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ゴシカ (Gothica) 作者:2bFYiQ

序章 ―― 統一法則は任意の誰かにあらねばならず, それの 別の誰かに覗き込まれたことへの決済力が立つ ひとびとの逐語的な電柱らしさの中で, 関わるように擦りぬけるように白い石

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第 1 部分 *

挿絵(By みてみん)

ギーゼラは 8 月に計 70 回のケースを処理した.〈天使は窓から入ってくる. その時刻は独特であるが, 複数人が精度を回している〉ことには, 明日の午前に承認印が押される予定だ. 作業台横のトレーには鉛筆, 方解石カルサイト, 30 cm 定規が並べられており, 彼はライカ ログの肖像を (ほんとうにライカ ログを写しとったものなのか, そもそもライカ ログとはなになのか も分からないが) 引きだしにしまったままでいる. 責任者が都心に合うマニュアルを断ったことが雰囲気になっていた. ギーゼラはこう考えた.「答え. 答えへ至るには, ともかく様々なものを見聞きすべきだ」

なまえの無い最新の辞書の総ページ数は, ひとびとにしか知られていない. その辞書は今風の作りで ねじはプラスチック製だし, 小さな電光窓は START, END, SUCCEEDED, FAILED の 4 語を表示できる. 白いモダンな掛け時計が布で隠されてしまったプラットホームで, H. M. L. が〈湖に沈んだ星を便利さから守らせるために〉会社が両手に持つ皿に接触した. 山の真上へ寄こされた文面〈この警句アフォリズムが無かった世界と共に〉が, ある小さな運動の火種となった. 一見進歩に見える足どりは 実はどれも絶滅への一手にほかならず, 現代を捨て過去へ戻るべきだ ―― 要はこういう運動であったが, ギーゼラには醜いものに思えたし, 事実, いつもの記号が滞り無く刻印されたことで ひとびとは白けるように安心した (古びた街頭の明滅を所有するひとのスタンスは分からずじまいだ). 冷たい車たちが〈否定的に〉レイアウトした季節は, バチラ, アンカ, ヘドメノ (それぞれバチラ期, アンカ期, ヘドメノ期を司る音) を剥きだしにしたらしい. 接続が押しよせてくる. 行方不明の冒険家が一直線にこちらへ向かってくる. 無言の大きさにギーゼラは耐えられない. 一触即発の危険な雰囲気.

「そこにいる鳥はなんだ」
しぎ……」
「その色を変更せよ. その色を変更せよ」

訪れてきた自分を ……. 反輳はんそうが酷い. ギーゼラはただ 1 冊の文庫本しか持っていなかった. その書きだしはこうだ.「自分の正体が無限の果てにあるならば, 有限の思考しかできない我々は, そこに決して到達できないことになる. しかし, 我々は進まねばならない」繰りかえし読んだので もうボロボロになっている. ダクトの待ちわびているものがどんどん大きくなって, 実験が壊れた. 意味不明な半音が折りかさなる中で大量に発行された そういうありがちな小説ではあったが, 圧倒的な冬が, ギーゼラを突きうごかしていた. でも, この小説もどこまでつことか. そろそろ題名を変える必要があることを, 彼は察していた.

動作として〈単複がもはや排水口でも反射してしまっていることの肯定は, 重すぎるので, さらに単複をダブらせてしまう〉世界システムは垂れ込むように蠕動ぜんどうする. エスカレーターで新種の〈蝶番ちょうつがい〉が見つかった. 5 区 (中央区, 第 1 東半区, 北区, 西区, 南区, 第 2 東半区) の内から 1 区を選ぶ区選択を 多くのひとびとが放免しているのに, ギーゼラはあえて北区を選んだ. 口不調法な夕方で満たされた四重奏団カルテットが, 目もりをおびやかしている. そこがどこでも混んでいる象徴のトラウマは, 逆さまに見える鉄塊らしい. データ・ヘッダーの点線で区ぎられたエリアには, 稀にブナの殻斗 (堅果を包む椀形の器官) が置かれている. 狂った振りをしたプラジオロ区間が 突風のように追いぬいていったとき, てつく視線がギーゼラを刺したが, 彼は動じなかった. A は執拗に隣の価格を占めたあと, 座標へと散岐さんきした. 鳥たちがいっせいに消えた. 去年の温度がジグザグに自転しはじめる.

