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神影の彷徨 作者:ゆちゃあ
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第一話 出会いと自壊 / 9〜(終)「目覚めの先に」




「おや、尼土様は何処に?」
 車を走らせてきた智爺はやはり予想通りのことを聞いてきた。当たり前だ、横に有がいないのだから。
「恐らく覚醒……よ」
 私の内情隠しきれない面持ちで彼は即座に悟る。
「あのお年で、ですか。あの位の年齢までに覚醒しなければ一生覚醒することはないものと思っておりました」
「ええ。状況の所為でしょう。今まで人として生きてきたのですから」
「……と言うことは」
「『血』よ。それも恐らく自分が他者に流させた血、かなり危険な要因とされているあれね」
 しかもあの歳、今まで抑えられていた欲望が暴発しているってことね。
「爺。今日はもう戻ります」
「よろしいので?」
「相手が相手よ。何故あのような力を持っているかはわかりませんけど、相手にするならそれなりの覚悟がいります」
「…………泉治(せんじ)様の時と同じなのでしょうか?」
 智爺はその言葉に私が強烈に反応しないかと声を細める。
「……そうよ。でも結果は変えてみせます。有は必ず生かします」
 有は私が守ると決めたのだから。
「わかりました。どうぞお席へ」
 私は車に乗り込み、発車の揺れに身を委ねる。

「尼土様の例の件ですが……」
 私が無言で窓ガラスを爪で弾いているのが気になったのだろう、智爺はそう切り出した。
「はい」
「やはり何者かが弄っていたようです」
「そうですか……まあ現状では予想通りとしか言えませんね」
 何にせよ今はまだ情報が足りなすぎる。

 智爺はその後も有に関する情報を報告してくれていたが、今の私の頭には殆ど残る事は無いだろう。

 家までの時間の中、有のことをずっと考えていた。







『目覚めの先に』 



「此所ね」
 月下の森の中にある大きな廃屋の前に一色朱水は立っていた
「全く、こんな禍々しい殺気をまき散らして」
 壊れかけの門を開くとそれは大きな音を立てて倒れてしまった
「これで削強班に狙われたらどうするのよ」
 外観から察するに住んでいた人間はなかなか裕福だったのだろう
「私の気も知らないで……」
 ドアを破壊する
 中はやはり暗く、そして広かった
 朱水は薄暗い城に吠える
「有! いるのでしょう? 出てらっしゃい!」
 しかし応える声は無かった
 一色家と同じくらいの広さを持った廃屋は、まるである日突然住民が消えたかのように生活感が残っていた


「有?」
 リビングのような部屋に着いた
「変ね……」
 まるで迷路のようだ
 殺気は感じているが、その本人の気配がつかめない
 今までに複数の部屋を探したが朱水はひたすら殺気を感じ取るだけであった
「やはりアレは合っていたようね」
 朱水は有と初めて言葉を交わした時にある違和感を覚えた
 そして尼土有を深く知り始めるとだんだん理解してきた
「まさか『精神の壁』まで創っているとはね」
 尼土有は目に見えない壁をも無意識に創り出している、朱水はそう考えていた
 そもそも壁という言葉すら適応されない物なのかもしれない
 それは物質ではなく、存在においての壁であった
「周りの人間が有に興味を持たないのも納得ね」
 人はたとえ視界に入っていても関心が向かないと記憶できない
 足元の小さな蟻に気付かない、つまりそういう事だ
 足元の蟻の存在を肯定して初めて人はそれを記憶する
 恐らく有の壁は人の関心を殆ど弾くのであろう
 故に人は有の存在は認めても、関心は向けられない
「だから…………私なのね」
 しかし一色朱水の力は『破壊』
 その壁は朱水により無意識に破壊されていた
 有意生物である魔では決して不可解な事ではなかった
 故に一色朱水は尼土有に、尼土有は一色朱水に興味が持てるのであろう
 朱水が近くにいるのなら人間でも有に関心が持てるのだろう、有を初めて見かけた次の日に2年4組の生徒と有についての話をしたのだからそう考えられる
「有……私は嬉しいわ」
 裏庭らしき草地へと出る
「貴女に出会えたこと、貴女と話せることが」
 廃墟の奥にある道場のような建物へと草地を進む


