醜い惑星
長年、銀河系内の惑星探索を続けてきた宇宙局は、ある惑星に目を留めた。
星番号T-36757。探査衛星が送ってきた惑星全体の画像。雲の切れ間から、かすかに青い部分が覗いていた。
あれは海ではないか――そう分析した宇宙局は記者会見を開き、世界に向けてその発見を大々的に発表した。
反応は上々。地球の環境悪化が進み、地球外移住が現実味を帯び始めたこの時代にあって、『第二の地球』の可能性は人々の胸を大いに高鳴らせた。報道はしばらくこのニュースで埋め尽くされ、世論の熱は日に日に高まっていった。
宇宙局は勢いに後押しされ、次の一手として、より高性能な探査衛星をT-36757へ送り込んだ。その結果、さらに高精細な表面画像の取得に成功した。
……が、その画像を見た科学者たちは、皆一様に顔をしかめた。
「これは……なんというか……」
「……醜いですね」
前回の衛星が送ってきた画像では、ホイップクリームのように滑らかで白く美しかった雲。それが今回は、濁りを帯び、汗疱に荒れた皮膚のような斑模様を呈していた。さらに、雲の下に広がる大地や海も、どこか淀んで見えたのだ。
「まあ……想定の範囲内だろう」
「ですね。ふふっ、テレビの画質が向上して肌荒れが目立つようになった、と嘆くタレントを思い出しましたよ」
「ははは。俗っぽい話だな。だが、我々は科学者だ。真実をつまびらかにせねばならん」
そんな軽口を言えたのも、最初のうちだけだった。
性能を高めた衛星を追加で送り込むたびに、映し出された惑星の姿はより鮮明に、そして一層不気味さと不快感の濃度を増していった。
しかし、宇宙局は世論の熱狂に水を差すことを恐れ、その画像に軽微な加工を施し、美しく見えるよう調整した上で発表を続けた。スポンサーに逃げられては、元も子もないのである。
そして、ついに有人探査計画が始動した。調査チームを現地へ直接派遣する段階に至ったのだ。
選抜された隊員たちは情報漏洩防止のため、世間と同様に『T-36757は美しい惑星』という前提で訓練とブリーフィングを受けていた。
それゆえに、実際にT-36757の軌道に乗ったとき、初めて目にしたその実像に、彼らは言葉を失った。
だが、任務を放棄することは許されない。宇宙船はゆっくりと降下し、惑星の地表に着陸した。そして、ハッチが開かれ、隊員たちが外に踏み出したその瞬間、さらなる衝撃が彼らを襲った。
「隊長……この星、表面が……まるで……うっ」
その地表は、重度の熱傷を負った人間の皮膚のようだった。赤黒くただれ、 ぶよぶよと膿のような黄色い起伏が広がり、不規則な粘性を帯びた水たまりが点在していた。そこからは、沸騰するように泡がぷつぷつと浮かんでは弾け、ねっとりとした音を立てて消えていく。
防護服により臭気は遮断されていたが、隊員たちはその強烈な悪臭を想像してしまい、胃がひっくり返るような感覚に襲われた。次々と嘔吐が始まり、ヘルメットの内側に吐瀉物が飛び散った。よろめき、膝をつく隊員たち。ある者は吐瀉物を拭おうと、必死にヘルメットを撫でつけ、ある者は防護服を掻きむしり、ある者はヘルメットに泥を塗りたくった。調査の続行はもはや不可能――そう判断した隊長が撤退を命じようとした、そのときだった。
空が唸った。黒ずんだ雲が渦を巻き、放屁のような轟音が響いた。そして雨が降り出した。
「酸だ!」
隊員の一人が叫んだ。降り注ぐ雨は、瞬く間に彼らの宇宙服を蝕んでいった。表面から白煙が立ち上り、わずか数秒で繊維が溶け崩れ、肌が露出する。
酸の雨は容赦なく彼らの皮膚を焼き、肉を抉った。隊員たちは悲鳴を上げ、転げ回る。その様子は、まるで雨にはしゃぐ犬のようにも見えたが、それも束の間のこと。やがて次々と動かなくなった。
隊長もまた、その場に膝をついた。立っていられなかった。だが、それは酸の雨の影響だけではない。
地面が震えたのだ。まるで、星そのものが痛みに悶え、醜さに嘆いているかのように――。




