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1-7子供たちの現状


 昨夜娼館のお姉さんに手取り足取り教わったテクにエレーナは轟沈する。


 オレは前戯を頑張り過ぎてしまったようです。


 寝ようと思ったがパオーンを自己主張するモノが許してくれません。

 汗ばんだエレーナの身体はタオルで拭く度にビクッと震える。

 急に寝返りを打ったエレーナの背中もタオルで優しく拭いていると、イタズラしたくなってしまう気持ちを抑え、引き締まったウエストからお尻を拭いた。


 エレーナは着痩せするらしく、形のいい大きな胸からウエスト、お尻のバランスは芸術的だと思える。


*****


 あまりの気持ち良さに目覚めると、パオーンしているモノはエレーナの左手で擦られている。

 オレが髪を撫でると、エレーナはビクッと身体を震わせバツの悪そうな表情をしながら顔を上げた。


「おはよう、と言うにはまだ早いと思うよね」

「……昨日はごめんなさい」

「昨日はいろんな事があったから疲れて当然だよ。もう少し眠ろう」


「はい」

 また眠ろうとしているのに、エレーナは左手をパオーンしているモノの上に置いたままオレの左腕を枕にしている。


「あの……触られたままだと眠れないのですが」

「え! 触られるのは嫌いですか? 昨年結婚した近所のお姉さんは、旦那さんがとても喜ぶと言っていましたが……ま、まさか男色だったのですか?」


「違います。一昨日の晩は娼館に行きましたし……」

 答えた後にしばらく間があり、エレーナはいきなりパオーンしているモノを左手で握り潰そうとしました。


「痛い! だってあの時はエレーナの魅力に気付かなかったから。もう二度と行きません!」

 オレは飛び起きながら必死に弁解すると、優しく擦ってくれました。


「信じてもいいのですね?」

「もちろんです。オレもエレーナを信じてもいいのですね?」


「はい! 圧倒的な強さを持っているのに決して奢らず、困っている人を決して見捨てないレインに私は一生付いて行きます。盗賊にレインが斬り殺されたと思った瞬間、初めて人に対して殺意を込めた魔術を使いました。神父様から言われて気付いたのですが、教会で私を二度も置いて行ったのは、休ませるためと危険な目に遭わせないためだったのですよね。レインの気遣いも知らずに怒ってばかりで、本当にごめんなさい」


 エレーナは目に涙を浮かべながら謝罪する。


「もう済んだ事です。ところで、エレーナは魔獣狩りに行った事はある?」


「冒険者を目指していた私は二年前に一度だけ第一防壁の外に行きました。そこで初めて魔獣と戦いましたが、お父さんがいなかったら危なかったと思います。D級以上の冒険者が喜ぶ魔ウサギに破裂空気弾を何度も外してしまったのです。それで冒険者を諦めてギルド職員になったのです」


「諦めるのは早いと思う。オレは十二歳の時に初めて一人で狩りに行き、弓で猪を狩ろうとして失敗した。物凄い勢いで突っ込んで来た猪に弓を二回外して、小さい方を漏らしながら反射的に防御魔術を張って助かった。ところで、破裂空気弾って、盗賊に使った?」


