12-1. 森小屋で商人らしき男たちと遭遇。話を聞く
俺、メイ、ソフィア、サリナはレストと合流し、北に向けて出発した。
といっても、まずは生まれ育った村に戻るので、あまり冒険感はない。
人生初の王都観光を終えて帰るようなノリだ。
盗賊やモンスターを警戒するため、俺が20メートルほど先行する。俺が襲撃者を見落としたとしても、20メートルなら急行できる。
レストは街道を外れて、森の中を移動する。どこにいるのか、俺にも分からない。森の中を警戒してもらうためだし、姿を隠すことにより、戦闘になったとき、奥の手になってもらうためだ。
森は広大だ。午後に出発した俺たちが日没前に通り抜けることはできない。
森の中には木が途切れてできたちょっとした広場がいくつもあり、俺たちは往路の時に見かけた小屋に泊まるつもりだった。
森の中の広場につくと小屋の前で5人の男が輪になって談笑していた。
穴を掘り、その周りに石を並べて作った竈があるので、そこ薪を燃やし暖をとっているようだ。
男たちは毛皮の服、毛皮の靴、手袋を身につけている。身なりがいいから商人だろうか。
小屋の脇には、荷車とそれを牽く馬、見張りらしき小姓がいる。
電気がない時代で小屋にはガラス窓もないので、基本的にこの時代の人々は日中を屋外で過ごす。
小屋は見たところ日本人感覚だとベッド2つ入れて終わりの2人部屋だが、異世界人感覚だと10人くらい床に転がって寝れそうだ。おそらく、まだまだ余裕がある。
だから先客を別に気にせずに一緒に泊まれば良いのだが、俺以外の3人が田舎者特有の人見知りを発揮する。
「ん、どうした?」
街道を離れて小屋に向かう俺とは裏腹に、3人は街道に立ち尽くしている。
「えっと……」
「あの……」
「……」
3人の表情を見て、俺は察した。
俺は遊牧しているときに山小屋でよく初対面の人と一緒になったから慣れている。むしろ、見知らぬ人は村以外のことを知っているから、話を聞くのが楽しい。情報伝達手段が限られている世界だから、他人との会話は重要だ。
だが、数名の村人以外と関わることなく生きてきた3人は、身元がはっきりしない他人への警戒心が強い。
「分かった。次の広場を目指そう。ただ、その前に俺はここにいる人と話をしてくる。来たときと違ってもう護衛の騎士はいないからな。慎重に行こう。この道は大丈夫だと思うが、遊牧していると、逆方向から旅してきた人の話を聞くのは重要なんだ。危険なモンスターが出没していたり、崖崩れや倒木で道が通れなくなっていたり、戦争が起こっていたりするからな。その情報を聞く。待っていてくれ」
俺は金貨の入った袋から1掴みほど取りだし、尻ポケットに突っこむ。残った金貨は袋ごとソフィアに預けた。
なお、尻ポケットを縫ってくれたのは、愛する母さんだ。この世界にはまだ尻ポケットを作る発想がないらしい。
さらに棍棒と短槍をメイに渡す。俺に悪意がないことを、小屋の先客たちに示すためだ。当然、先客は俺たちには気づいているので、こちらの様子を窺っている。
俺に武器はない。小屋の先客たちが悪人なら俺は簡単に捕まるか殺される。
だが、心配は要らない。
善人だろうと楽観しているわけではない。
小屋の向こう、森の中で、一瞬だけ姿を見せてくれた頼れる相棒を信頼しているから、俺は武器を手放せる。
俺は注目を浴びながら小屋前の男達に近づく。
「こんにちは。王都から来た。話を聞かせてもらえると嬉しい」
俺はワインの入った革袋を揺らす。
「飲み物に困っていないか? 王都で売っている普通のワインで恐縮だが、振る舞わせてくれ」
「おう。いただこう。ほら、代わりに干し肉をやろう。旅は今日で終わりだ。食糧は食い尽くしたいしな」
ひげの生えた大男が人の良さそうな笑みを浮かべる。歓迎ムードだ。
「あちらの女たちは? 干し肉もパンも余裕があるぞ」
「ああ。気を悪くしないでくれ。田舎の村を出て、聖戦におもむく聖女候補だ。ただでさえ人見知りなのに、敬虔心が強すぎて、男に近寄れないんだ。結婚相手を探すのに苦労していたが、聖戦後も苦労しそうだ」
俺が冗談めかして言うと、男たちは声を出して笑った。
さっそく情報交換だ。駆け引きをするつもりはないので、俺は先に手札を切る。
「俺は王都は初めてだったが、平穏だった。唯一の難点は、この森の入り口だ。森林管理人が通行料を求めてくる。許可なくやっていることだ。兵士に通報するぞと言ってやればいい」
ひげの大男は、俺が渡した革袋からさっそくワインを飲んだ。口から垂れたワインを《《手袋の甲側でこすって拭く》》と、隣の男に革袋を渡す。
「あんたらはどこへ向かうんだ?」
「ああ。北を目指す。パルダンブルを経由して北上して、マルベール方面へ向かう」
「俺たちはリョーンの方から来たから、あんたらの役に立ちそうなことは知らんなあ」
「そうか」
悪い情報がない、というのは、それはそれで良い情報だ。収穫があったと言える。少なくとも、一両日中に移動できる距離に、凶悪なモンスターや野盗集団が出没する可能性は低くなった。
「おい。馬車とリョードの件があるだろ」
「おう、そうか。その話があった」
なにやら、情報をくれるらしい。
「少し前にな、獅子の紋章を抱いた馬車とすれ違った」
「ああ。それなら俺たちは森の入り口で追い抜かれた」
「それがな、この街道を進んだ先に十字路があるだろ? 馬車は東へ行ったんだ。リョードの方だ。俺たちはそっちから来たんだが、リョードに立ち寄った際に、妙な集団を見かけてな」
「そう。俺たちはリョードには何度か行っているから、それなりに街の雰囲気は知っている。だが、どうにも、武装した人間が多かったように思う。それに、住民がよそよそしいというか」
「うむ。弓を背負った一団がいた。冬の到来前に森狩りでもするのなら、この辺りなら国王配下の狩猟官が指揮をするはずだが、見かけない」
「ああ。この時期に大規模な狩りをするとは思えん。ヘラジカを狩るなら雪が積もるころを見計らって、北へ行かれるはずだ。それに、狩猟犬を連れた者もいない」
なるほど。確かに妙な話だ。
弓を装備した集団は、基本的に、軍隊か傭兵か狩猟の一団か、どれかだ。
国王所有の森で狩猟するなら、彼らが言うように狩猟官、狩猟犬使い、馬の世話役、森の番人など、様々な役職の人が数十人集まるはずだ。
弓を背負った一団だけ見かけるのは不自然だ。
軍隊なら、彼らが軍人や街の人と会話をして、その正体を知っているはずだ。
となると、武装した傭兵集団か?
「リョードの方には向かわないのなら、あんたらには関係ないとは思うが、気をつけた方がいい」
「ああ。ありがとう。助かった。警戒するよ」
良い情報を得られた。