 そうしてソレは現れた


 草地を覆い尽くすかのような無数の影
 月光を浴び、薄い光を纏いながら現れたソレは

「有、貴女らしいわ……これが貴女の心なのですね」

 ソレは水晶のような茨であった
 何者をも近づかせまいと
 ただソレは
 現れた

「ほんと貴女らしい、不器用な姿ね」

 そうして魔と魔の殺し合いが始まった



「ッシ」
 襲いかかる茨の鞭を後方に跳んで避ける
 前と左右は完全に進路ふさがれている
『ビュンッ』
 朱水の周りで風を切るような音が巻き起こる
 直後、朱水の右側から無数の棘が襲いかかった
 それは朱水を掴もうとしているのか、直前でしなり朱水を覆うように曲がった
 棘だらけの蔓に掴まってしまったら魔とて一溜りもない
 霊力にも限界があるため有の姿をまだ確認していない状況で使うのは危ぶまれた
 朱水は地を蹴り茨の隙間を潜るが避けきれず、思わず腕で受け止めてしまった
「っ()ゥ」
 体の自由を奪う程の痛みなど久しぶりに感じた
 腕からは血が勢いよく流れ、空中に飛び散る
「まさか創造物に動きまで与えられるなんて」
 朱水は傷ついた右腕に意識を集中させる
「益々神というモノに近づいていく感じね」
 朱水の魔としての、鬼と呼ばれる種族のポテンシャルにより血は止まった
 上から襲いかかってくる茨の高波に隙間を見つけ跳びかかる
 通り抜けた途端目の前に第二波第三波が突っ込んでくる
 避けられる様なものではなかった
「ッシィ!」
 右手を前に、次々と襲いかかる茨の鞭を破壊する
 温存など甘い事を言っている場合ではない
 目の前の致命的な波の連続は既に空中にいる朱水には避けられる術が無いのだった
 霊力を纏う
 朱水を捕らえようと絡まってくる茨は次々と消えていく
 しかし全てを消すことは出来なかった
「キャァァッ」
 地面に叩き付けられ思わず悲鳴が出た

 その瞬間、茨の動きが止まった

「何?」
 朱水はその隙に立ち上がる
 しかし前に進もうとした途端、また茨が襲いかかってきた
「……まさか私の声?」
 今度は左から地面を這うように茨の波が来る
 砂を巻き上げて走るその様は一つ一つが俊足の蛇であった
 それを鬼の体が許す限り全力で跳び越す
 高く高く跳び幾つもの波の山を越える
「まだ……少し意識があるのですね」
 着地と同時に霊力の一部を開放する
 地面が大きく抉れる
 着地地点にあった茨はたちまち消えとんだ
 元より無から生まれたモノ、還るときもまた無へと戻った
 その勢いで前方の茨へと突き進む
 今度は全方位から棘が襲う
 当然だ……茨のまっただ中に突っ込んだのだから
 腕に何度か棘が接触したが今の朱水には些細なことだった
「待ってなさい……有」
 血まみれの鬼が笑う
 また大きな跳躍

 遠い円月を背にしたその魔は、命の美を全身で表した綺靡(きび)なる鬼であった



「ハアアァ!」
 一気に屋根へと跳び掛かった鬼は屋根を破壊し内部へと降り立った
 敷き詰められた茨が朱水を避けるように退く
「見つけたわよ、有」
 朱水とは反対側の壁際に、尼土有だったモノは立っていた
 しかしその目は一色朱水を捕らえることなく宙を見つめている
 何も見ていない目
 その冷冷な瞳は床を覆う茨のほのかな光を映し青白く輝いていた
 朱水が足を踏み出す
 途端、新たな茨が現れる
 それは今までのとは少し違っていた
 高い天井にまで届く透明な茨の壁が有を内包していた
 まるで有を包み隠そうと
 まるで有を包み守ろうと
「ああ、そういうこと……」
 朱水は跳躍準備の姿勢をとる
「つまりソレが貴女の心を守っていたのね」

