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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

はじまりの街編

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19.竜殺し(ドラゴンキラー) 其の壱

 カインを先頭にして俺たちは街をしばらく走る。いくらか走った後、俺たちは街の角に建つ、石造りの武器屋へと入った。
「いらっしゃい!」と武器屋の親仁さんが言う。
「うわぁ! ぴっかぴかの武器ですねぇ!」とユーカはつぶやく。
 とにかくここで避難しておこう。そして早く策を練らないと、外に出たときに街が灰と化してしまったらおしまいだ。
「シリウスさんよ、時間がないから単刀直入に聞こうか。あんたの養女であるファナさんとの出会いについて、詳細かつ簡潔に述べてほしいんだが」
「あ、ああ……」
「早く言え。早く言わないとユーカを暴れさせるぞ」
「うぉおおおお! 私を閉じ込めた野郎許さないぞぉ!」
 ユーカは鼻息を荒げて叫ぶ。武器屋の親仁(オヤジ)さんは何が起きているんだと頭を抱えてふさぎ込んでいる。
「わかった、話す! 話します!」
「そうか。じゃあユーカ、お前は話とか聞かないだろうから、今のうちに着替えてこい」
「着替えですか?」
「今から戦うことになるだろうから、身支度を整えておけ。そんな囚人服じゃ戦いにくいだろう。あと、武器も用意しておけ。ただし、人を殺す武器は論外だ。木刀かトンファーにしておけよ」
「がってんしょうち!」
「あと、お金はこのシリウスから引き出しておくから気にするな!」
「はーい!」
 そう言ってユーカは武器屋の中を巡っていく。「きゃ、この服カワイイ!」と声だけ聞けば女子高生がブティックにでも来たような感じである。
 まぁユーカの着替えは置いといてと。
「シリウスさんよ、話を始めてくれませんかね」
「あ、はい……」すっかりシリウスは腰が低くなっている。もう己の地位も崩れているせいだろうか。シリウスは静かな口調で話し始める。
「私こと、シリウス・カールは、この街を統べるカール家の末裔でありまして、そして私は若いころは、騎士として、この街の治安を守っていたんです。カール家はこの街の領主であり、重要な存在でありましたが、私はそのカール家の遠縁の人間であったため、あまり地位は高くなかったんです。その当時はただの名前だけの貴族……といった感じだったんですが……」
「長い。もっと簡潔に話せ。つまりあんたはカール一族の一人ではあったが、遠縁のため地位が低かったのか」
「はい……。地位の低かった私は、なんとか名をはせるため、若いころは騎士となり、戦いに興じていました。世の中は平和となっていたため、戦争などはなかったのですが、世の中にはいろいろといさかいがありまして……。盗賊をとらえたり、また魔物を追いやったり、退治したり、そのようなことをやっているとき、私はある一体のドラゴンの討伐の任を受けまして」
「ドラゴンの討伐……あの、この街より北に位置するアスリム山にいたドラゴンの討伐のことですか!」とカインが興奮して言う。どうやら家来たちにとってこのドラゴンの討伐のことは英雄譚のようになっているようだ。
「ああ。そこで私は青いドラゴンを討伐するためやってきて、ドラゴンを剣で真っ二つにしてやったのさ!」
「さすがシリウス様!」
「ほう、素晴らしいなシリウス様よ。で、あんた本当にドラゴンを討伐したのか」
「うっ……」と俺が言うとたじろぐ。
「いまさら見栄を張ったってどうしようもないぞ。早く正直に話せ」
「……実は、私がドラゴンを討伐しに行こうとしたとき、ちょうどドラゴンが息絶えていてなぁ……。病気か、はたまた寿命で死んだのかよくわからないが、とにかくドラゴンは死んでいたんだ。で、そのドラゴンのそばに……一人の女性と、そして子供がいたんだ」
「一人の女性と子供……。その者たちはそのドラゴンとどのような関係があったんですか?」カインが尋ねる。
