第88話 脱出の顛末
俺は鱗と甲殻でモンスターを撃退していく。
攻防はほんの数十秒で、ヘリがアースタワーを離れるほどに治まった。
やがて追撃が完全に途絶える。
ところが安堵したのも束の間、今度はタワーから蔦が伸びてきた。
驚異的な速度で迫る蔦は、瞬時に機体へと絡み付いてくる。
風防が砕け散って、機体全体が歪むような音を立てた。
「おいおい、ここまでやるかよ。たった三人のドロップアウトくらい見逃してくれないかね」
俺は呆れながら蔦を掴むと、力任せに引き千切った。
人外と化した腕のおかげで雑草のように分断できるが、蔦はそれ以上のペースで次々と伸びてくる。
ミアナの魔術も効き目が薄い。
火炎や雷撃でも表面が焦げるだけだ。
魔術的な耐性を有しているらしい。
そのうち機体から不具合を知らせるアラートが発せられた。
墜落の危険を知らせるものだ。
機体後部が炎上し始めて、プロペラの回転も怪しくなってくる。
舌打ちした俺は、ふと頭上を見やる。
注目したのはアースタワーの頂上だった。
どこかの大企業のシンボルマークがあるはずの位置に、真っ赤な目を持つ蛸がへばり付いていた。
その巨躯は植物のような質感で、伸ばされた八本の脚は、枝分かれしてタワー全体に根付いている。
(あれが、迷宮の正体……)
呆然と眺めていると、植物の蛸と視線が重なった、気がした。
直後、ヘリが機能停止に陥った。
蔦に引き寄せられながら落下を始めて、勢いのままに外壁に衝突する。
そこから壁を削りながら落ちていった。
視界が激しく回転する中、地上が一気に近付いていくのが見える。
念願の地上だが、この状況で喜べるほどポジティブではない。
絡まった蔦は、壁面から剥がれながらも機体に巻き付いてくる。
内部の俺達を潰そうとしているようだ。
絶体絶命の中、機体がどこかに激突して軽くバウンドした。
タワー下部にできた蔦の密集地帯に引っかかったのだ。
もしこれがなければ、地上にぶつかって爆発四散するところだった。
(今しかないな)
俺は痛む身体に鞭を打って、タワー衝撃の際に気絶したミアナとイーサンを抱えた。
そのまま三人で圧縮されるヘリから抜け出す。
蔦の上に巣を作る鳥のモンスターの横を急いで通過して、フロア内に転がり込んだ。
振り返ってヘリに注目する。
悲惨なまでに変形した機体は、側面から燃料を漏出させていた。
俺は腰の拳銃を手に取って発砲する。
弾丸の命中で引火したのを視認し、同時にミアナとイーサンに覆い被さる。
次の瞬間、大爆発が起こった。
機体に絡まった蔦が炎上して狂ったように暴れ出している。
巻き込まれた鳥のモンスターもいい具合に炙られていた。
ヘリにはたっぷりと燃料が付着していた。
そう簡単には鎮火しないだろう。
もっとも、あれが迷宮本体にとって致命傷となるとは思えない。
所詮はちょっとした嫌がらせではないか。
それでも仕返しができたのは良かった。
胸の中を突き抜けるのは、間違いなく爽快感だろう。
燃え上がるヘリと蔦を眺めていると、上空からサイレンのような音が響いてきた。
ただの直感だが、頂上の植物蛸が発したものではないか。
サイレンからは生物の怒りが伝わってきた。
「……ざまあみろ、クソッタレ」
頭部から出血する俺は。吐き捨てるように呟く。
そして、近くに転がる煙草の箱を手に取るのであった。