 目に見えない茨の壁を通れるのは認識くらいなのであろう。
 人間が尼土有に対して視線を向けると、有に向かって興味などの念が飛んでいくが棘に引っかかり最後まで届くのは認識だけ。
 それ故に人は有を気にしない。

「でも私は違う」
 一気に跳びかかる
「私は有に近づける」
 無数の茨の矛が頭上より襲いかかってくる
「私は有と話せる」
 その茨の棘を踏み台に器用に上へと上る
「私は有に触れられる」
 そのまま天井へと跳び上り容赦なく屋根を破壊する


 破壊した屋根に空いた大きな穴から月光が有を照らす

 光の柱の中、水晶に囲まれた少女が朱水の方へと顔を上げた


 朱水を蔓が囲む
 落ちる朱水はその中の一本に着地せざるを得ない
 着地と同時に次の足場を探すが既に視界が塞がれていた
 左から棘が迫る
 朱水はそれにあえて飛び込んで破壊する
 同じ場所にて応戦していてはじり貧になる事くらい明確だったからである

 アレがあれば……、朱水は焦りながらも逐一動く茨の隙間から有を覗き見ていた

 消えた茨の先にはまた棘の海が漂っていた
 折り重なって迫る波を細かく破壊しながら重力に身を任せて落ちる
 しかしその物理現象は止まってしまった
 朱水は自分が宙で止まっている事に気付くと即座に振りかえったが遅かった
 足に絡みつく背後から来た一つだけ細い蔓によって朱水は捕らえられたのだ
 その蔓には棘が無く他のと比較してひ弱な印象を与える
 しかし朱水はその足を掴む水晶の恐ろしさを知る

 壊れないのだ

 この前の使者と同じ、否、今度は壊れるそぶりすら見せない物であった
 どうにかして足から外そうと体を曲げたがそれよりも早く他の蔓が動いた
 一本一本左右交互に茨が迫る

 それは明確な意思を持っていた
 明らかに朱水の注意力を攪乱しようとしている
 それは組織的に狩りを行う獣のような動きであった

 ついに朱水の体に深く棘が突き刺さった
 その肉を引きちぎろうとする様な一撃は少女の痛覚の訴えを木霊させた
 その叫びを聞いて周りの細き獣達は興奮したかの様にうねる
 狂う蔓はとどめを刺そうと次々と朱水に覆いかぶさる
 何とかそれを次々と殺すが次第に追いつかなくなり肌には幾多の傷が生まれた

 例え傷が即座に癒えたとしても失われた血は直ぐには補えない

 我が身の状態を確認しようとほんの一瞬気をそらしたのがいけなかった
 朱水を押しつぶすように目の前に棘が迫っていた
 朱水は反射的に右手を盾にする
 鋭い棘が手を貫通して目玉すれすれで止まった
「………………っ」
 声にならない声を上げ苦しむ
 顔に赤い血が棘伝いに滴り落ちた
 その顔は苦悶に満ち涙が流れていた
 自由な足を使い手から茨を蹴り離すが発せられる痛みは生命の危機を訴え続けている

 それでも、ふらつく意識の中でも朱水は有を瞰視(かんし)する

 もっと近づかなくては

 力を振り絞って体を折り曲げ太ももへ手を伸ばす
 スカートから引き抜かれたその手には以前有に見せた小刀が収まっていた
 緊急時用に常に携帯している唯一の武器であった
 それを自分が空中に止まっている要因である茨へと突き刺す
 霊力が効かない細い蔓はその小さな刃をあっけなく受け入れ一気に裂けてゆく
 字のごとく身を裂くような痛みに苦しんでいるのか、朱水を捕らえていた力は緩み壁に投げ飛ばされた
「クゥウッ」
 だが朱水はその壁を縦に踏み台とし、有に向かって斜めに急降下した