「言うまでもなく、その女性のほうはドラゴンの妻で、子供の方はドラゴンの娘、だったんだろう」
 俺の投げかける声に、シリウスとカイン双方が驚いた顔でこちらを向く。
「俺は一通りこの世界の“魔物”とやらの図鑑を見て、あらかたの魔物のことについては知識として入れている。その魔物の一つに“ドラゴンメイド”という魔物が存在するみたいだが……」
 ドラゴンメイド。ドラゴンと人間の双方の身体を兼ね備えた、半竜半人の生物。
「あー、時間がないから、俺の質問に素早く答えてほしい。まずは確認をするが、その女性と子供はドラゴンメイドじゃないのか?」
「あ、ああ……。そうだ。父親と思われるドラゴンは完全にドラゴンであったが、母親と思われる、女性の方はドラゴンメイドであった」
「シリウスさんよ。あんたはそのドラゴンメイドの家族に最終的にどのような処分を下したんだ?」
「母親の方は、仲間の兵とともにとらえて……。そのとき、母親が暴れてドラゴンに変身をしたんだ。それで、母親が倒れたドラゴンの妻であること、そしてドラゴンメイドであることが分かったんだが。そのまま母親の方は力づくでとらえられたんだ。どうも、母親の方はドラゴンの身体に変化していたが、体が衰弱していて、数人の兵士の攻撃で捕らえられたんだ。そして教会に突き出され、ドラゴンメイドの女性は、火あぶりにされて、灰となったんだ」
「で、ドラゴンメイドの娘の方はどうなったんだ?」
「そ、それは……あ、ああ、その、コホン」
「しらばっくれてる時間はないぞ。娘の方はお前が教会に隠れて保護、いや捕獲したんだろう。ドラゴンの娘で、ドラゴンメイドであるその子、ファナさんをな」
「な、ななななななな! 何故お前はそこまですべてを知り尽くしているんだ!」
「いやいや、あくまでこれは俺の推理だったんだが、今のあんたの言動で“推理”が“事実”に変わったな」
「じゃ、じゃあシリウス様の養女ファナさんがあのドラゴンの娘でドラゴンメイドだと……。それじゃあ今、外で暴れまわっているドラゴンがファナさん……が変身した姿なんですか!」カインが尋ねる。
「そうだ」
「そんな馬鹿な。あのファナさんがあんなドラゴンに変化するなんて……」
 どうやらカインの方はファナさんがドラゴンメイドであったことを全く知らなかったようだ。すべてシリウスが内密に行っていたようだ。
「シリウスさんよ、あんたは何故ドラゴンの娘のファナさんを保護したんだ? いったい、どんな理由でファナさんを養女にしたんだ?」
 その問いに、シリウスは口ごもる。
「シリウスさんよ、早く話をしてもらわないと――」
「早く話してください! シリウス様!」俺が言い終える前にカインはシリウスに突っかかる。
「お、おいカイン! 主人である私を何と思って……」
「シリウス様、今は主人も家来も関係ありません! とにかく話してください!」
 カインは激情に任せて叫んでいる。カインはどうもシリウスの家来の中では真面目なやつだったようだ。これは助かる。
 カインの問い詰めにより、観念してシリウスが話し始める。
「わ、私は……まだ一介の貴族であった、シリウス・カールの地位を上げるため、ファナを利用したんだ……。ドラゴンメイドは覚醒するとドラゴンに変身することができるんだ。ファナをドラゴンに変身させて、私以外の、カール一族を滅ぼしていく。そうして、カール一族の末裔が一人となれば、私にふさわしい、大臣や領主の席が回ってくることになる! そう、すべては私の地位のため、そのためにはファナは利用しやすいものだった……。暗殺者アサッシンよりも便利な暗殺者だった。養女であり、少女であるから金をつぎ込まずとも、少し脅してやればあいつは言うことを聞いて暗殺を行ってくれた。“ドラゴンメイドであることを人々にばらすぞ”と脅せば、あいつは何でも言うことを聞いてくれた! とても都合がよかったんだ。そしてあいつが殺人を行っても証拠は残らない! 遺体をあのドラゴンの身体で飲み込んでしまえば殺人があったことも分からなくなる! たとえバレたとしても“魔物の仕業”として処理されるものだから、安心安全だったんだ! そうだ、ファナは私にとって便利な凶器だったんだよ!」
