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県立防衛幼年学校  作者: 茅野平兵朗
第3章 風雲校外実習
83/108

83 俺たちはいつの間にか最前線にドナドナされてきてしまっていたらしい

 それよりも、だ。なんで、このロボットを見学することが、さっき小桃が言っていた、今朝まで陸軍でやってた軍事訓練につながるんだ?


「ナニか? こんな秘密兵器を目にした俺たちは色んなとこのスパイに狙われるから、自衛手段として鉄砲の撃ち方習ったってことか?」


 誰とはなしに聞いてみる。


「ああ、かなり正解に近い。が……」


 真っ先に口を開いたのは美洲丸だった。


「でも、それだけじゃないかな?」

「だなぁ、むしろそれは正解の一部だよなぁ」


 そして、小桃と楓が美洲丸の答えを補足した。


「はぁ? 正解の一部? スマン記憶を失っている俺に懇切丁寧に教えてくれるやつはいないか?」


 みんなには俺の問いかけはさぞかしすっとぼけたものに聞こえたに違いない。なぜなら、このロボに関する知識は『竜洞生徒』なら美洲丸や太刀浦と同等に持っていなければならないもののようだからだ。

 『竜洞生徒』の家がこのロボの開発資金を提供しているらしいからな。

 そんなマヌケな俺の問いに答えてくれたのは今度は陽だった。


「あにき、ボクはね、思ってたんだ。ボクらを教育訓練する理由が第五列の浸透作戦への備えってだけじゃ、理由としては弱いんじゃないかって、ね」


 陽が腕を組み、したり顔で溜息をついて頭を左右に振る。

 いや、お前だろ敵のスパイに対抗するために俺たちは鉄砲の撃ち方を教わるんだって言ったの。

 ん? じゃあ、敵スパイからの自己防衛ってだけじゃないのか?


「そうなの! 敵第五列への対処だけなら、警護要員をつければいいだけなの」

「それ以前に、あたしたちみたいな幼年学校の生徒にこんな物見せるのがおかしいだろ」

「わたしたちを卒業までに一人前の兵隊にするには理由がある」

「ですです! その理由の一つがこれなのです!」


 確かに響の言う通り、ボディガードをつければ済むだけの話だ。

 そして、楓が言った通り、こんな秘密兵器を見せなけりゃ、そもそもどっかのスパイに機密を漏洩することに継るわけがない。

 じゃあ、わざわざひと手間をかけて、梓が言う卒業までに俺たちを一人前の兵隊にするための訓練を施す理由ってなんだ?

 ん? 俺たちを一人前の兵隊にする?

 兵隊……すなわち戦闘要員だよな。

 戦闘要員という言葉が浮かんだとき、俺は妙な引っ掛かりを覚えた。


(戦闘要員……)

「ほおぅ本機は複座でありますか?」

「え、ええ、試作である本機はある特殊な事情により複座となっていますね。量産機では、単座に改良される予定です」


 太刀浦の耳障りな声で『俺の疑問にみんなが答えてくれるコーナー』が中断させられた。

 コックピットって言ったっけ? パイロットが乗るところ。

 そこで整備をしていた白衣のお姉さんに太刀浦がしきりに質問を浴びせかけていた。

 それはもう、水を得た魚のように生き生きとした有様だった。

 専門用語が多すぎて日本語を話しているはずなのに言っている意味がさっぱり理解できない。かろうじて聞こえてきた、スレイブ機構の動作トレーススピードの向上は本当なのか? とか、あまりにも専門的過ぎて俺にはわからないかった。

 ただ、白衣の人が答えた「BDシステムの採用で、運動性能はこれまでの歩兵装甲の数十倍の反応速度を実現しています」と、いう答えだけが妙に頭の中でわだかまったのだった。


「あ、お姉ちゃんなの。お兄ちゃん、響のお姉ちゃんがあそこにいるの」


 そんな中。実の姉をロボットの足元に見つけた響が駆け寄って行った。


「お姉ちゃん! 響なの!」


 小さい頃に養子に行ったお姉さんがASWOC勤務でこっちに来たから部隊実習のときに会えるって言ってたっけ。

 陸奥中佐の部下なら、この格納庫で何らかの作業に従事していても不思議じゃないか……。

 どこでも人手不足らしいから、ASWOCとの兼務ってのが想像できる。


「え? あ、ああ……ひ、ひびき? 見違えたぁッ! おっきくなったね」


 響に姉と呼ばれた人は少し戸惑いを見せたが、ニッコリと微笑んで響を抱きしめた。


(ん? お姉さん……なのか? あの人が?)