 きっと有に近づける最後のチャンスだ
 もう理性がもたない

 茨が、向かってくる敵に対し左右から掴み掛かろうと分かれる
 その隙間から朱水は有を確認する

「覚悟なさい……」

 朱水の目は月明かりに照らされた有を捕らえる

「これは……」

 その目はそのまま彼女の手を探し

「私のことを……」

 今あって欲しい物を探し

「少しでも忘れた……」

 そして左手の指にソレを見つけた

「お仕置きなんだから!」

 その鬼の顔は満面の笑みだった

「貴女の天辺(てっぺん)にいる者の力を魅せてあげるわ」




 鬼が全力を出し、
 建物ごとあらゆる物を巻き込み、
 『破壊』した






 建物があった場所には一人の少女が、もう一人の少女の目覚めを待っていた
 その顔は母のように暖かく、優しい顔だった
 風が頬をくすぐる度に少女は目を細めた
 クレーターの様に大きく抉れた大地にいるのは二人だけであった

「っ 」
 寝ていた少女が目を覚ました
「こんばんは」
 その少女に黒髪の少女は優しく語りかける
「…………朱水」
「気分はどうですか?」
 黒髪の少女はもう一人の髪を優しく梳く
「ゴメン……」
「覚えていて?」
「うん。何となく覚えてる。私が朱水を傷つけた」
「そうね。でも構わないわ」
「構うよ」
「あら、どうして?」
 横になっている少女は自分の手を顔の前にやり、眺める
「あの時の私、朱水を殺そうとしてた」
「でしょうねぇ。でも、あの程度で()られる朱水さんじゃなくてよ?」
 そう言い、黒髪の少女はその手を取り、甲に口付けをした
「うぅあ」
「あら、嫌でしたか?」
「ぜ、全然、全然!」
「ふふっ」
 そうして二人はしばしの間二人だけの世界に浸っていた



「アレは何なの?」
 未だに横たわっている少女は訪ねた
「覚醒、そう呼ばれています」
「自分が怖かった。何もかも自分の意志とは関係なく体が動いた」
「……仮初めから目覚める、だから覚醒。枠の安定化前の一番不安定な時そのような現象が発生しやすいのです。多くの魔が一度は通る道なのです。アレこそが私達が世界に作られた証拠なのです」
「それにあの力……自分でも訳がわからなかった」
「そういうものです。貴女が悪いのではないわ、有。私だって覚醒したときは自分を抑えることが出来なかった……」
「朱水も?」
「……はい。気にしないで、有。私は有がまた一歩近づいてくれたみたいで嬉しいわ」
 そう言って黒髪の少女は空に浮かぶ満月を見上げた
 それにつられるように横になっている少女も月を見上げた
「綺麗……だね」
「ええ。……不思議ね」
「何が?」
「どうして世界は私達に人間達と同じ美覚を与えたのかしら?」
「どうだろう……ふふっ、わっかんないやぁ。朱水にわからないことが私にわかるわけ無いよ」
 そうして少女は上半身を起こした
「……………………アレ?」
 少女の服はもう一人の少女がよく着ている上着だけであった
「……………………嘘ぉ」
「お仕置きって言ったでしょう?」
「……ひどい、ひどい〜」
 少女は下着を隠すように手を置きながらもう片方の手でそうなった原因を優しくたたく
 完全にいちゃつきである
「下着まで消えなかっただけ幸運よ」
「……ううゥ」
 黒髪の少女はその手を掴み優しく、しかし(しっか)りと包んだ
「ありがとう、有」
「え? 何が?」
「指輪よ。約束守っていてくれたでしょう?」
 そう言ってその指に填められていた指輪を撫でた
「ああ。これくらい……」
「それがなかったら……私は貴女を殺すしか無かったのよ」
「…………うわぁ」
「だからありがとう、です」
「それって感謝する方とされる方が逆じゃない?」
「……ふふっ、そうですね」


