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良い旅立ちを

短編
あらすじ
 少数派、マイノリティの声がより響くようになった世の中。生きる自由に死ぬ自由、どんな人間であっても、その人権は尊重されるべき。死ぬ権利もまた尊重。そうして、世界の多くの国々で安楽死が認められることとなった。
 
『ようこそお越しくださいました。あなたにとって、良い旅立ちとなりますように』

 安楽死施設、ユーサネイジア・センターに青年は足を踏み入れた。
 どこからか流れてきた自動音声に出迎えられ、青年はそのスピーカーがあるであろう方向へ顔を向けた。しかし、見つけることができず彼は、ふん……、と鼻を鳴らした。緊張を隠すための虚勢だった。声がした瞬間、ビクッとしたことが恥ずかしかったのだ。
 前を向き直した青年は、正面にある受付カウンターに座る女と目が合った。女はニコッと微笑んだ。カウンターには照明が備え付けられているのだろう、その光が女の皺に影を落とした。
 青年は口角を上げようとしたが、やめて、目だけで辺りを見渡した。
 病院の待合室。あるいは大企業のロビー、それか最先端の研究所といった雰囲気だ。黒い大理石のタイルの床、壁は白。青年の後ろ、建物の正面部はガラス一面で、太陽光を大きく取り込んでいる。
 受付カウンターへ歩き出した青年は、ちらりと後ろを振り返った。
 平原とその奥に雑木林が広がっており、一本の灰色の道路が伸びている。その上を走るバスの後部が見えた。
 青年は前を向き直した。鼻から息を吐く。臆したのではないと示すように。

「ようこそお越しくださいました。安楽死をご希望の方ですね」
Nコード
N4656JC
作者名
雉白書屋
キーワード
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ジャンル
ローファンタジー〔ファンタジー〕
掲載日
2024年 06月10日 11時00分
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