つくづく魔人というのはろくでもない。
 皆でため息をつく。

「どうした、仲良くため息をついて?」

 突如ふって沸いた声に、一同の視線が集まる。
 その先で、紫の瞳を持つ黒髪の美女は怪訝そうな顔をしていた。

「アウラニース」

 マリウスがつぶやいた時、ゾフィが部屋に飛び込んでくる。

「すみません、遅れました」

 マリウスに謝り、アウラニースを睨みつけた。
 その事にアウラニースは感心し、ゾフィを品定めしてから微笑む。

「ほう、なかなかの反応だ。リリムの中級魔人といったところか?」

 その一言で固まっていた時間が動き出す。
 ロヴィーサとバーラが慌ててマリウスの側へ行き、その前にゾフィとエマが庇うように立つ。
 それからアルとエルが駆けつけた。

「まずどこから入った、お前」

 マリウスのつっこみにアウラニースは、悪びれずに答える。

「開いていたところからだが?」

 移動速度が速すぎて誰にも気づかれなかったらしい。
 警備側としては捨て置けない問題なのだが、アウラニースはと言うと

「いつもの事だぞ?」

 のほほんとそんな事を言っている。
 マリウスは脱力感を覚えたが、他の者はそういう訳にもいかず、緊張感が全身に満ちていた。

「アウラニース様」

 アイリスとソフィアがごく普通に扉を開けて入ってくる。
 マリウスとゾフィの反応を見て、この二人も尋常ならざる存在なのだと認識された。

「おお、お前達。何で遅かったんだ?」

 主人の言葉にソフィアが呆れて返事をする。

「屋根や窓を通れば早いに決まっています。人を訪ねる時は、きちんと門をくぐって扉を通るのですよ」

 一見、まともな事を言っているようだが、面会希望者が来たという知らせは届いていない。
 つまり彼女達もまともに来た訳ではないはずである。
 もうマリウスはつっこむのを諦めた。

「で、戦いに来たのか? どうやって俺の居場所を突き止めたんだ?」

 ただの好奇心で訊いてみたのだが、

「ん? ただの勘だ」

「ピンポイント過ぎるわ」

 更に疲労感を覚えた。
 砂漠で落とした一円玉を一瞬で見つけるような勘のよさらしい、という事を理解する。

「ぴんぽい……? よく分からんが褒められたのかな?」

 アウラニースが首をかしげるとソフィアが口を挟む。

「で? どうなさるのですか?」

 その一言でアウラニースは、自分が来た目的を思い出した。

「もちろん戦うぞ。今日はマリウスの調子もよさそうだしな」

 一日に待った甲斐があったとにこりと笑う。
 ロヴィーサが見とれかけたほど美しかったが、マリウスには感銘を与えなかった。

「ここで戦いたくないんだが、いいか?」

「構わんさ。メリンダの奴も国がとか、城がとかうるさかったしな」

 さらりと恐ろしい事を言った気がしたが、今は気にする余裕はない。

「で、どこで戦う?」

「それなんだ。適当な場所がなかなかなくてな」

 見つかるまで待ってもらえたら嬉しいな、とマリウスは淡い期待を込める。

「何だ、それならいい方法があるぞ」

 一瞬で砕かれたが、予想はしていたので残念ではなかった。

「オレの結界の中で戦おう。メリンダとの戦いでも壊れなかったから、頑丈さは保証出来るぞ」

(あれ、じゃあ何で大陸が消えたんだ……?)

 マリウスのみならず、皆が似たような事を考えたが、誰も口には出さなかった。
 訊かない方がいい事もある、と理性が忠告したのである。

「万が一の時の為、せめて練兵場に移動しておきたいんだが」

「好きにしろ。オレはどこでもいい」

 かくして舞台を移す事になったのだが、一緒に移動したのはゾフィ、アイリス、ソフィアだけであった。
 バーラ達もついていきたいと言ったものの、ゾフィに止められたのである。

「止めておけ」

 ゾフィのいつになく厳しい表情に、バーラの抗議の声は喉のあたりで止まった。

「アウラニースはご主人様でも勝てるか分からんくらい強い。そして、一緒にいる二人の女達……あいつらもルーベンスより強いだろう」

 絶望という言葉の意味が、バーラやロヴィーサに突きつけられる。
 アルとエルはうすうす察していたのか、驚かずに首を縦に振った。

「いざって時、私達であんた達を逃がさなきゃね」

「距離があれば私達でも可能性が生まれるし」

 淡々と告げるアルとエル、そしてゾフィが見せる表情は、ロヴィーサとバーラは過去に見た覚えがある。
 家族に別れを告げ、戦地に赴く兵士達の覚悟を決めた顔だ。

「で、でも、アウラニースは伝承と全然違うんじゃ……?」

 バーラはたまらず声を上げる。
 自分で自分の感情が理解出来ていない。
 そんな主人の妻に対して、ゾフィはなだめるように言う。

「だから恐ろしいのだ」

 世界に対して悪意を持つ者が、国を滅ぼしたとか大陸を沈めたと言うのであれば、さほど怖くないというのがゾフィの見解だ。
 しかし、何の悪意もなく、単なる結果でしかなかったと言うならば、この上なく恐ろしい。
 バーラは渋々頷き、諦めた。
 彼女も別にもの分かりが悪いわけではない。

