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神影の彷徨 作者:ゆちゃあ
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第一話 出会いと自壊 / 8〜中話(2)




「今日からまた討滅を再開します。今日の夕方は空いていますか?」
 屋上での昼食後の訓練が終わった今、朱水がそう切り出してきた。その右手にはたった今私が創ったナイフがある。
 いつの間にか朱水は昼休みにも魔というものに関わる話題を出すようになっていた。それどころか昼休みに私の力の訓練をしようと言ってきたのだ。私はその事が少し悲しかった。食事中だけは流石にいつも通りにしてくれているので、わざと私がゆっくり食べてみたりしたが朱水は私の考えが分かっているのだろう、朱水も少しだけいつもより食べるスピードが遅かった気がする。
「一応これだけは確実に創れるようになったのですし、戦いに慣れるためにも参加しなさい」
 相変わらず朱水の口から零れる単語は物騒なものだった。一体全体ここ以外の何所の屋上でこんな物騒な会話が流れるのさ。
「わかったよ。いつも通り何もないから大丈夫だよ」
「そう、だったら着替えてから屋敷に来てください。後これを……」
 そう言ってポケットから指輪みたいな物を取り出す。
「何それ?」
「私の髪の毛が埋め込んである指輪です。私と共に戦う際には必ずこれを指に填めておくようにしてください」
 渡された物をよく見ると確かに髪の毛みたいのが巻いてある。普通に想像する所の指輪と違って幅が広く、溝が掘ってあってその中に髪の毛が埋まっているという感じだ。
「でもどうして?」
「私が血を行使している最中に貴女が触れたりしてしまうと最悪の場合、貴女が消し飛んでしまうのです。こればかりは試すわけにもいかないのでそれを渡しました。それさえ身に付いていたら貴女が巻き込まれることはありません」
「うん、わかった」
 何とも怖い話だね。朱水が真剣な表情で述べるのはそれだけ本当の危険があるからなのだろう。
 そうしてチャイムが鳴るまで再び訓練に励むのであった。


「今日はここよ」
 そう言い、朱水は商店街で車を止めさせた。執事さんは車をゆっくりと停める。
「ここは……」
 私が初めて本当の朱水を見た場所に近い大通りだった。人々が行き交う歩道の向こうに小さな細道がひっそりと存在している。そこにまた私は引き寄せられるかのように視線をくぎ付けにされる。
「そうですね。貴女が初めて戦いに巻き込まれた場所です」
 そう言いながらも朱水は裏の方へと進んでいってしまう。その足は躊躇など皆無であった。
「早くなさい、有」
 未だに車の横に立ち呆けている私を振り向く事無く見抜いた。今の朱水はどんなに呑気な人であっても息を飲むくらいにピリピリしているのが容易に把握できる。
「うん」


 あの日朱水と出会った場所に来た。そこには既に血などは無く、異臭も立ちこめていなかった。まるであの出来事が無かったかのような状態になっていた。
「何もいないね」
 朱水は無言で立ちつくす。何かを探すかのように頭を上下左右させていたが、しばらくして急に朱水が歩き出す。
「こっちよ」
 やはり振り返りもせずに勝手に進んでいってしまう。土に交じった小石を踏みしめる音だけが響き渡る。どんどん緊張感が高まり、私の握りこぶしは自分ではどうしようもないくらい震えていた。
「ナイフをもう持っておきなさい」


 路地裏からさらに裏へと進む道とは言えぬ細道を通ると森の中に広場があった。それにしても臭いがひどい。まるで地面が腐っているような臭いが充満している。
「やっぱり何もいないね」
 しかし朱水は地面の一部を指さした。良く見ろと言うのだろう。
「何? これ」
 そこには何かの跡が無数にあった。
「恐らく人間が襲われたのでしょう。相手は……そうね、四体くらいかしら」
 朱水は地面の抉れている状態を見ただけでそんなことまで分かるらしい。
「だったらその人間は……」
「いえ、残留している気配がまだ濃いわ。まだ近くにいるはずな……!」
 朱水が何かを感知したように途中で口を(つぐ)んだ。
「お出ましね」
 そうして空から人間のようなモノが降ってきた。

「有、貴女はアレだけを相手して」
 そういって指すのは……
「あれって」
 他の使者とは明らかに違う。肌が他のに比べてまだ人間の様に肌色をしている。
「今襲われたばかりの人間でしょう。まだうまく動けないはずです。貴女の相手なら丁度いいでしょう」
 そう言うと朱水は髪をかき上げ、襲い来る使者達を投げ飛ばした。投げられた使者は掴まれた部分を失っている。
「有、しっかりなさい。もう背後にいるのよ!」
 朱水の叫び通りに振り返ると
 ブゥオン、と目の前を腕が薙いでいった。人間に限りなく近い使者が私に掴みかかっていたのだ。
 朱水の言葉が無かったら私は今間違いなくその尋常じゃ無い殺意を籠めた目の使者に掴まれていたに違いない。いや、もしかしたら既に私の命は無かったのかもしれない。

