第31話 クランって、どう作るんですか?
復旧作業を終えて城へ戻る頃には、外はすっかり暗くなっていた。夕食を囲んでいても、僕の頭には昼間にオリバーさんから言われたことが残っている。
「コルジさん、どうかしましたか?」
エマさんに声をかけられ、僕は手にしていた木の匙を置いた。ルキアさんとカレンさんも、僕の方を見る。
「あの……クランって、本当に僕たちでも作れるんでしょうか」
「作れるとも」
ルキアさんは迷わず答えた。あまりに早かったので、僕の方が少し驚く。
「主が望むのであれば、何を迷う必要がある」
「正式な組織とするのであれば、冒険者ギルドへ確認するのがよろしいかと存じます」
カレンさんはいつもの落ち着いた声で続けた。ルキアさんが「それもそうだな」と頷く横で、エマさんが首を傾げる。
「クランって、冒険者さんだけの集まりではないんですか?」
「僕も最初はそう思ってました。でも、前にオリバーさんから、荷物を運ぶ人やご飯を作る人がいるクランもあるって聞いたんです」
昼間、城の周りに集まっていた人たちを思い出す。戦える人ばかりではなかったけれど、それぞれが自分にできることをして、壊れた家を直していた。
「では、お母さんも入れるの?」
リナがエマさんを見上げる。ノアも興味を持ったのか、匙を持つ手を止めた。
「それは……」
僕はすぐに答えられなかった。エマさんが料理や裁縫を手伝ってくれているのは確かだけれど、それだけで僕が決めていいことではない。
「僕が勝手に決めることじゃないですよね」
「もちろん、コルジさんが作ることになったら力にはなりたいです。でも、まずはどういうものなのか聞いてきた方がいいと思いますよ」
「はい。明日、ギルドで聞いてみます」
エマさんの言葉に頷くと、ルキアさんは満足そうに腕を組んだ。カレンさんは何を確認するべきか考えているのか、しばらく黙ってから小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドへ入ると、防衛準備で人が溢れていた時よりは落ち着いていた。それでも受付台の奥には書類が積まれ、職員たちはスタンピード後の処理に追われている。
僕たちは列が短くなるのを待ち、いつもの受付の女性へ声をかけた。僕たちの顔を見ると、受付の女性は手元の書類を脇へ寄せる。
「コルジさん。《星の城》の皆さんもお疲れさまでした。本日はどうされましたか?」
「あの、聞きたいことがあるんです」
「はい」
「クランって、どうやって作るんですか?」
受付の女性は一度だけ目を瞬かせた。それから僕とルキアさん、カレンさんを順番に見る。
「クランを作ることを考えているんですか?」
「まだ、そこまでは決めてなくて……僕たちでも作れるのかなって」
「そういうことでしたら、まず仕組みからご説明しますね」
受付の女性は机の上に置かれていた紙を裏返し、空いた面へ簡単な図を書いた。真ん中に冒険者、その周りにいくつか丸を描いていく。
「クランは、複数の冒険者と、その活動を支える人たちで作る組織です。正式なクランとして活動するには、冒険者ギルドへの登録が必要になります」
「冒険者じゃない人も入れるんですか?」
「はい。荷物の管理や運搬、料理、道具の整備などを担当する方が所属しているクランもあります」
オリバーさんから聞いた話と同じだった。昨日、一緒に家を直した人たちの姿が、また頭に浮かぶ。
「現在は《星の城》の3人でパーティ登録されていますね」
「はい」
「この3人を中心に考えているのであれば、クランを作る時に改めて相談してください。名前も、その時に決めれば大丈夫です」
「名を変える必要はないであろう」
ルキアさんが、腕を組んだまま迷いなく言った。
「《星の城》は、すでに我らの名だ」
「わたくしも、その名を気に入っております」
「僕も好きです。でも……」
パーティだった時は、僕とルキアさんとカレンさんの3人で決めた名前だった。クランになれば、そこへもっとたくさんの人が加わるかもしれない。
「まだ、クランに入る人も決まってません」
「そうなんですね」
受付の女性は責める様子もなく頷いた。手元の炭筆を置き、僕の話を待っている。
「エマさんたちや、昨日一緒に家を直した人たちがいます。でも、僕が何か手伝ったからって、僕のところに入らないといけないわけじゃないですから」
「うむ」
ルキアさんも静かに頷き、僕の方へ身体を向けた。今度は、僕の答えを待っている。
「共に歩む者は、自ら選ぶべきだ」
「ご主人様がお選びになるだけではなく、相手にも選んでいただく必要がございますね」
「はい」
カレンさんの言葉を聞いて、少しだけ胸のつかえが取れた気がした。昨日みんなが集まってくれたことと、これからずっと一緒にいることは同じではない。
「でしたら、誰に入ってもらうかを決める前に、考えてみるとよいかもしれませんね」
「何をですか?」
「そのクランで、何をしたいのかです」
受付の女性は、さっき描いた丸の中心を炭筆で軽く叩いた。
「何をするための集まりなのかが分かれば、一緒にやりたいと思う人にも話しやすくなりますから」
「何をしたいか……」
すぐには言葉が出なかった。僕は紙に描かれた丸を見つめながら、これまでのことを思い返す。
お腹を空かせたノアとリナに食事を渡したこと。エマさんの薬を探したこと。焼けた家の代わりに隣の廃屋を直したこと。スタンピードで外壁を守り、昨日は壊れた家をみんなで直したこと。
最初から何か大きなことをしようと思っていたわけではない。目の前で困っている人がいたから、その時にできることをしてきただけだった。
「……困ってる人がいたら、みんなで助けられるような場所にしたいです」
受付の女性は少しだけ表情を和らげ、炭筆を机へ置いた。僕が答えを出すのを待っていた時より、声も柔らかくなっている。
「それなら、まずはその気持ちを大事にしてみてください。正式に登録するかどうかは、それからでも遅くありません」
「はい。ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
ギルドを出たあと、僕は歩きながら《ガチャ》の画面を開いた。クランのこととは別に、もう1つ気になっていたことがある。
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所持貢献ポイント:90
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「あと10ポイントですね」
「すぐに貯まりそうであるな」
「そうかもしれません。でも、ポイントのために何かするんじゃなくて、必要なことをしてたら、そのうち貯まると思います」
「ご主人様らしいお考えでございます」
カレンさんが微笑み、ルキアさんも満足そうに頷いた。僕は画面を閉じ、城へ続く道を歩く。
城へ戻ると、修理を終えた人たちが道具を片づけていた。エマさんは食事の支度をし、ノアとリナは使い終わった桶を洗っている。
「コルジさん、どうでした?」
「クランのこと、聞いてきました」
エマさんたちへ、ギルドで聞いたことを話す。誰に入ってもらうのかも、名前をどうするのかも、まだ何も決まっていない。
「でも、1つだけ考えました」
「何を?」
「困ってる人がいたら、みんなで助けられるような場所にしたいです」
エマさんは少し驚いたあと、穏やかに笑った。ノアとリナは顔を見合わせ、ルキアさんとカレンさんも僕のそばに立っている。
まずは、エマさんたちがどう思うのか聞いてみたい。僕はみんなの顔を見ながら、そう思った。
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