「で、でもマリウスが勝つかもしれないし」

 ロヴィーサが声を振り絞ると、少しだけ空気が明るくなる。
 「勝算はある」とマリウスが言っていた事をようやく思い出したのだ。
 それほどまでにアウラニースから受けた重圧は凄まじかったのである。 

「そうだな。私も信じているさ。あくまでも万が一の場合、だ」

 ゾフィはそう言い残し、練兵場に向かった。




 練兵場では朝から早く兵士達が鍛錬を行っていて、熱気がこもり、大きな喚声が響いている。

「お、朝から熱心だな」

 アウラニースは嬉しそうに褒めた。
 彼女にしてみれば、向上心をもって鍛錬に勤しむ者は、誰であっても評価に値するのである。

「でも強そうな奴がいないな」

 期待はしてなかったのか、あまり残念ではなさそうにつぶやき、後ろを歩くマリウスに向き直る。

「このへんならいいだろ? 戦おう」

 両目を輝かせて提案してくる態度は、お菓子をねだる幼児のようだった。
 もちろん、そんなかわいい存在でない事は百も承知である。

「いいぞ。で、まず誰から? それとも三対一か?」

 マリウスがそう訊いてみると、アウラニースは不機嫌そうに口を尖らせた。

「当然オレと一対一だ。こいつらじゃお前に勝てっこないだろうし。それにもし邪魔したら……殺す」

 一瞬だけ笑顔が消え、殺気が漏れる。
 マリウスが内心身構えそうになったほどの殺気は、練兵場の兵士達をも震え上がらせ、聞こえ続けていた喚声が消えた。
 アイリスとソフィアは「邪魔なんかしませんよ」と苦笑しただけで、平然としている。

(この二人も魔王クラスか……)

 もしかしたらデカラビアより強いのかもしれない、と思いながらアウラニースを見た。

「始めようか?」

「おう」

 アウラニースは頷くとスキル「グレイプニル」を使う。
 黒い膜のようなものが出現し、アウラニースとマリウスを覆った。
 そしてそれは地面にも浸透し、広がっていく。
 やがてサッカーが出来そうなくらいに広がったあたりで止まった。
 マリウスはこれを見ても驚かない。
 実はこれは、ゲーム時代でもあったスキルで、アウラニースは戦闘になるとまず最初にこれを必ず使うのである。
 アウラニースを倒さない限り解けない結界であり、「アウラニースからは逃げられない」と言うのがプレイヤー達の間で流行った。

(ゲームと行動パターンが同じなら何とかなるかな?)

 それがマリウスの希望である。
 もっとも強さもゲームと同じならば、マリウスには勝ち目はないと言うしかない。
 アウラニースを一対一で倒した者はゼロだ。
 「アウラニースを一対一で倒す」が、やりこみ要素の一つとして挙げられていたくらいなのである。
 そしてマリウスとゲームアウラニースとの対戦成績は、マリウスの一勝四敗と負け越していた。
 何度も廃人ゲーマーを絶望に叩き落としたアウラニースは、「最強のボスキャラランキング」において、一位を独走していたくらいである。
 思考を現実に戻し、マリウスはアウラニースが自分と距離を置いたままな事を不思議に思う。

「そんなに距離を取っていいのか?」

 誰がどう見ても魔法使いが力を発揮する間合いなのだから、確認したくなったのは無理なかった。
 そんな問いかけにアウラニースは悠然と笑う。

「貧弱な魔法使いを殴れと言うのか? 遠距離戦で勝負だ」

 その言葉を他者が聞けば余裕と受け取り、憤慨しただろう。
 しかしマリウスはそんな単純な解釈をしない。
 何故ならば、アウラニースに苦手距離というものが存在しないと知っているからだ。
 一方で「単なる戦闘好きなら、言いくるめるのも可能かもしれない」とも考えている。

「【エクスハラティオ】」

 魔人達を一撃で葬り去ってきたおなじみの炎系魔法だ。
 アウラニースの全身を白い炎のが包み込み、そして膨大な魔力の爆発的奔流が生まれ、白い炎は一瞬でかき消される。

「まずは探り合いか? 今くらいの攻撃じゃ、オレをどうこうするなんて不可能だしな」

 アウラニースはわくわくした表情で舌なめずりをした。
 元の美貌と相まって妖艶ですらあったが、纏っているのは色香ではなく凶暴なまでの威圧感である。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