16-5. 敗北! 魔王死んだふり作戦大成功!
(距離が開いた。チャンスだ。ルーエル。お前の全力の半分で、広範囲に魔法を撃ってくれ。できれば派手に。できるか?)
(いいのか? 消し飛ぶぞ?)
(大丈夫だ。跳ね返される。お前が防げるように、全力の半分だ)
俺は右腕を持ちあげる。さすがに幼女とはいえ片腕で持ちあげるのは負担が大きいから、俺は左手を添えて支える。
(……ん? なんだって? 分かった)
ん?
ルーエルが俺以外の誰かに返事をした?
(アレルのエッチ。変なところ、触らないでよ)
は?
……あ!
超越者が余計なこと言ったんだな!
(誰だよ! 余計な入れ知恵するな! 力をくれよ! お前ら! 今だろ! せめて、右腕を普段どおり使えるくらいの腕力をくれよ!)
もちろん返事はない。
超越者達は俺が要らない力はくれようとするくせに、いざ俺が力を欲すると無視しやがる。
おまけにルーエルに変なことを教えて俺が動揺するのを見て楽しんでやがる。
俺は怒りをこめて叫ぶ。八つ当たりだ!
「愚かな人類よ! なかなか楽しませてくれたが、これで終わりだ! ダークネス・カタストロフ!」
俺が適当な魔法名を口にすると同時に、ルーエルが闇魔法を放った。
ダムの決壊、いや、世界に穴が開いたかの勢いで、闇が噴出した。
何も見えない。
夜を織って束ねたかのような、ざらつく闇が眼前で鞭のように乱れ飛ぶ。狙いは定めていないだろう。定める必要もない。視界に映る範囲すべてが攻撃対象に含まれる。
地平線まで続いた荒れ地は、もしかしたら、過去にこうやって作られたのかもしれない。
(いいぞ! この魔法が跳ね返ってくる! 防御して、そのままどさくさ紛れに姿を消す! 撤退準備だ!)
(なるほど。これが、聖女の必勝パターンか。お前から聞いていたとおりの展開になったな)
(ああ。初手で力を示し、大威力の反撃をさせる。メイが『鮮度保つ保存の泡』で魔王の闇魔法を泡の中に封印。それを、ソフィアが風を操作して泡で攻撃。サリナが魔法攻撃を被せる。訓練を重ねた必勝パターンだ!)
(分かった!)
(レスト、ケルリルも頼んだぞ!)
(うん!)
(クル!)
その後、まさにこちらが望んだとおり、いや、俺が奴等に仕込んだとおりの攻撃がくる。
先ず、サリナが霧と閃光でこちらの視界を奪う。そして、上か下か右か左か、どこからかは分からないが、霧に影響を与えないようにソフィアが泡を送りこんでくる。
(来るぞ。前方の低い位置に我の魔力を微かに感じる)
(よし。なら足下をぶち抜いて、階下に離脱。どこか身を隠せる場所に連れて行ってくれ!)
(うむ! 来るぞ!)
「ぐわああああああああっ! こ、これは我が闇の魔法! ばっ、馬鹿なッ! 馬鹿なああああああああああっ!」
俺は断末魔をあげた。
体が落下していく。おそらく部屋が球状にえぐれて天井や床が消滅した。
俺たちは階下に落下した。
砂煙の中、合体が解けた。
なんで土砂が落ちてくるのかというと、床材として使っていたからだろう。梁の上に板を置き、断熱対策として土を敷き詰め,その上に板を置いたのだろう。寒い地域ではよくある建築構造だ。
空気が乾燥しているからあ、砂はよく舞い空中に長くとどまる。
おかげで俺たちの姿は誰からも見られない。
「よし。見つからない場所に案内してくれ」
「うむ。ちゃんと用意しておいた。来い」
「助かる!」
ルーエルが走りだす。俺は全裸幼女のケツを追いかけた。
部屋を出て通路を進み、階段を下りて踊り場で、壁に掛けてあった絵画に向かってルーエルが飛びこんだ。
「え?」
おそらく絵の中に入れるのだろう。俺は絵に体当たりをした。
なんの抵抗もなく移動できた。すぐにレストも飛びこんでくる。
いかにも絵画で描かれていそうな、リッチな部屋だ。壁に絵画やシカの頭部が掛けられ、暖炉に天球儀か地球儀が飾られ、床には絨毯が敷かれている。
「アレル。移動するぞ。ここにいると、絵を見られたら見つかる。くくくっ。動かずに絵画のふりをするなら、ここでも構わぬが、な」
「移動するよ」
部屋から出るとそこは何もない空間だった。
絵画に描かれなかった虚無の空間だろうか。
何かの上に立っているから、足場はあるようだが、ルーエルとレストの姿と、ドアしか見えない。
「ここなら、大声で騒がぬ限り、安全だろう」
「そうか」
「最強の魔王は死んだ。仮に生存が魔族にバレたとしても、人間にあっさり負けた我をかつぎあげようとはせんだろう。我は自由だ」
「おめでとう」
「うむ! ありがとう!」
俺は握手のために手を差し伸べる。ルーエルはその手をかわして抱きついてきた。
まあ、いいか。
誕生したばかりの魔王と言われていたんだし、実年齢も見た目と変わらないのだろう。甘えたい年頃の子供だ。
俺はルーエルを抱いたまま座った。
レストが身を寄せてきた。
「ふう。完全に作戦どおり。上手く行った。疲れた。安堵したら、ひらめいたんだが、隠れる必要はなかったな。何食わぬ顔で下の階にいて、あいつらと合流しても問題はなかった。俺は聖女パーティーを陰ながら守るためについてきて、魔王城にとらわれていた少女を救ったことにすればいい。というか、その路線で行こう。ルーエル。お前は魔王にとらわれていた、記憶を失った少女だ」
「うむ。分かった。記憶を失い、初めて見たアレルを兄だと思いこんだことにしよう」
「やめろ。リアル妹と喧嘩になる。断言してもいいが、再開した瞬間あいつは俺に抱きつく。自分たちで追放したことなんて忘れて、愛がどうとか言い出すぞ。……それにしても、本当に、疲れた……」
「休むが良い。我に守られていたとはいえ、あれだけの魔力の奔流の中心地にいたのだ。何かしらの影響があったとしても不思議ではない」
「そうか。少し休む。浅い眠りだと思う。何かあったら起こせ」
「うむ。お休み」
「ああ。お休み」
俺はゆっくり目を閉じた。
何か湿ったものが唇に触れた。
「くくくっ。お休みのチューだ」
ああ、そういうのいいから。
言葉にするのも億劫なまま俺は意識を手放した。
ハッピーエンドだ!
あとは、魔王討伐の懸賞金を元手にして、母さんと幸せに暮らす!
完全なハッピーエンドだ!