 大臣はそう言うと狂ったように高らかに笑った。もはやその“便利な凶器”は暴走し、自分の地位も、自分の命も危ない状況になっている。もうシリウスは笑うしかない。
「この野郎――!」
 まるで俺の中の怒りを代弁するかのようにカインが声を荒げ、主人であるシリウスをぶん殴った。
「ぐはっ……、か、カイン貴様血迷ったか!」
「血迷っているのはお前だ! シリウス様、あなたがそこまで落ちぶれた人間だったとは! 私は、私はあなたを信じて、あなたを慕ってきたのに! このぉ!」
 カインはシリウスに再度殴りかかろうとする。
「まぁ、カインさんよ。今は怒っている場合じゃないですよ。こいつにはもう一つ訊かなければならないことがありますよ。どうして今、ファナさんが暴れているのか、それを聞きたいんですけど。ファナさんは俺を殺そうとしたとき、何か香水のようなものを嗅いで、ドラゴンに変身して俺を殺そうとしていました。それを何とか逃れたんですが、そのあとファナさんは完全にドラゴンに変身して、己を忘れて暴れ始めたんです。シリウスさん、ファナさんがこんなふうに暴れたのは初めてなのか?」
「ああ……。まさかこんなことになるとは……。私も、危惧していたんだが」
「危惧していた? では、こうなるかもしれないとは知っていたんですか?」
「私も、ドラゴンメイドのことについてはいろいろ調べていたんだよ。それで、ドラゴンメイドは変身を続けると、力が暴発してしまう恐れがある……そうなんだ。力が暴発すると、手が付けられなくなり、力尽きて倒れない限りファナはドラゴンのまま暴れまわると思われるみたいだ……」
「まったく、こうなることが起こる可能性を知っておきながら、ファナさんを暗殺に使っていたとは、いつの時代も悪い大臣はいるもんだ。シリウスさんよ、あんたが全て悪いんだぞ。あんたが、この街を滅ぼそうとしているんだぞ」
「あ、ああ……。す、すまなかった! 私はただ!」
「安っぽい謝罪なんかするな。なにはともあれ、今はファナさんをなんとかしなければならないんだ。あんたから事実の裏付けができたんなら、あとはファナさんと戦うだけだ。戦ってファナさんを止めてやる」
「戦うってトマリギトマル……」
「もちろん、戦わずして勝ってやるさ」
「と、トマリギトマル! 相手はあのドラゴンだぞ! そんな相手にお前は敵うというのか!」
「確かに今回はいろいろ厄介となる。だから、カインさんよ、あんたの手も借りなきゃならないと思う。そしてあいつの手も」
 俺は武器屋の奥の試着室を向く。試着室のカーテンがスライドして中から武装したユーカが現れる。
「スー……ハー……、スー……ハー……、フォッフォッフォ! ソンナソウビデダイジョウブカー!」
 全身を鎧で纏い、頭もごついヘルムで覆われて、こもった声を出している、謎の姿のユーカがあった。
「バカかお前。そんな重装備したらけ躓いてこけて動けなくなるのがオチだぞ」
 俺の言った通りにユーカはけ躓いてこけて動けなくなるオチを展開した。
「フォッフォッフォ! ウゴケナイー! ワタシヲタスケテー!」
 全く時間がないというのにアホなことしやがって。ユーカを試着室に押しやって、もう一度着替えてこいと告げる。
「30秒で着替えてこい。できるだけ軽い装備でな」
「サーイエッサー!」
 と言うと本当に30秒後、ユーカは装いを変えて試着室から現れる。
「じゃじゃーん」
 簡素なつくりの白い布の服を纏っている。首からはマントを掛けて、剣士のような風体になっている。
 脇にはつややかな表面の木刀が携えてある。さすが剣道家というか、妙に様になっている。
「どーですか先輩、似合ってますか!」
「ああ。似合っている。サイズはぶかぶかっぽいが」
「ふぎぃー! ここの店の服は全部サイズがでかすぎるんだよ! 子供サイズはないのかい!」
 裾をまくりあげた服で暴れまわるユーカ。
「ユーカ、今は時間がない。とにかく俺たちはあのドラゴンを阻止せねばならない!」
「おう! ドラゴン退治ですか!」
