第35話 目覚める名医
その後、俺達は医務室のフロアで時間を過ごした。
話し合った結果、イーサンが目覚めるまで待つことになったのである。
なるべく急ぎたいものの、彼を無理に起こすことはないだろう。
それで体調が悪化してモンスターになられても困る。
せっかくの空き時間なので、俺はフロア内の物資を調達し、ニュース番組やインターネットから情報収集を行った。
各国の政府は、迷宮の対応に困っているらしい。
前代未聞の大事件だ。
即決できる方がおかしい。
そういった展開になるのは自然だろう。
どこかの迷宮にミサイルが飛ばされたが、別の国が迎撃したそうだ。
犯人捜しは済んでいるものの、実行した国が否認しているという。
政治問題はファンタジーが絡んでも健在らしい。
いつものように他人事ではいられないのが辛いところであった。
(そのうち戦争でも起きるんじゃないか?)
現在、アースタワー取り壊しの案は少数派らしい。
この国の政府は、隔離して研究対象としたいそうだ。
俺にとっては朗報であった。
問答無用でミサイルをぶち込まれると死んでしまう。
せめて脱出するまで待ってほしい。
端末で情勢を調べていると、ミアナが声をかけてきた。
どうやらイーサンの意識が戻ったらしい。
俺はさっそく医務室に戻った。
そこにはベッドで上体を起こしたイーサンがいた。
念のために拳銃に触れつつ、俺は彼に声をかける。
「おはよう。良い夢でも見れたかい?」
「ここは……」
「あんたの大好きな診察室だ。さあ、早く起きてくれ」
そう言って促すと、イーサンはよろめきながら立ち上がった。
彼はおずおずと白衣の崩れを直す。
顔がイソギンチャクなので分かりにくいが、少し呆けているようだった。
俺は彼に尋ねる。
「調子はどうだ?」
「悪くない……いや、かなり好調だ」
イーサンは静かに述べる。
無理している様子はない。
ミアナの処置は成功したようだった。
それは事前に分かっていたが、やはり本人の口から聞くのは違う。
胸に手を当てたイーサンは俺に頭を下げる。
「ありがとう。おかげで正気を保てそうだ」
「礼なら彼女に言ってくれ」
俺は視線をミアナに送る。
イーサンは彼女に感謝の言葉を告げた。
「助かったよ」
「気にすることはない。私にとっても良い経験になった」
ミアナは冷静に述べる。
彼女は研究者気質だ。
イーサンに気負わせないための返しだろうが、本音も含まれているだろう。
(もう大丈夫だな)
俺は拳銃から指を離す。
ひとまずイーサンは無事だった。
豹変する兆しは見られない。
改めて彼とは協力できそうである。