「……はい。でも、殺す気で放ったのに絶叫していました」

 エレーナの悲しそうな表情にオレは胸が苦しくなってしまう。


「エレーナの放った破裂空気弾は致命傷になっていましたよ。盗賊が絶叫したのはオレが死なないようにヒールを掛けた後に両手首を折ったからです」


「……どうしてそんな面倒な事をしたの?」

「いくら悪人だからと言っても、エレーナに人を殺したという重荷を負わせたくなかった」


 エレーナは何かのスイッチが入ったように何度もキスをして、唇が痛くなると、ベルタがオレたちを起こしに来るまでデレてしまい、ずっとオレに甘えている。


 オレは昨晩のお風呂から気になっていたシスターリーチャについて聞いてみる。

 シスターリーチャはエレーナの涙ながらの言い訳で架空のシスターだと判明した。

 何となくベルタの入れ知恵っぽい気はしたが、もちろん責める気はない。

 むしろ、オレの方がエレーナに感謝しなければならないと思う。


「責めるつもりはないよ。ほら、もう泣かないで。エレーナはいつも綺麗だけど、笑っている時の方がオレは好きだな」

 エレーナは素早くシーツで涙を拭いてオレを強く抱き締めた。



 エレーナはたった一晩で変わってしまった。


 父親のコンラッドでさえも呆然とするほどに。

 エレーナの変わり様は馬車で迎えに来たユリウスですらプチフリするほどだ。

 カミル神父は何を勘違いしたのか、ニコニコしている。


 カミル神父は教会に着くとすぐに全員を集めた。


 全員と言っても四人だけだが……オレがエレーナと結婚する事、当分の間はリンデール市に滞在する事、夕方から夕食までの出来事を発表する。

 一番驚いていたのはオレと視線を合わせなかったシスターニコラだった。

 続けて、カミル神父はオレの監視役をシスターニコラに命じる。


 シスターニコラは真剣な眼差しで少し離れた位置から、オレの一挙手一投足を監視する。

 教会の中庭のテーブルで薬の調合を始めると、シスターニコラは興味が湧いたのか、スカートをしっかりと押さえながら近付くが、オレに話し掛ける事はなかった。


 薬の調合道具を片付けると、見習い神父が血相を変えて走って来た。


「――レ、レイン様、重病人です」

 急いで走って来たのか、見習い神父は片腹を押さえている。


「病人はどこですか?」

「ち、近くの、肉屋さんの前です」

「私が案内します。フランツさんのお店ですよね?」

 シスターニコラが確認すると、見習い神父は何度も頷いた。


 スカートを摘まんで走ろうとするシスターニコラを無理矢理おんぶして、オレは大声を上げながら大通りを全速力で滑るように走る。


 走り始めてから右足の下に小さな【障壁】を張り五センチほど浮かせている。

 怖がるシスターニコラに指示してもらいながら三百メートルほどを全力で走り、人だかりのできている近くでシスターニコラを降ろす。


「退いてください! 魔術士です!」

 人だかりを掻き分けた先には、六歳くらいの痩せ細った女の子が血反吐を吐いて咳き込んでいる。


「何があったのですか?」

「……この女の子が道に飛び出して、騎兵隊の馬に撥ねられた」

 人の良さそうなお爺ちゃんが言い難そうに教えてくれた。


「分かりました。ありがとうございます」

 オレは内臓が破裂しているかも知れないと思い、女の子のお腹に全力で魔力を込めた【解毒ヒール】を掛ける。


「他にどこが痛い?」

「頭が痛い……ゲホッ」

 女の子は再び血反吐を吐き、オレはすぐに頭を触ってたんこぶの辺りに【ヒール】を掛ける。


 目撃者から女の子を撥ねた騎兵の特徴を聞き、オレはシスターニコラに薬を渡して女の子を家に送るように指示をする。


「レイン様はどちらに?」

「犯人捜し」


 オレは怒りを爆発させながら大隊本部に向けてダッシュした。



 大隊本部の門を潜ろうとすると、二人の歩哨に行く手を阻まれる。


「私は昨日大隊本部にお邪魔した者です。クレメンテ大隊長とお話があります。先程、騎兵隊の馬に女の子が撥ねられました。その犯人捜しです」


「おい! 撥ねられるガキが悪いんだろ! お前、何……」

 歩哨の一人が剣を抜いた瞬間、オレは怒りを爆発させて歩哨を蹴り飛ばす。


「あんたも奴のようになりたいか?」

 もう一人の歩哨は必死に首を横に振る。


「早く大隊長を呼んで来い!」

 必死に頷いた歩哨はダッシュで大隊本部の建物へと向かったが、五分経っても大隊長は現れない。


 怒りを抑えられなくなったオレは大隊本部の敷地を覆う範囲に大雨を降らせる魔術を掛けた。


 いきなり激しい雨が降り始め、オレに蹴られた歩哨は詰所に向かって這って行き必死に鐘を鳴らしている。

 更に雨足を強めようとすると、合羽を着た一人の男が大隊本部の建物が出て来た。


「大隊長は冒険者ギルドに行っております。私は副大隊長のヴィルヘルムと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「先程の衛兵からは何も聞いていないのですか?」

「ただ、大隊長を呼んでくれ、と……」

「もう少し雨の量を増やした方がいいですか?」

「本当にそれしか聞いていないのです!」


 副大隊長は雨に打たれながら慌てている。


「先程、街中で騎兵の馬に撥ねられて瀕死の女の子がいました。今すぐその犯人を見付けてください。また時間稼ぎしようとしたら、今度は雷です。何人死人が出ようが構いません。ミノス島の魔術士を怒らせたのですから、国王も許してくれるでしょう」


