第29話 奇妙な問答
拳銃を構える俺は視線を巡らせる。
そこそこ狭い室内には薬品棚が並んでいた。
他の医療用品も種類別に保管されている。
端には綺麗なベッドもあった。
それらだけを見れば、何の変哲もない部屋だ。
唯一の異常は、奥にいた。
キャスター付きの丸椅子に座ったその男は、俺達を静かに眺めている。
男は水色のシャツにスラックスという格好で、上から白衣を羽織っている。
痩せ身で物静かな雰囲気だった。
そして、頭部がイソギンチャクだった。
異形ナースと同じ状態である。
行儀よく座っているが、明らかにモンスターであった。
俺は拳銃を男に向けると、引き金にゆっくり力を込めていく。
「おいおい、人間が出迎えてくれると思ったんだがな」
「撃たないでくれ」
男が掠れた声で言う。
意外としっかりとした声音だった。
俺は予想外の反応に少し驚く。
そのまま拳銃を下ろさずに質問する。
「今、喋ったのか?」
「他にいないだろう。間違いなく僕が発言した」
男は胸に手を当てて述べた。
椅子から動こうとしない。
急な行動を取れば、俺に撃たれると理解しているのだろう。
自分が無害であることを徹底して主張している。
俺は一瞬だけミアナを見やる。
照準をイソギンチャクに合わせつつ彼女に尋ねた。
「人間の言葉を使って騙し討ちするモンスターか?」
「寄生されれば、高度な知能は失われる。相手を騙すような行為はできないはずだが……」
ミアナも困惑しているようだ。
どうやらこのような個体はレアらしい。
いつでも魔術を使えるようにしているが、俺と同じで対応に迷っている。
「銃を下ろしてくれ。事を荒立てるつもりはないんだ」
男は再び主張した。
演技ではなく、本当に戦うつもりがないようだった。
もっとも、それと信用はイコールではない。
俺は引き金から指を外さずに追及する。
「確かに殺気はないようだが、そのビジュアルはアウトだぜ」
「自分でも分かっている。好きでこの外見を選んだわけではない」
男は毅然と反論する。
流暢な喋りに少し悔しげな色が混ざっていた。
グロテスクな見た目を自覚しているのだろう。
またもや俺はミアナと顔を見合わせる。
どうにも拍子抜けしてしまう。
まさかここまで話が通じるとは思わなかった。
どこかでボロが出るのではないかと考えたが、頭部の形状を除くとただの人間である。
「とりあえず座ってほしい。来客を立たせたままにしたくない」
男は冷静に俺達を促す。
まるで診察を受けるかのような気分だ。
よく分からないが、もう少し会話を試みてもよさそうである。




