第40話 名医の決断
翌日の昼、俺は占領した一室で出発の準備をしていた。
風呂に入って伸びかけた髭も剃り、血と汗に汚れた服も着替えた。
すなわち気分は上々である。
窓際に立つ俺はシャツの袖をめくる。
露出した右腕は医療用の義腕となっていた。
イーサンの手術によって新調されたものである。
前腕部の穴は跡形もなくなり、機械部分は白いカバーで保護されていた。
本来はここに人工の皮膚を張り付けて、境目を綺麗に縫合する。
一見すると義腕だと分からないようになるのだ。
今はそこまでの処置は不要なので、カバー部分が露出していた。
そんなカバーに指をかけて外すと、精巧な内部機構が現れた。
その中央部を、不格好に捩れた数本のコードが縦断している。
それは腕に沿うようにして伸びていた。
一部はテープで固定されている。
無理やり押し込んでいるせいで、カバーの着脱で引っかかっていた。
明らかに後付けされた痕跡だ。
もちろんイーサンの処置ではない。
これは俺が昨晩のうちに改造したものである。
仮眠の後の暇潰しで着手したのだ。
フロア内の電化製品を分解し、そこから拝借した部品を使って改造している。
手のひらから高圧電流を叩き込めるようになっていた。
バッテリーは脇腹の小物入れスペースに内蔵してある。
過去にも何度か採用した改造で、手軽に搭載できる点を気に入っていた。
威力もなかなかで、ここぞという場面で活躍してくれている。
ただの医療用の義腕では不安なのでパワーアップさせてみたのだ。
モンスターを相手にどこまで通用するか分からないが、期待しておこうと思う。
意気揚々と部屋を出るとそこにはミアナが待っていた。
彼女も出発の準備を完了させているようだ。
「イーサンはどうだろうな」
「魔力反応からして閉じこもっているようだ」
医務室の前を通りかかるも、何の音もしない。
結局、イーサンとはあれから一度も会話をしていなかった。
葛藤の末、医者の責務を優先したということだろう。
それならば仕方ない。
俺とミアナは二人で下り階段へ向かう。
その時、医務室の扉が勢いよく開かれた。
見ればイーサンが飛び出してきたところだった。
彼は俺達の前へ駆けてくると、必死な様子で懇願してくる。
「待ってくれ。僕も、同行させてほしい」
俺はミアナと顔を見合わせた後、手を差し出した。
「オーライ、大歓迎さ。一緒に頑張ろうじゃないか」
「……ありがとう」
イーサンは一言呟いて俺の手を握る。
こうして俺達は、新たな同行者を仲間に加えたのであった。