「す、すぐに捕まえ、ここに連れて参ります!」

 副大隊長は頭を下げると、慌てて大隊本部の建物へと戻って行く。


 雲を散らして大雨を止めると、すぐに晴れ間が戻る。


 五分もせずに副大隊長と一緒に喚き声を上げながら、二人の兵士に両脇を抱えられたフルプレートを着た若い兵士が引き摺られて来た。


 オレは三十代の兵士の顔を覗き込む。


「どうして女の子を撥ねたのに逃げた?」

「ガキが飛び出して来たんだ! 俺は悪くない!」

「そうか……お前も馬に撥ねられてみるか? 副大隊長、一番頑丈そうな馬を連れて来てもらえますか?」

「はい!」


 副大隊長は厩舎に向けて走り出すと、フルプレートの兵士はまた喚き出す。


「お前が撥ねた女の子は血反吐を履いても泣き叫ばなかった。防具を脱ぎたくしてやるよ」

 オレは右手に強い【炎】を出して股間に近付ける。


「分かった! 脱ぐから止めてくれ」

 フルプレートの兵士は一瞬の不意を突いて両脇の兵士の拘束から逃れ、大隊本部の建物の方に走り出した。



 王国軍の馬車で駆け付けたクレメンテ大隊長とユリウスは、大隊本部の惨状と馬に踏まれて絶叫する兵士を見て頭を抱える。


 大隊長室で副大隊長も交えた四人の話し合いで、女の子を馬で撥ねた兵士は三ヶ月の営倉入りの後に馬の世話をする馬番に降格、オレはリンデール大隊で触れてはいけない危険人物に認定されました。

 ユリウスが言うには、ギルド前で大隊長を見送る際に異常な雨雲を見てすぐにオレだと気付いたらしく、大隊本部と同じ方向だったので大隊長の馬車に乗せてもらったという。



 王国軍の馬車で教会に着くと、カミル神父が教会前で待っていた。


 ユリウスは一旦ギルドに戻るというので、オレは馬車を降りてカミル神父と一緒に教会に入る。

 騎兵の馬に撥ねられた女の子の両親は城壁外の農園で共働きらしく、シスターニコラは仕方なく女の子を背負たまま教会に運び、今は治療室で横になっている、とカミル神父が教えてくれた。


 治療室に女の子の様子を見に行くと、女の子はシスターニコラと話をしている。

 女の子はオレを見ると起き上がろうとしたので、オレは慌てて止めた。


「どこか痛いところはある?」

「もう痛くないです。レイン様? ごめんなさい」

「謝らなくていいんだよ。もう怖くないから大丈夫。お名前といくつなのか教えてくれるかな?」

「……ルチア、七歳」

「ルチアちゃんは凄いね。痛かったのに泣かなかった。偉い」


 ルチアと名乗った女の子は嬉しそうに笑い、オレたち三人はしばらく話をした。

 空腹だったルチアはふらついて通りに出てしまい、騎兵の馬に撥ねられたようだ。


 温めた山羊の乳を飲みながらシスターニコラやルチアの話を聞き、オレは子供たちの現状を知った。


 シスターマーサが用意してくれた黒パンとスープを食べたルチアはそのまま眠ってしまい、オレはルチアに付き添いながら一人で考え込んでしまう。

 共働きの多い平民の家庭では日中誰も子供たちを見る人がおらず、食事は一日一食か二食が普通のようだ。


 子供でも要領のいい子は昼食と僅かばかりのお駄賃を目当てにお店のお手伝いなどをしているが、ルチアのようにやせ細った子供は何処のお店でも敬遠されてしまうらしく、盗み等の犯罪に手を染めたりして、犯罪組織に使い捨てにされてしまう事が多いと聞く。


 カミル神父は信者たちと雑談していたので、オレは孤児院の子供たちと一緒に教会内を掃除するシスターマーサや年配のシスターに、先程思い付いた学校を作る案を相談してみた。


「シスターコニーの言いたい事は分かりますが……もっと身の丈に合った事から始めませんと、孤児院の運営までも危なくなります」

「それはそうですが、神に仕える者として子供に優劣を付けて選ぶなんて……」

 年配のシスターはコニーという名前のようだ。


「あの……とりあえず、先ずは資金と土地の確保ができればいいですよね。お二人に相談してやる気が出てきました。時間の空いた時にでもカミル神父さんと相談してみてください。私も知り合いに相談してみます」

 シスターコニーとシスターマーサは無理するなと言わんばかりに心配そうにオレを見ていたが、オレは爺ちゃんと婆ちゃんに教わった知識と技術がある。


 そうだ! 失敗しないように、みんなを巻き込もう……協力をお願いしよう。



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