12月第4週(4)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
間抜けな絶叫と共に、誰かがこちらに突っ込んできた。しかもバイクごと。
「…!」
不意に突進を受けた男は盛大に吹き飛ぶ。映画でも見ているかのように、目の前がスローになった。男の姿を目で追っていると、男は近くにブロック塀に激突した。
かなり激しく体をぶつけたようで、その場に倒れて動かない。死んでいてもおかしくない様子だが、恐らく死んでいない。そんな気がした。
目の前が通常再生に戻る。
突進した男の方もその衝撃で同じように吹き飛び、バイクと一緒に横たわっていた。
こちらこそ死んでしまったんじゃないだろうか。
「痛ってぇ!!」
死んでなかった。
「あぁぁぁ畜生!」
バイクの男は悪態を吐きながらふらふらと立ちあがる。すぐに私のほうを振り向くと、顎紐を外すのにかなり手間取ってから、シールドに罅の入ったヘルメットを脱ぎ捨てた。
あ、それ高かったって言ってたのに。
「まだ死んでないな?!」
こんなに大声を張り上げる様子を見るのは初めてかもしれない。いつも表情がなくて、鉄仮面と呼ばれる彼。鉄仮面でも何でもいい。彼の顔を見るだけで、私はなぜか涙が溢れて出て来た。
「…浅井君、このタイミングで来なかったら殺しに行ってたよ。」
「殺されそうだったやつが恐いこと言ってんなよ!」
あぁ、浅井君。
相変わらずかっこいい。ムカつくなぁ。
「あぁ…もう…浅井君、最低…」
何が最低なのか自分でもよくわからない。
でも、何故か涙が止まらなかった。
「…あれ? まぁ…あぁよしよし。」
そう言って、私の頭を子どもにするかのように撫でる浅井君。
そうされればされるほど、私は涙が止まらない。
誰かに本気で心配してもらうって。
こんなに嬉しいことだったんだ。
「おい、手怪我してるじゃないか!」
私の手を見て、思いっきり慌てる浅井君。そういえば怪我をしていたっけ。彼との再会ですっかり意識から外れてしまっていた。
「あ、うん。さっきこけちゃった。」
下手な嘘にも程がある。
「火傷か…あまり酷くはないようだけど、下手に触れないな。」
冷静に傷の程度を見る彼。そういえば浅井君から手を握ってもらうのって初めてじゃないか? いつも私から握っていた気がする。
実は今日はいい日かも。
「いや、こんなことしてる場合じゃないし!」
ふと我に帰る私。こうしいてる間も周囲は燃え続け、黒煙をもくもくと吐きだしている。気絶している男が目を覚ますかもしれないし、もう一人の男が戻って来るかもしれない。
「浅井君までここに来たらダメじゃない? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「死なねぇよ! 落ち着け! 僕はどうやってここに来た?!」
そう言いながら浅井君は横たわるバイクに駆け寄る。あぁそうか。突進のインパクトですっかり忘れていたけれど、バイクは移動に使うものだったね。
「あぁライトは割れてるしミラーは根元から折れてるし傷だらけだし…あぁもう…」
ぶつぶつ言いながらバイクを引き起こし、状態を確認する浅井君。炎の真っただ中にいるというのに、興奮こそしているものの慌てた様子はない。
「よし、燃料は漏れてないな…!」
そう言うと同時に浅井君の手でバイクは息を吹き返した。そこで初めて気付いたのだが、バイクが今まで見たものより一回り大きく、排気音も図太い。
「これって…?」
「父さんのバイクだよ。とにかく急いでたからな…」
跨りながらそう言う浅井君の声は妙に重い。
「多分…帰ったら殺される。」
今も十分死にそうな状況だと言うのに、呑気にそんなことを言う浅井君。私はなんだかおかしくなって、妙に落ち着いてきた。
「じゃあ浅井君の殺されるとこ見たいから急いで行こう!」
「急に活き活きしてんじゃねぇよ! 今シリアスな場面だから!」
そんなツッコミする浅井君も浅井君だよ。
そういう声は呑み込んで、私は浅井君の後ろに座る。
「行くぞ!!」
そう言って、浅井君はアクセルを開く。
今日、私の住む法度市は、全焼した。




