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天国・地獄・大地獄  作者: 瀬良浩介
第一話「序章」

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「天国・地獄・大地獄」-序章-

ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

 もうこの際、こんなサイコパス共とは(たもと)を分かって、山吹(やまぶき)さんと二人で行動しよう。

 この人の謎の身体能力と一般的な倫理観(りんりかん)があれば、いつか無事に出口を見つけられるような気がする。


 きっと山吹さんも、ここにきて地雷女の性根(しょうね)の悪さに気づいたに違いない。

 そら見ろ、あの顔を。ほら、口を開くぞ。

 地雷女め、論破(ろんぱ)されちまえ。

 そして俺と一緒に――


「なるほど。そういうことでしたか」


 ――は?


「それでしたら、この男性を引きずってでも怪物のところへ」


「いや、わざわざ怪物のとこ行ってどうすんのよ」


「え、あ、それもそうですね」


 二人の間で「てへへ」と「こらこら」が逆転している。

 どうしたらそうなったのか誰か説明してくれんか?

 俺の中の唯一の希望、『山吹さんの倫理観』が爆散(ばくさん)した瞬間である。


 こんな異常な空間で生き延びるには、自らも異常をきたさないとならないということなのか。

 鼻血を()き散らしながら「イヤイヤ」と首を横に振る男が哀れでもあり、いつ自分がその立場になるかもわからないという恐怖が、心にナイフを突き立てているようだった。


 そうこうしている内に、気づけばセメントが四人の足元に押し寄せてきていた。

 それが引き金になったのか、男は恐怖の風船がはち切れたかのように、叫びながら身をよじってエレベーターの方へと駆け出した。


 あっと思う間もなく、山吹サチはひらりと受付カウンターの上に飛び乗り、男の背後へと文字通り舞い降りてシャツの襟首を(つか)んだ。

 この人のフィジカルは本当にどうなってんだ。


「いい。そのまま出よう」


 高遠(たかとお)アキハがカウンターを回り込んでエレベーターへと向かう。

 俺も渋々ながら後を追った。だってもう、こいつらについていくしかないじゃんよ。


 エレベーターの向こう側、カラオケ屋の通路に四人がなだれ込む。

 通路はすでに全面が水浸しになっており、行き場のない水がくるぶしの高さまで()まっていた。

 天井から()み出して落ちる水の量はさっきより多い。


「私たちが来た方へ戻るほかないですね」


 山吹サチがトイレのドアを勢いよく手前に開き、その向こうへと男を押し込んだ。


「行ってください」


 山吹サチがドアを押さえてくれている間に、高遠アキハと俺はドアをくぐる。

 その先の空間は、これまでの部屋よりも一段と広くなっていた。


 通路が長く先まで続き、多くの扉と窓が規則正しく並ぶ、どこか懐かしさを感じるこの空間。

 これは学校だ。


 片側には教室の窓、反対は外窓が並ぶが、どちらも向こう側は見えているものの、どこか(よど)んでいる。

 どうせ、ほとんどが偽物の窓なんだろう。

 しかし、ここはこれまでと比べてやたらと扉が多い。まさかあの全部がポータルではないのだろうが。


 後ろで扉が閉まる音がした。

 振り返ると、山吹サチが「生徒指導室」と書かれた扉を閉めたところだった。

 ドアの下部から水が()れてくる様子はない。


 ほっと一息つく間もなく、山吹サチの頭上に(うごめ)く影が見え、俺はぎょっとした。


「山吹さん、上!」


 俺の叫びとともに、それは山吹サチに飛びかかった。

 生徒指導室の真上、天井と壁の角に張り付いていたのは、ぼろ布をまとった「人のようなもの」だった。


 山吹サチの両肩を鷲掴(わしづか)みにしたそれが地面に立つと、身の(たけ)は二メートル以上あると見えた。

 異様だったのは、布からはみ出した肩周りだけが、やたらと筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)なところだ。

 胸から下、腰周りや下肢(かし)は身長に対してバランスが取れているが、肩幅が異様に広く厚みもある。

 恐ろしいほどの逆三角体型だ。


 頭髪を含め、体毛はいっさい見当たらない。

 そのつるりとした頭部の(ひたい)の部分には、角のように数センチ隆起(りゅうき)した部分が対になっていた。

 見れば見るほど心の底から恐怖が()いてくる容姿だ。


 これが――。これが言っていた『怪物』なのか?


「しまった、そうか、そっちか!」


 高遠アキハが何か叫び、俺の肩を強く引っ張りながら言った。


「あっち!ポータルがある!」


 助けなくちゃ。その言葉は(のど)につかえて出ることはなかった。

 だってあんな異形(いぎょう)の怪物を相手に何ができる?

 あの山吹サチですら、怪物の両手をふりほどくことができないのに。


「私はいいです!行って!」

12 へつづく


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