不穏
「ありがとう…エイラ」
エイラに慰められ、ルシアは笑顔でそう答えた。しかし少し俯くと再び表情を曇らせる。
「でも…私の悪魔はもうかなり侵蝕が進んでるの…。祓ったとしても、私も一緒に…」
「…ルシア…」
ルシアの深刻な状況に解決策を持たないエイラは、投げかける言葉を探す。2人に少しの沈黙が流れたあと、それを途切るように教会のドアが開き、ダインが入ってきた。
「ここにいたか、飯…できたぞ」
ダインはルシアから目を逸らすと、それだけ伝えて戻ってしまった。ルシアはか細く返事をすると、ゆっくりと立ち上がった。そしてエイラの方を向いて微笑みかける。
「…ひとまずご飯にしましょうか」
「あ、はい」
エイラも立ち上がり、ルシアの後を追うように歩き始めた。そしてドアの前まで来るとルシアは立ち止まり、再びエイラに向き直る。
「本当にありがとう、エイラ。まだ方法は浮かばないけど…それでも私、もう少し頑張ってみようと思う」
「…!」
嬉しそうに微笑むとエイラは勢いよくルシアに抱きつく。初めは驚いて後ろによろめいてしまったルシアだったが、安心したように目を閉じてエイラを抱き寄せた。
「いただきます」
ダイン、エイラそしてルシアは子供達と一緒に夕飯を食べていた。他愛もない話や、はしゃぐ子供達の面倒を見ながら食事を済ませると、ルシアは食べ終わった食器を片付け始める。
「…いただきます」
その頃、俺とレムは寝室で夕飯を食べていた。動ける程度まで回復はしていたが、ルシアに心配をかけるわけにもいかず、俺はレムと2人で過ごす事を選んだ。
「それで、なんとかなりそうなのか?」
「ルシアさんのことか?うーん…」
ルシアの悪魔は既に侵蝕が進んでおり、祓えばルシアの魂ごと消える可能性が高い。かといってこのままでは悪魔に取り込まれてしまう。
「正直…まだわからない…」
「ふーん」
「…緊張感のないやつだな…」
聞いてきたくせにそっけない返事をするレムに呆れながら、俺は残ったご飯を食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせたあと食べ終えた食器を持とうとした時、レムがそれを遮るように食器を持ち上げる。
「持っていってやるよ」
「え、いいよ別に」
「いいからいいから、お前は…ほら、あの女の人助ける方法を考えないとだろ?」
レムは目を逸らして恥ずかしそうにそう言った。そっけない返事をするものの、しっかりとルシアの事を思っているのだろう。
「…ありがとう、はは」
「笑うな!」
フイッと不機嫌そうにそっぽを向き、レムは食器を片付けに行ってしまった。それを見送り、俺はルシアを救う方法を考える事に集中する。
(悪魔…か、といっても悪魔となんて戦ったこともないし…)
俺にはダインのような悪魔を祓うような力はない。仮にあったとしても、ルシア共々消えてしまう可能性がある以上それは得策ではない。
「…ダメだ、全然思い浮かばない…」
しばらく考え込んだが案は浮かばず、俺はベッドに倒れ込む。
(アレンならどうするかな…っていやいや、俺とアレンじゃ、力の差がありすぎて参考にならないだろ…)
「…まてよ?」
その時、俺はアレンがイヴの山で悪魔と相対しているのを思い出した。あの時アレンはオーメンの力で悪魔を倒していた。
(オーメンの力なら悪魔にも勝てる…)
形は違えどオーメンの力だけ見れば、俺とアレンが使っている力は同じ物、悪魔を倒すことも可能なはずだ。しかしその結果は祓うものと変わらないだろう。
(だめだ、結局振り出しか…)
考えを巡らせるがいい案が浮かばず、俺はベッドに大の字で寝転がる。その時だった。震え上がるような凄まじい悪意を、『警戒心』が感じ取った。
「っ…!?まさか…!」
俺はベッドから飛び起き、教会の方に走り出した。




