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「天国・地獄・大地獄」-序章-
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
もうこの際、こんなサイコパス共とは袂を分かって、山吹さんと二人で行動しよう。
この人の謎の身体能力と一般的な倫理観があれば、いつか無事に出口を見つけられるような気がする。
きっと山吹さんも、ここにきて地雷女の性根の悪さに気づいたに違いない。
そら見ろ、あの顔を。ほら、口を開くぞ。
地雷女め、論破されちまえ。
そして俺と一緒に――
「なるほど。そういうことでしたか」
――は?
「それでしたら、この男性を引きずってでも怪物のところへ」
「いや、わざわざ怪物のとこ行ってどうすんのよ」
「え、あ、それもそうですね」
二人の間で「てへへ」と「こらこら」が逆転している。
どうしたらそうなったのか誰か説明してくれんか?
俺の中の唯一の希望、『山吹さんの倫理観』が爆散した瞬間である。
こんな異常な空間で生き延びるには、自らも異常をきたさないとならないということなのか。
鼻血を撒き散らしながら「イヤイヤ」と首を横に振る男が哀れでもあり、いつ自分がその立場になるかもわからないという恐怖が、心にナイフを突き立てているようだった。
そうこうしている内に、気づけばセメントが四人の足元に押し寄せてきていた。
それが引き金になったのか、男は恐怖の風船がはち切れたかのように、叫びながら身をよじってエレベーターの方へと駆け出した。
あっと思う間もなく、山吹サチはひらりと受付カウンターの上に飛び乗り、男の背後へと文字通り舞い降りてシャツの襟首を掴んだ。
この人のフィジカルは本当にどうなってんだ。
「いい。そのまま出よう」
高遠アキハがカウンターを回り込んでエレベーターへと向かう。
俺も渋々ながら後を追った。だってもう、こいつらについていくしかないじゃんよ。
エレベーターの向こう側、カラオケ屋の通路に四人がなだれ込む。
通路はすでに全面が水浸しになっており、行き場のない水がくるぶしの高さまで溜まっていた。
天井から沁み出して落ちる水の量はさっきより多い。
「私たちが来た方へ戻るほかないですね」
山吹サチがトイレのドアを勢いよく手前に開き、その向こうへと男を押し込んだ。
「行ってください」
山吹サチがドアを押さえてくれている間に、高遠アキハと俺はドアをくぐる。
その先の空間は、これまでの部屋よりも一段と広くなっていた。
通路が長く先まで続き、多くの扉と窓が規則正しく並ぶ、どこか懐かしさを感じるこの空間。
これは学校だ。
片側には教室の窓、反対は外窓が並ぶが、どちらも向こう側は見えているものの、どこか淀んでいる。
どうせ、ほとんどが偽物の窓なんだろう。
しかし、ここはこれまでと比べてやたらと扉が多い。まさかあの全部がポータルではないのだろうが。
後ろで扉が閉まる音がした。
振り返ると、山吹サチが「生徒指導室」と書かれた扉を閉めたところだった。
ドアの下部から水が漏れてくる様子はない。
ほっと一息つく間もなく、山吹サチの頭上に蠢く影が見え、俺はぎょっとした。
「山吹さん、上!」
俺の叫びとともに、それは山吹サチに飛びかかった。
生徒指導室の真上、天井と壁の角に張り付いていたのは、ぼろ布をまとった「人のようなもの」だった。
山吹サチの両肩を鷲掴みにしたそれが地面に立つと、身の丈は二メートル以上あると見えた。
異様だったのは、布からはみ出した肩周りだけが、やたらと筋骨隆々なところだ。
胸から下、腰周りや下肢は身長に対してバランスが取れているが、肩幅が異様に広く厚みもある。
恐ろしいほどの逆三角体型だ。
頭髪を含め、体毛はいっさい見当たらない。
そのつるりとした頭部の額の部分には、角のように数センチ隆起した部分が対になっていた。
見れば見るほど心の底から恐怖が湧いてくる容姿だ。
これが――。これが言っていた『怪物』なのか?
「しまった、そうか、そっちか!」
高遠アキハが何か叫び、俺の肩を強く引っ張りながら言った。
「あっち!ポータルがある!」
助けなくちゃ。その言葉は喉につかえて出ることはなかった。
だってあんな異形の怪物を相手に何ができる?
あの山吹サチですら、怪物の両手をふりほどくことができないのに。
「私はいいです!行って!」
12 へつづく
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