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12月第4週(5)

 早朝に自分の家を失った私は、そのまま浅井家へと向かった。浅井君の強い勧めもあったし、以前にも一度泊まったことがあったから私もそうしやすかったのかもしれない。

「そう言えば浅井君、浅井君の免許って普通二輪じゃなかったっけ?」

「…気にするな。」

「ねぇ浅井君、私たちノーヘル2人乗りだったけどそれっていいのかな?」

「…気にするな…!」

 なんて言い合いながら朝っぱらから浅井家を訪問する。浅井君の反応がいちいち可愛い。


浅井家はバイク通学という状況が示す通り市の中心からは遠いので、今回の被害は受けていなかった。久々に見る浅井家のはずだけれど、なぜか帰って来たような気もする。

「ご両親は?」

「まだ寝てるよ。この家で休日の午前中に活動してるのは僕だけだ。」

 なんというだらけっぷり。恐るべし浅井家。

「神埼は人のこと言えないだろ。」

「何故わかった?!」

 浅井君は絶対にエスパーだ。ケーシィというあだ名は伊達じゃないな…。


 私は彼の部屋へと案内される。

 部屋を入ると、まず驚かされた。以前来た時も片付いた部屋だったが、今の彼の部屋は片付き過ぎていたのだ。本当にここで人が生活しているのか不安になるレベル。ベッドも机もクローゼットも本棚も、モデルルームのような片付き具合である。それについて彼は何一つ疑問に思っていないようで、何事もなかったかのようにクローゼットからコートを取りだす。あれ、帰って来たのに?

 あ、神埼、と彼は振り向く。

「申し訳ないけど僕はまた出かけるから。みんなしばらく起きてこないだろうから自由にしてていいよ。ベッドで寝ててもいいし。あ、火傷があまりヤバそうならすぐに病院に行け。うちの親に頼めば連れて行ってくれる。」

「え? どこ行くの?」

「うん、まぁ…ちょっとね…」

 そう言うと彼はすぐに扉へと向かう。質問をする暇もない。ちょっと、という私の言葉を遮って彼は扉を閉めてしまった。

 彼の出て行った扉を茫然と眺める私。

 隠し事。

 しないって約束だったのに。


 あぁもう。

 気にするのはやめよう!

「とう!!」

 某変身するヒーローのように整えられたベッドに豪快に飛び込む。先ほどまで皺がなかったシーツは私の形に盛大にへこんだ。なんだか破壊衝動が満たされた気がした。

「……」

 私は浅井君の枕に顔を埋める。無臭の清潔な枕だ。

 今日はなんだったんだ。男に叩き起こされ、火事に遭って、男に殺されかけて、浅井君に手を握られて、浅井君と帰ってきて…。

 少し落ち着くと、手の火傷が痛みだす。一応この家に来てすぐに応急処置はしたが、まだ痛い。しかしどうしようもないのも事実だ。よし寝よう。

 ベッドに横たわって、眼を瞑る。眼の前に真っ黒な世界…。


 終末に良い夢を。


 はっとして、すぐに目を開ける。全身に鳥肌が立っている。

目を閉じても、そこに広がるのは暗闇ではない。

赤々と燃えあがる炎。それを背に立つ男。空が照らされ、黒煙が昇る。

「はぁ…ぁ…」

 恐くないはずがない。

浅井君の存在に支えられて、やっと堪えていたのだ。

 彼に頼って、落ち着いたつもりになっていただけなのだ。

「う、うぅ…!」

 彼が駆けつけてくれた時とは違う感情が込み上げてくる。


 恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。


 流れ出した涙は、なかなか止まってはくれなかった。

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