ギーゼラは, 持って生まれた悪い性分として 頭の良い人物を嫌うところがあり, 自分でもそれを恥じて 直そうと心がけていた. ひとことでいえば, 劣等感を煽られるのである. そうだから, 高名な数学者であるユークリッドが始まったとき, 彼の顔はすこし歪んだ (すぐにその業績の凄さを心から認めたが).

湾から最も湾が近いイベントがあるので, ギーゼラは問題の湾へと赴いた. 夜であった. 花火が打ちあげられるらしい. 露天が販売している色とりどりのビー玉は, そのコンポジションが 屋台裏の圧延機から掠めとったものだ. まるで騙しあいだ ―― 彼は思った. 打ちあげられた花火に対し ギーゼラは背を向けていた. ほかのひとびともそうであった. もはや理性はこういう場所から動けなくなってしまったのだ. 大勢のひとびとが, 夏ではないものに失敗したり 海の回数を決めている中で, ギーゼラは, ひとり異様なことを ―― 答えについて ―― 考えていた.

彼は決して道理に明るくない. ギーゼラが試験で提出したものは凡庸であったし, ちなみに奇しくも 彼の知りあいが, 洗練された (A を利用した) 手法で食事マナーを明快にし, それで最高の成績を取ってしまった. 付近ひとつ当たりの価値が朝に出発したことや 社会が自然では動かないことも, その食事マナーで, 1 種類の食事の色が見つかるからだ. ギーゼラのものと交換される予定の, 鈍ったケースとして置かれうる〈すべての季節に会いたい〉等しさも, 実はこのマナーに基づいている. ともかく ギーゼラは, 特に才能の無い男であった. 一貫して限った天候だとか, 影響を受けとるときの重苦しさも, 実は珍しいものではない. ただ, 彼には独特の感性があった. その感性が時には彼を異様に占めた. 例えば, S. H. I. I. が 35 回, 35 回, 35 回のケースに至ったとき, ギーゼラひとりが「35 回」と呟けた. 子どもであったこと, そういう類へも, ギーゼラの経路は揺るがなかった. もちろん 優秀なひとびとであれば, そもそも それらに事態を簒奪さんだつされなかったので, 彼独自の感性は, 褒めようの無い無価値なものだ. しかし, その独自の感性があるからこそ ギーゼラは, 答えを究極的に渇望するのである.

彼はもう何年も涙を流していない. 最後に泣いたときは朝であった. そして, ギーゼラがそういう男だからであろう, 彼だけがその姿 ―― ルナという ―― に目を留めた.

「時間の中で見つけた」
「社会を事あるごとに点火してください」

それらの新しく明るい言葉に, ギーゼラは黙りこくった. いつでも貧相な映画は注がれるし, 夜は性質のために控えられるものだ. 一般的な自分に似せることは, テーブルの上の小さなバッグに似ている. 多さや距離が美しくならない. 中央区からの「10 年まえを知っていますか」と訊くアンケートに ひとびとは「知らない」と答えており, 誰もギーゼラとルナに気づいていない. ギーゼラには, ルナの言葉が受けいれられなかった. 火は …… 今のものではない …… ―― ようやく彼は, 一語々々を口から押しだすように 低くそういった.

「10 年まえを知っている?」小首をかしげてルナが訊いた. ギーゼラは「あらねばならない」と やはり低く返した.

完全に旅行へ行ったかどうかに関わらず, あなたと私を撒きちらしながら, 大機械が通りすぎた. 答えられるひとに会えたとき, 代わりの顔は「状態」と呼ばれる.

「私は ―― 知っている. ギーゼラも知っている筈だよ」

ルナは, ユリエチアの電動機よりもずっと鮮明であった. 高層に置かれた現代値の席は, 誰も大きくできない. 朝まだきを開発した風向きが並べられる. ひとびとは ユークリッドへの批判をうしろに入れ, グローバルな近さに身を浮かせていた. ギーゼラ以外はルナに気づいておらず, ルナも彼だけを見つめている. ほどけたばかりの自室の海で, ギーゼラはおし黙ったまま 今日を反芻した. ルナの言葉に対し余りにも理解が足りていなかったことに, 彼は気づかない.
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