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20.竜殺し(ドラゴンキラー) 其の弐

 俺たちが向かう先は往来に仁王立ちする魔物のドラゴン。

「さぁー先輩! ひっさしぶりの戦闘ですね! うでがなるなる法隆寺ですよ!」

「ユーカ、相手はドラゴンだ。今回ばかりは強敵だ。だから気をつけて戦ってくれよ」

「がってんしょうち! あのドラゴン野郎を駆逐してやればいいんですね!」

「いや、今回俺とお前はあれを倒すために戦うんじゃない。今はただの時間稼ぎだ。今、カインさんと兵士たちがアスリム山にて俺の考案した罠を取り付けてもらっている。それができるまでの時間稼ぎだ」

「ふーん、時間稼ぎですか。あ、でも先輩! 別に、あいつを倒してしまっても構わんのだろぉ?」

 となぜか背中を向けてつぶやくユーカ。死亡フラグの臭いがプンプンする。

「どっちみち、その木刀じゃドラゴンなんて倒せないだろう。だからこその時間稼ぎだ。少しでも被害を減らすため、ドラゴンを足止めしてやるんだ」

「まーとにかく、あのドラゴンを黙らせてやりゃあいいんですね! じゃあさっそく――てやぁああああああ!」

 ユーカはドラゴンに向かう。目にもとまらぬ電光石火の移動でドラゴンの足元に到達。

 足を曲げた状態で立っているドラゴンの足のくるぶしに対して、木刀を叩いていく。ドラゴンは痛みを覚えて、ちょこまかと動き回るユーカに対して爪を立て、腕をカタパルトのように豪快に振り回す。

「へへーん、そんなの当たらないよーだ!」

 ユーカはドラゴンの振り回す腕をかいくぐる。ユーカの通った後には、ドラゴンによって抉られた地面が生成されていた。

 ユーカは次々と木刀で攻撃を行っていく。すべて的確な位置には当たっていく。しかし、しょせん人間の攻撃。ドラゴンにはあまり攻撃が効いていないように見える。少しの痛みは感じるのだろうが、しかし致命傷は加えられない。

「よーしこうなったらぁ!」

 ユーカはドラゴンの顔元を睨む。そしてその顔に向かって一直線に飛びかかる。

「てやぁ!」

 ユーカの振り上げる木刀はドラゴンの顔の下、あごの方に当たり、ドラゴンは顎を跳ね上げて、転倒しそうなくらい揺れる。

「まだまだぁ!」

 ユーカは木刀の連撃をくわえる。顔の頭部に、容赦なく剣を叩きこむ。頭に打撃を与えて、脳震盪でも起こそうとしているんだろうか。

 ユーカは攻撃後、石畳の通りに落下する。携える剣の先のドラゴンは頭を押さえて震えている。どうやら脳への攻撃は効果的だったようだ。

「グァアアアアアアアアアアア!」

 ドラゴンは叫ぶ。ユーカを睨み付け、怒りをあらわにする。

 すると突然、ドラゴンは頭を振りかぶって、隣の木造の建物へと振り落す。ドラゴンの頭が建物の窓に突き刺さる。

「わっ、なんなんですか! ドラゴンさんがご乱心なんですが!」

 俺とユーカはじっくりとドラゴンの方を見据える。ドラゴンはゆっくりと顔を建物から引き抜いていく。ゆっくりとあらわれたドラゴンの長い顔は、なぜか赤く染まっていた。

 赤いペンキをぶちまけられたみたいに。茹で上がったタコみたいに。ドラゴンの青い肌の部分が、顔だけでなく、顔から下へしだいに赤い色が波及していく。ドラゴンはすっかり赤に染められた。

「あ、赤くなりましたよ先輩! これは警告信号ですか!」

「どうやら第二形態に移行したようだな」

「だいにけいたい? フリーザさまかなにかですか?」

「どうやらドラゴンさん、本気を出したみたいだぞ」

 ドラゴンメイドの生態について俺はあらかた調べていた。ドラゴンメイドはその体内に臓器の他に『攻撃』のためのある機関を供えているという。

 ちょうど、電気ウナギが体内の5分の4に発電器官を有するように。

 ドラゴンの体内にも一つの器官、いや機関が存在する。そう、ドラゴンと言ったらあの攻撃だ。

 ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。酸素を大量に吸入しているようだ。

「先輩! なんかドラゴンが急に」

「伏せろユーカ」

 ユーカを小突いて地面に伏せさせる。俺もその上に伏せる。

「せ、先輩! こんなときに私を押し倒すなんて大胆ですよ! しかも後ろからなんて!」

「いいから黙れ。消し炭になっちまうぞ」

 俺たちの頭の上を炎の柱が一直線に通過する。炎の熱は下の俺たちにもじわじわと届いていた。

 炎の柱が消えた後、俺はゆっくりと顔を上げる。ユーカも続いて顔を上げる。

「わわわわわっ、あのドラゴン、火を噴きましたよ! 燃えよドラゴンですよ!」

「ああ。この世界のドラゴンは火を噴くそうだ。図鑑で読んだ内容では、ドラゴンメイドの体内には火を吐くための器官が備わっているそうだ」

 体内にあると言われるその器官の図を俺は思い出す。それは一つの“炉”のようなものになっているものだった。体内の特殊なカルシウムなどの金属物で形成されたその炉、そこに可燃性の油などが体内から生成、もしくは体外から摂取されて、その取り入れられた油を炉の中で、己の高温の体温によって温める。

