15-3. 魔王とあだ名を付けあって呼びあう
「くそっ! 今のがファーストキスだったらどうするんだ。きっと、俺の幼少期に母さんがキスしてくれているはずだから、今のはセカンドキスのはずだが……!」
「わあっ! 生アレルの生マザコンだ!」
ドコドコ!
魔王が足をジタバタさせる。
その振動で俺の体中の骨がギシギシと軋む。
周囲の石畳は魔王の踵に打たれてバキバキとヒビが走る音を鳴らす。
「やめろ。ガチめに死ぬ……! 余波でダメージ入る! 人間は、弱い生き物だ……!」
「む?」
相手は全裸の幼女だが、俺はロリコンではないのでそういうことは意識せずに、胸(おっぱいという意味ではない)を両手で掴み、押しのけようとする。
だが、それよりも早く魔王が動く。
「む。すまん。お前と会うのが楽しみで、つい」
魔王はジタバタをやめると体の位置をずらし、俺の上にうつ伏せになる。
「なんだよ、この距離感。お前は俺の妹か? ここは雪山で俺たちは遭難中か?」
「えー。えへへ。ケルリルみたいにしたかった!」
「何がえへへだ! なんでロリ魔王だ。ここはゆるふわ四コマの世界か!」
ドーンと遠くで爆音がした。
数百メートル先か?
魔王城の外の用だが、かなり近い位置だ。
「サリナの魔法か?」
俺は妹たちの同行を探るため、邪魔な魔王をよけて腕を伸ばし、『Xitter』を起動しする。
「あっ! 生Xitter!」
変な略し方すんなよ。
魔王はモゾモゾと回転し、俺の上で仰向けになる。
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■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
ほう! こうなっているのか!
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魔王は手を伸ばすが、指は『Xitter』を貫通する。
なるほど。俺にしか触れないのか。
「いちいちメッセージを送るな。ここにいるんだ。喋れ」
俺はついでにホーム画面を見る。
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■ヴァンドラ@極光の竜王
ほら見ろ。
ヴォルグルーエルが人間の幼体だったため、驚きで言葉を失っておるわ!
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■セレニティ@天界の調停者
普通に予期していたかのような、冷静な態度に見えますが
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■ギバルガン@封印されし災禍の魔霊
ゲヒャヒャ。
中身はどうか分からねえぜ。
人間なんてのはメスの裸を見たら興奮するものだからな!
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■ルーリン@子育て奮闘中の隠居聖女
あらあら。まあまあ。
魔王とケルベロスを孕ませて闇の軍勢の勢力を強化する計画、上手くいっているようには見えませんけど、上機嫌ですねえ
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■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
孕む! 孕む! 孕みたい!
アレルの赤ちゃん孕みたい!
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■オルロード@伝説の勇者の残留思念
なあ、孫はまだかのう?
早く孫の顔を見たいのう
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■ソディアン@剣神
面白いことをしていると聞いて
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■ゾルヴェルダル@冥界の支配者
新たなる闇の力が誕生するというのは、ここか
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■トルディス@中立の巨神亀
光の勢力が生まれると、……聞いて来た…
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■ラルム@慈愛の女神
や~ん。
ヴォルグルーエルちゃんの初恋を見てると、胸がきゅんきゅんする~
ここの馬鹿たちに騙されてファーストキッスしちゃったのに、
無邪気すぎて自分がしたこと分かってないの、可愛い~~っ
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■リュテ@戦神
さあ! 中立なる力が、聖か邪か、どちらに染まる!
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■ナァル@邪神
淫奔、淫奔……。楽しみ……。
強い魔王を、ただの人間が、
性的な意味でめちゃくちゃにして快楽の海に沈めるの、楽しみ……
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知らない名前が増えてんじゃねえか!
やっぱり俺をおもちゃにして遊んでたな、こいつら!
つうか、ラルムとリュテって俺の世界の宗教で祀ってる神だろ。来るんじゃねえよ、対応に困るだろ!
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■ラルム@慈愛の女神
やぴ~。君たちの世界の子がいっぱい祈っているけど、
私、別に何もしないよ~~?
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■リュテ@戦神
戦いは、力が、すべて。
我にすがろうとも、力は貸さん
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俺の世界の宗教観を根底から覆すなよ!
別に俺は信者じゃないけど、祈る意味がないって明言されると、普通にショックだわ。
じゃあ、『慈愛の女神ラルムよ。我に癒やしの奇跡を……!』とか唱えて魔法を使っている神官たちは、いったいなんの力が出ているんだよ!
軽いめまいを感じつつ俺は『Xitter』を閉じる。
超越者たちは鬱陶しいが、直接関わってくることはない。放置でいいか。
現時点で最も優先すべき問題は、闇刻魔王ヴォルグルーエル。
「お前の外見と態度に魔王っぽさがない。どうすんだよ……。聖女パーティーが来ちまうぞ……。お前はこれから戦って、倒されたフリをして自由の身になるんだろ? だが、今の姿だと、聖女パーティーが油断する。本気で戦わない。どう見てもお前は、魔族に捕らわれていた哀れな娘だ。聖戦監視官だって馬鹿じゃない。絶対に近くまで来る。彼らの任務の都合上、魔王と聖女パーティーの戦いを観測しないはずがない。どうするんだよ……」
もし、聖戦監視官に『魔王はいなかった。幼女がいただけだ』なんて、報告されてみろ。王様は報奨金をくれない。
教会だって、他の魔王を倒しに行けと行ってくるかもしれない。
このままだと、報奨金をもらって、さらにこの城にあるお宝をもらって売って、故郷に帰って母さんと幸せに暮らす計画が……。
「お前、変身できない?」
「お前って呼ばれるの、やー」
「やー、じゃねえよ。いつもの口調に戻せ」
「ヴォルグルーエルって呼んで」
「ハードル、高ッ……!」
「女の子の名前を呼ぶの、照れちゃう系? 人間の女は名前で呼んでいるのに」
「長いし、舌が絡むんだよ……!」
「アレルの舌、好き~。舌、絡めよっか~」
魔王が俺の上で再びうつ伏せになる。
顔を近づけてくるから、俺はわしづかみにして押し返す。
「思いださせるな。や、め、ろ」
「そっちこそ、や、め、ろ」
くっそ。どうする。
愛称で呼ぶにしても、ヴォルは外見にあわない。
かといって、エルはありきたりだ。
うーん。ヴォルとかグルとかが勇ましいんだよな。
……ルーエル?
「ルーエルという愛称でどうだろう」
「んー?」
迫る勢いが弱まった。
「人間は親しい相手を愛称で呼ぶんだ」
「いいよ。アッ!」
魔王は嬉しそうに微笑んだ。
俺は一瞬、本当にこいつが魔王ではなく、たまたま魔王城にいただけの幼女ではないかと錯覚した。
「ど、どうした。いきなり大きい声を出して」
「アッ!」
「だ、だから……なんだよ。やけに嬉しそうだが……」
「アッ! アッ!」
「俺の上で仰向けになって、あっあっ言いながら体を前後に揺らすのやめろ。別の行為に思いえてくる」
「アッ! アッ!」
「だから、やめろって……」
「アッ! アッ!」
「……! 俺のことかよ!」
「気づくの、おっそーい!」
「略すな! たった3文字だぞ! そんな省略が許されるなら、魔王はマだぞ! マ!」
「アッ!」
「マッ!」
「アッ!」
「マッ! ……マジでどうすんだよ。文字で受けていた印象とぜんぜん違う。どう見ても、そこらの幼女だ……」
この世界の人間は、これを魔王だとは思わんだろ……。