「だが、真っ向から戦って勝てるような相手じゃない。だから今から作戦を告げる。ユーカと、そしてカインさんと……シリウスのブタさんは家畜小屋にでも押し込んでおくとしてだ、二人には俺の命令に従って行動を取ってもらいたい。
 まずカインさん、カインさんにはアスリム山へ行ってもらう。カインさんだけでなく、この街の兵士もつれてアスリム山へ登ってください」
「アスリム山に登ってなにをするんだ?」
「俺はこの世界の地理についても、本である程度知識に入れているんだが、たしか、アスリム山は寒冷な気候だったはずだ。その気候を利用して、ちょっと仕掛けを作ろうと思っているんだ。まぁ、詳しい話はあとで言うとして、とにかく、お前たちにやってもらうのはアスリム山の頂上の穴掘りだ」
「頂上の穴掘り? まさか、落とし穴でも作るんじゃ……」
「そうだ。ドラゴンに見つからないようにアスリム山に登ってもらい、アスリム山の頂上に穴を掘ってもらう。できるだけ性急に、だいたい1時間あたりで事を済ませてくれ」
「い、一時間だと!」
「それくらいしか時間を稼げないんだ。とにかく詳しい説明をしよう。カインさん、いますぐアスリム山の地図を持ってきてほしいんだが」
「ち、地図か。ちょっとまってくれよ、地図はシリウス様の屋敷にあると思うが……」
 そう言って歩き出そうとしたカインの後方より、
「地図なら、こちらにありますよ」
 と穏やかな声がかけられる。声のする方を向くとそこには武器屋の親仁さんが、がさごそと手元の引き出しをいじっている姿があった。
 しばらくすると机の中から薄汚れた羊皮紙を取出し、こちらへ持ってきた。
「これがアスリム山の地図です。武器の素材を集める際使っていたもので、少々汚いですが……」
「ありがたい。協力感謝する」俺は親仁さんにそう言った。
 地図を広げ、現代世界から持ってきたボールペンでアスリム山のところにしるしを付けていく。
「アスリム山の、大体この辺に、ドラゴン一匹分が落ちるくらいの落とし穴を作ってもらいたい」
「でも、ここは穴を掘ろうにも地面が岩になっていたはずだぞ。そんなのどうやって作れって言うんだ」
「カインさん、この世界にはダイナマイトか爆薬はあるのか?」
「ダイナマイト? ばくやく? なんなんだそれは?」
 どうやら爆発系のアイテムはこの世界に存在しないようだ。
「じゃあ鉄球か何かをぶつけたりして、なんとか穴をあけてくれ。そして穴をばれないように草かなにかで塞いでおいてくれ。そして、落とし穴の目印として赤い旗を立てておいてくれ」
「あ、ああ。とにかく落とし穴を作ればいいんだな。穴は……そうだ、戦争時に使われていた壁を破壊するための兵器があったはずだ。それを使って開ければ何とか……。とにかく、兵士を集めてアスリム山へ向かう! なんだかよくわからんが、お前の策なら何とかなるかもしれん! 何としてでもドラゴン……ファナさんを止めようではないか!」
 そう言って勇みよくカインは武器屋の出口から外へ出る。木の扉をがばっとあける。
「ぬわぁ!」
 木の扉をがばっと閉めた。
「わ、わわわわ、大変だ! ドラゴンがこっちに来てるぞ!」
 カインがこちらへ顔を向け途方に暮れた顔を見せる。
「カインさん、あんたはあんたの仕事をしてください。ドラゴンの方はこっちで何とかしておきますから」
「って、トマリギトマル、お前いったい何を!」
「行くぞユーカ」
「あいあいさー!」
 ユーカと俺はカインの後ろを通って武器屋を出る。外にはあの青いドラゴンが往来の真ん中を歩いている。
 ドラゴンの後ろには壊れた家々。
「ドラゴンの方は俺たちが引きつけておく! だからカインさん、あんたはその間に兵士を集めてすぐさまアスリム山へ!」
「分かった! し死ぬんじゃないぞトマリギトマル!」
「俺を殺そうとしたやつが何を言うか」
「それもそうだな。でも死ぬなよ!」
 俺とユーカ、そしてカインさんは一緒に外へと飛び出て、二手に分かれる。
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