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迷宮探索紀行 ~世界一の高層ビルが鬼畜ダンジョンになったらカオスすぎた~  作者: 結城 からく


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第38話 傭兵の説得術

 義体を調整するイーサンを横目に、俺は考えを巡らせる。

 この男は医者の役割に執着している。

 間違いなく善人だが、明らかにラインを越えた徹底ぶりだった。

 そこまで突き詰める必要性はないはずだ。

 しかし本人は微塵も妥協しようとはしない。

 どれだけ正論を重ねたところで意味はないだろう。


 できればイーサンは同行者に加えたかった。

 彼の医術は必須だ。

 ここで失うのはあまりにも惜しい。

 時間をかけてでも協力関係を結びたい。


 とは言え、生半可な説得は通じないのは目に見えていた。

 そうなると手段に一工夫を加えねばなるまい。

 ややリスキーではあるものの、積極的に心を揺さぶりにかかった方がよさそうだった。

 基本的に武力行使が得意な俺だが、話術もそれなりに自信がある。


 方針を決めた俺は、さっそく大げさに鼻を鳴らした。

 怪訝そうなイーサンを一瞥し、嘲るように指摘してやる。


「理性の崩壊にビビっているんだろ? この部屋から出た瞬間、モンスターになるんじゃないかと思っている」


「…………」


 イーサンは作業の手を止める。

 頭部のイソギンチャクが少し蠢いた。

 何も言い返してこないが、それこそが最たるリアクションである。


 やはり図星だったらしい。

 イーサンが医者としての責務を重視しているのは嘘ではない。

 その上で自我を大切に思っている。


 至極当然の反応だろう。

 誰だってそうだ。

 自分という存在を守りたいもので、その感情がイーサンにも備わっているだけである。

 俺やミアナだって自分の命を大切にしている。


 イーサンの場合、医務室そのものが精神的な命綱なのだ。

 この部屋が心の平穏を象徴しているため、出て行きたくないのだった。


 ミアナが寄生を止める処置を施したが、それも完璧ではない。

 本心もよく分かっているからこそ、余計に不安なのだと思われる。

 部屋にいる間は正気でいられると思い込むことで、イーサンは安心を得ていた。


 それらを理解した上で、俺は冷徹に指摘を重ねていく。


「気持ちは分かるが、ここにいても完治はしないぜ。医者として活躍するにしても、積極的に患者を探し回る方が建設的と思うがね」


 アースタワーは現在進行形で変貌し続けている。

 あちこちに凶悪なモンスターが発生し、建物の構造自体も歪みつつあった。

 今は安全地帯となっている医務室も、いつ崩壊するか分かったものではない。


 それがなくとも、イーサンの頭部にはさらなる処置が必要だった。

 ここでやれることは限られているのだから、大きな施設で手術を受けるべきだ。


 俺達と一緒に迷宮を下り続けることで、道中の負傷者を救うこともできる。

 医務室に居座って待つのも良いが、どうせここまで来る人間なんていない。

 何にしても、医務室を去って地上を目指すのがベターだろう。

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