第18話 二台同時は危険です
D44。南斜坑輸送路に引いた二台分の枠の中へ、北浜資源工業の担当者が入ってみた。
台車の横を通ろうとすると、肩が壁へ当たる。
「ここで片方が止まったら、もう一台の脇へも出られませんね」
深雪が言うと、担当者は枠の外へ出た。
慧が同じ通路の二十メートル以内を測位し、壁の張り出しを示す。冬佳が実寸を測り、最も狭い場所では両側に三十センチずつしか余らないと確定した。
「二台の並走はしません」
朔は図面の案へ線を引いた。
担当者は頷いたが、納品期限の欄からは目を離せなかった。
「では、量を増やす方法は残っていますか」
「あります。台車が動いていない時間を減らします」
朔は積込と積替え、空台車の回収の三つを、別々の紙へ書いた。
今の手順では、一台が帰ってくるまで次の荷を載せられない。積込担当も、下の荷役担当も、互いの完了を待っている。
「次の台車への積込は、前の一台が坂へ入る前に、安全な待機所で済ませる。下では引渡しを終えたら、空台車を復路へ移す」
「二台、同時に坂へ出すんですか?」
「いいえ」
深雪が図面を回し、横にある細い保守線を指した。
「こちらは、空台車だけ通せる既設の復路です。人の退避通路とは別です。冬佳さんに固定点と幅を確認してもらいました」
冬佳が測定表を重ねる。
「積載台車の通路とは柵で分かれています。復路用の巻上機を設置できます。ただし、合流点は共用ですから、そこは交互に通します」
台車二台を並べていた枠が、積込の待機位置と空台車の置き場へ変わった。
「合流点の担当を一人置きます。そこが空くまで、次の台車は出さない。休憩と点検の時間も、減らしません」
深雪の補足を、朔は工程表へ書き込んだ。
「動く速さは同じです。積んでいる間に戻し、戻している間に準備する。試行して、どれだけ変わるか測りましょう」
最初の一巡は、むしろ遅かった。
復路の空台車が合流点で止まり、積込を終えた台車も待った。誰が先に出すか、無線の言い方が揃っていなかった。
「『空いています』では、どっちが空いたのか分かりません」
下の荷役地点から、澪が記録を読み上げた。
「積載通路、復路、合流点。名前を分けて呼んでください」
担当者が現場係へ言い直しを伝える。次の巡回では、空台車が止まる時間が短くなった。
深雪は上部の積替え口で、車輪の向きが揃わない台車の初動だけを補助した。《摩擦調整》は一平方メートル、三秒。そこを抜けた荷は、張ってあるワイヤーに導かれて通常の車輪で下っていく。
少しずつ、次の一台が待機位置へ来る時刻が揃い始めた。
朔は時計を見て、台数の欄に一つ印を付ける。
一台を無理に急がせるより、多く運べていた。荷を動かす人間は、誰も走っていない。
「これなら、納品先へ出せます」
担当者が集計表へ手を伸ばした。
「まだ午前の記録です。午後も測って、休憩と点検を含めた数で出してください」
深雪が止めると、担当者は苦笑して紙を戻した。
「分かりました。調子の良い一時間だけで約束するのは、やめます」
朔も自分の工程表に入れかけた数字を消した。深雪に先を越されたのが、少しだけ可笑しかった。
午後の試行を終える頃には、改善できる量と、どうしても縮められない時間が見えていた。
北浜側はその記録をもって納品先と合意し、一台ずつ運ぶ方法が正式な計画になった。
「坂を急がなくて済みますね」
冬佳が台車の輪止めを確認した。
「その分、次の荷を待たせないようにする」
朔が答えた時、下の集積所から通信が入った。
『こちら澪。次の台車は出さないでください。荷役装置に停止表示です』
朔は発進位置へ手を上げた。
「搬送停止。待機所で保持」
続いて、現地の設備担当が報告する。
『荷を受け取る支持アームが動きません。電源は入っていますが、三つの操作盤にロック表示が出ています』
台車は止まった。空台車も戻らない。先ほど整った流れが、終端の一箇所で途切れた。
深雪が、今度は下の集積所へ移る準備を始めた。
「滑らせるより、こちらが時間を食いそうですね」
「見てから決める。霧島さん、工具を」
朔は止めた台車の輪止めをもう一度確かめ、冬佳と下へ向かった。