 初めて直面した『死』に、私の体は異様な興奮を覚えていた。勝手に体が動きその腕を避ける時に右足がその背中を蹴りつけていたのだ。

「っく」
 しかし後ろに下がる時に足を木の根か何かに引っかけてしまったのだろう、私は間抜けにも豪快に転んでしまった。ただの女子生徒でしかない私の蹴り等では怯みもしなかった使者は即座に私の方へと飛びかかる。
「有!」
 襲いかかってくる使者を睨み返そうとすると朱水の声が聞こえた気がした。一拍後お腹にとんでもない重みを持つ塊が沈む。口の中に酸っぱい物が広がった。間違いなくおなかのどこかが壊れた音がした。
「っこんのォ」
 本能のままに抵抗しようとする両手は使者の顔を引っ掻いたが、使者はそんな事に怯む事無く私のお腹に乗ったまま首を絞めてきた。
「……っく」
 息が詰まるなんてものじゃない。首の肉が引き千切れるような痛みさえも襲うのだ。反射的に、地面に落としたナイフを逆手に持ち直し、思いっきり首の横から斜めに刃を突っ込んだ。
 殺される、そう恐怖するだけで私は自分の行為に対する一切の抵抗から解放された様だった。
「ギィィィィ」
 断末魔のような声をあげる使者は私の首から手を離し、刺さったままのナイフを抜いた。
 やはりさっきまで生きていたのだろう、鮮血が私の顔に降りかかってきた。見た事も無い大量の熱い血が私の目を流れる。



   その紅いモノを見た私ハ
     何かをオモイダシ
       何カヲワスレテイッタキガシタ



「ウアアアアアァァァァァァァッ」


▽▽▽▽▽

「有!」
 有が使者にのし掛かられた。やはり早すぎたのだろうか。いくら魔だからと言って本能に頼り切った期待は浅はか過ぎたのかもしれない。しかし、彼女の場合はそうすることが最善という結論に何度も行きついたのだった。

 私は有を守ると決めた。しかし彼女がもし私の手に負えないような代物ならばいずれ削強班が私の知らない所で手を下すであろう。そんなことになるくらいならいっそ私の目の前で死期を看取ってあげたい。
 一色朱水としてではなく、彼女の所属する地域の頭首としてそう考えての行為であった。有のためだけで無い、私のためでもある。

 有の下へと駆け寄りたいが間を挟むように使者が立ちはだかる。私の力をもってすれば普通はこのような雑魚は敵にすらならないはず。だが目の前の使者達は今までの雑魚とは違って簡単には消せなかった。消えたとしても何故か即座に復活してしまうのだ。最初に腕を消した使者には今では立派に腕が生えそろっているという状況である。
「邪魔よ!」
 頭をつかみ、首を胴から引き抜く。しかしこの使者達はこの程度では消えない。一瞬にして頭が復元されてしまうのだ。私の手にはたった今引き抜いたその使者の頭がしっかりと存在しているというのに。
「何だって言うの!」
 もぎ取った首を背後から飛びかかって来た使者に全力で投げ飛ばす。
 ボグッと大きな音をしてぶつかった首は、それの何倍もの重さを持つであろう使者を吹き飛ばした。
「しつこい!」
 未だそこにいた使者からのびてきた腕を手首から消し飛ばした。だがまた復活する。
 それにしてもおかしい。この使者達は私に触れられる。
 でもこの使者の事を考えるよりも先に有を助けなければ……

『有を本当に失ってしまう』

 だが、振り向くと勝負は決まっていた。
 使者は血の雨を降らし崩れて、灰となった。私はその光景に違和感を覚えたがそんな事を気にしている場合ではない。
「有、大丈夫?」
 邪魔をしようとする使者の腕を潜りぬけて有へと駆け寄る。

しかし次の瞬間、私は久しぶりに『死』を感じ取った。
 それは恐怖であった。



「ウアアアアアァァァァァァァッ」



 女の子が全力でやっと出せるであろう声量で有は叫んだ。
「有! どうしたの?」
 しかし私は有に近づかなかった。

   否、近づけなかった。

 本能が危険を知らせる。
 アレはマズイと
 チカヨルナと

 さっきまで有がいた場所に、今は途轍もない殺気を放つ魔がいた。
「有……」
 魔と目が合う。
 もはやその目はいつもの有の冷たくも優しい眼ではなかった。
「まさか……覚醒? でも何故今頃……」


 私の声を聞いた有は森の奥へと消えていった。


  私は追うことさえも思いつかなかった。





Prophecy

 暗い部屋に二人の男がいた
「どうやら目覚めた様だが、少々早すぎはしないか?」
 老人は眼鏡を外しながら背後にいる青年に語りかける
「時間は関係ありません。生まれた結果のみが世界に関わるのですから」
 青年は目を閉じながら応えた
「ふむ。しかしやはり解せぬよ。何故……」
「『世界が神を否定した』、ですか? 世界が要求するのは常に『均衡』です。たまたま神が邪魔になったのでしょうね。ですから大昔、我々から神を奪ってしまった」
 青年は瞼を開く
 そこにはただ、黒い玉が収まっていた
「私はそうは考えぬ。神こそが世界を否定したのだ。それ故に我らは今、神の支配下にはいない」
 老人は続ける
「アレが世界に干渉されるようなモノでは困るよ」
「そうでしょうか? 僕は神自身が世界をそのように創ったと思いますがね」
 老人は振り返り青年と同じくただ黒いだけの目を見開いた
「しかし面妖なものよ。『創造』と『破壊』が同じ地より生まれるとはな」
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