 二人は森の中を歩いてゆく
「ねえ、有」
「何?」
「好き」
「……ハイ?」
「好きよ、有」
「え、え、えっと……うん、私もす、すき、好き…………かな〜?」
「……………………」
「いえ、大好きです! 死んでしまうくらいに」
「……ふふっ、冗談よ」
「うえぇ?」
「死なないでくださいね?」
 黒髪の少女はもう一人の少女を指さして笑っていた
「ひどい……泣くほど笑わなくてもいいでしょ」
「そうね。冗談が過ぎたわ」
 自分の行為の下品さを恥じて落ち着きを取り戻す
「そうだよ〜」
「でも、本当に愛しているわ、有」
「……もうその言葉にはだまされない」
「あら? 『好き』ではなくて『愛している』よ?」
「大差無いよ」
 少女はいじけた様に言う
「そう? 私は大差あると思いますが」
「そ、その言い方は……」
「何?」
「さっきの言葉を保証しているって事、なの、かなぁ……って」
「ふふ、さあどうでしょうね?」
 一人は笑い、一人は赤面する
「理由をくれたから……」
「ん?」
 しかし黒髪の少女の言葉は続く事は無かった


 貴女を私の近くに置く理由をくれたから。貴女のその強さが私の悩みの一つであるのと同時に今まで生きていた中で最大のご褒美なのだから。

 愛してるわ有

 もう離さない

 貴女は私の物

 だから守り抜くわ




 一台の車のヘッドライトが近づいてくるのが見えた
「うわぁ。アレって執事さん? 私こんな格好なんだよ?」
「大丈夫よ。確かに有の裸を他人に見られるのは(しゃく)ですけど、智爺はもう歳ですから」
「はっ、裸じゃないよ!」
 少女は現実に対する最後の抵抗を言葉にする
「ああ、そうでした」
 そうしている間に車の音が近づいてくる

「ねえ、有」
 朱水は月を眺めながらポツリと呟く
「何?」
 有はそれに月を眺めながら応える
「いつまでも友達でいてくれます?」
 今度は有に視線を向ける
「……友達止まりが望みなの?」
 それに有が振り向く
 その口は意地悪く歪んでいた
「……やるわね」
「お陰様で」



 車が目の前で止まる
「お嬢様方、どうぞお乗りに」
「有の格好を見ても何も言わないなんて、やはり智爺は良くできた執事ね」
「心得ていますとも」
 そう言いながら有にウインクをする
「あの、何か言ってもらった方が楽なんですけど」
「ム。それは失礼を」
「さあ、有、早く乗って。一応小母様には家に泊まっていると言いましたが、学校を無断で休んだ理由はまだ作っていないんです。それに私達がやらなくてはならない仕事はまだ一つあるのですよ?」
「…………そうだった。今から電話……は、変か。どうしよう」
「だからこれから決めるのです」
「さあ、お嬢様方。日付が変わる前に屋敷に戻りましょう」
「ええ。出して下さい」
「はぁ……」
 有は肩を大きく落とした
 これから待ち受けるであろう未来を想像すると脱力せざるを得ないのだろう
 朱水はその姿を見てクスリと笑うが、急に振り向いた有に驚いて目を丸くした
「何かしら?」
「私の事、好きだって言ってくれるんなら……」
 有は真剣なまなざしである
 朱水はその様子に歩む足を止めた
「はい」
「だったらもう少しでいいから私と話す時は言葉を柔らかくして」
「柔らかく……ですか」
「うん。もっと友達みたいな言葉が良い。私、そうじゃないと何か……嫌だ」
 有の言いたい事は分かる、そう朱水は思った
「分かりました……いえ、分かったわ有」
 その言葉に有の顔は晴れ晴れとする
「ありがと!」
 有が朱水へと跳びかかる、もとい抱きつくと、それを予期していなかった朱水共々地面へと転がってしまった
 二人は土だらけのお互いを笑い合いそして暫らくの間見つめ合った


 そうして有が車に乗り込んで車が発車した後、朱水は隣の有に向かって
「これからもよろしくね、有」と再び満面の笑みで言ったのだった


                       (第1話 完)

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