 このようにして高温になった炉より炎を噴出させる。

 また、この高温の炉を、エンジンのように活用して、己の巨大な体を瞬発的に動かすことができるらしい。

 つまり、エンジンとガスバーナを搭載されたドラゴンというわけだ。こりゃ鬼に金棒だ。

 そうこう考えているうちに、ドラゴンが今まで以上の素早さでこちらに飛び込んでくる。その巨体を、熱を上げて動かしている。

「ユーカ、気を付けろよ。相手は見かけ以上に機敏な動きになっている。もう相手に攻撃を与えることは考えるな。俺たちは時間を稼げばいいだけだから、とにかく逃げ回って相手をかく乱させろ。できるだけ被害は押さえたいが、無理だけはするなよ」

「がってんしょうち! じゃあ先輩は向こうの方へ逃げておいてください」

「いや、俺もあのドラゴンの足止めをする。さすがのお前も一人じゃ大変だろう」

「で、でも先輩……大丈夫なんですか? インテリの先輩に戦闘なんて荷が重いんじゃないんですか?」

「俺をなめるんじゃない。俺は戦えなくとも、逃げることはできるんだよ」

 俺とユーカはドラゴンと対峙する。

「安心しろユーカ、俺がまんまとやられるような奴じゃないってことは十分承知しているだろう」

「まー、先輩はいつもなんやかんやで、どんな勝負も勝っちゃいますからね」

「そういうお前も、どんな勝負もほとんど勝ってきたじゃないか」

 剣道少女のユーカ。日々の鍛練が実を結んで、剣道の全国大会に出場するまでに登り詰めた。

 向かうところ敵なし。ユーカはいつのまにかそんなにも強いやつになっていた。

「先輩と私って、似たもの同士なんですかねー」

「少なくとも頭のつくりは全く違うだろう。お前の脳味噌は石ころぐらいだろうからな」

「石ころなんかじゃないやい! 私だって賢いレディーには少しはなりましたよ!」

「ほう、賢いレディねぇ。じゃあなんで賢いレディが服を後ろ前反対に着ているんだ?」

「はにゃ!」

 ユーカの服は背中を向いていた。いろいろあって突っ込む暇がなかったため今言った。

「な、なんで先輩早く言ってくれなかったんですかー!」

「おまえこそこんな年になって後ろ前反対なんて。小学生か」

「だってこんな服着たことなかったもーん、しかもこれメンズの服だしー」

 そんな感じで、時代も性別も後ろ前さえもあべこべな服を着直すユーカ。恥ずかしいからと言って路地裏に隠れて着替えている。

 そんなことしている間にもドラゴンはこちらに近づいてくる。

「ユーカ、先に俺はドラゴンの相手をしてるぞ」

「え、ちょっと待ってくださいよ先輩!」

 そんなぐだぐだ状態を打破するかのように、ドラゴンが俺の立つところへ一直線に向かってくる。

 ドラゴンは大きく、車一台分の大きさがある。そして第二形態となって赤く染まったドラゴンは動きが豪速でまるで自動車が突っ込んできたようだった。

 俺はそれを横にスライドしてかわす。一陣の風が壁のように押し寄せてくる。その間にも、俺と、ドラゴンは相手同志をぎろりとにらみ合う。

 ドラゴンは急旋回する。横へ避けた俺の、体の横の腰辺りへ突っ込んでくる。

 しかし、その動きはすでに把握している。俺は前転し、前方へと転がる。俺の後ろで壮大に建物に頭を突っ込むドラゴンの姿があった。

 ドラゴンはのっそりと建物から顔を抜き出す。抜き出した顔はこちらを向き、口から炎の柱を――

「てやぁ――!」

 ユーカの怒声がドラゴンの背後から聞こえた。ユーカは木刀をドラゴンの頭に押し当てている。ドラゴンの背後の空中に浮かんでいるユーカはふわりとドラゴンの背に落ち、木刀を背に乗せて、ドラゴンに襲い掛かる。

「くたばれぇー!」

 ユーカはドラゴンの首を折らんばかりの力で握ろうとした。しかし。

「あ、あちゃちゃちゃちゃー! わちー!」

 ユーカは手を真っ赤にして後方へ飛び、通りに不時着する。どうやら体内の炉を焚いているドラゴンの身体に触れたため火傷を負ったそうだ。

 ユーカは通りにあおむけに倒れている。すぐさま倒れた状態から立ち上がろうとするが、ドラゴンは残酷にも黄色い目で狙いを定める。

「ぬわぁー! もうだめだー! なんまいだぶつ!」

 俺はユーカの方へと走る。ユーカを肩に担いで、ドラゴンの足元を転がるようにくぐっていく。

 じりっ、と火の粉が服に当たったような気がした。それを確かめる余裕もなく、俺はただ走り抜ける。

「おいユーカ、また考えなしに突っ込みやがって。お前の行動は猪突猛進すぎるんだよ」

「だ、だってー、先輩が危なそうだったからー」

「俺ならあれくらいの攻撃避けれるさ。いいかユーカ、あらゆる物体の動きには法則があるんだ。物体は重力によって落下する。空気抵抗がある。相手の攻撃もある程度のパターンがある。相手を見つければ攻撃する。相手に狙いをつけるため相手を目で追う。車は急に止まれないように、急に動いた敵は急には止まらない……とあらゆる行動の理念を考え、値を代入していくと、おのずと回避するべき位置が算出されるんだ」

「えーと、つまりどういうことなんですか!」

「とにかく俺の言うとおりのところに逃げろ。今から一時間、ネズミのように逃げ回るんだ」

「い、一時間も!」

「剣道家のお前なら楽勝だろう」

「だって剣道って延長じゃない限り一試合3分で終わるんですよ! 私長時間労働は向いてないんですよ!」

「四の五の言ってる暇はないぞ。さぁ、行くぞ」

 ドラゴンと俺たちは目にもとまらぬ動きで街中を駆け巡る。

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