 その時俺は、はっきりと違和感を感じた。

 響が姉と呼んだ女性の瞳の色が、再会を喜ぶ姉のそれではなかったからだった。

 それは俺が世話になっていた施設でもたまにみかけたものだった。

 何年も別れて暮らしていた親兄弟姉妹が再会を喜ぶという感動的なシーンだったんだが、捨て犬を押し付けられたような目をしていることがあったんだ。

 そんな場合、結局引き取られても虐待とかで出戻りしてくることがほとんどだった。

 出戻ってこなかったやつは……。


「へえ! 呉竹ぇあんたこんな可愛い妹いたんだ」

「なになに呉竹の妹ぉ? きゃっわいい!」

「外していいよ呉竹、積もる話もあるだろうから」

「呉竹二曹、妹さん? ああ、そう言えば先月から言ってたわね、部隊実習が楽しみだって」

「あ、はい、中佐! うん、ひび…き? 今、ちょっと手が離せないから、また、あとで…ね」


 陸奥中佐が呉竹さんに微笑む。

 それに愛想笑いで応えて、呉竹さんは響から体を離して格納庫の整備員控室へと姿を消した。


「お姉ちゃん……メールでは、会えるの楽しみだって言ってたの」

「まあ、忙しそうなのは見ててわかったよ。あの中佐の部下なんだろ、推して知るべしだよ」


 俺は、響の頭を撫でる。


「うん、お兄ちゃんの撫で撫では気持ちいいの」


 喉をくすぐられる子猫のような表情で響が微笑んだ。


「そうだ、晩御飯のときにお姉ちゃんを誘って、一緒のテーブルで食べるの。そのときにこれ渡すの」


 響がポケットから小さなお守り袋を取り出した。


「香取ちゃんのお家で貰ってきたの」

「ああ、そうか。香取さんち神社だったっけ。そうだな。それがいいな。きっとお姉ちゃんも喜ぶぞ」


 俺は響の頭をわしゃわしゃと撫でくる。

 それは、俺が世話になっていた施設で、しょんぼりとしたガキどもを慰めるために身に着けた技だった。

 頭のツボを刺激するようにわしゃわしゃと撫でる。これは、ガキどもにすこぶる好評だった。


「では、みなさんこの格納庫内での自由行動を許可します。自由に見て触って、先輩方をとっ捕まえて何でも聞いてください。……もう、一部生徒は先行していますが……」


 陸奥中佐が爽やかすぎる笑顔を作る。

 なんかとっても嫌なものを見た気がした。


「……ッ?!」


 その瞬間、俺は右腰にずしりとした重みを感じた。

 実はこのとき俺の右腰のズボンの内側にはピストルが存在していた。

 昨夜全員がこのピストルの支給を受けていたのだ。

 そしてその拳銃はホルダー? から引っこ抜いて引き金を引けば、すぐさま弾が飛び出していくようになっている。

 コックアンドロックというそうだ。

 朝霧中尉曰くこのピストルは、“こんしーるどきゃりー”能力に優れたコンパクトな国産小型拳銃だそうだ。

 つまり、隠し持つのに最適化されたピストルってことだそうだ。

 更に朝霧中尉曰く俺たちが携行しているピストルに装填されているカートリッジには45口径なみの“まんすとっぴんぐぱわー”を誇る国産の弾頭が備わっているんだとか。

 専門用語が多くて、今の俺にはよく理解できていないが、なんかすごい性能のピストルなのだということはなんとなくわかる。

 その拳銃がやたらと重く感じる。樹脂パーツを多用し、かなりの軽量化がなされていると朝霧中尉は言っていたが、とんでもない。ずっしりと重い。


(こんなに重くちゃ、西部劇みたいな早撃ちは無理だよな)


 まあ、そんな撃ち方は習っていないけどな。

 習ったのはホルダー? からゆっくりと抜いて、よく狙って撃つということだけだ。


「なあ、小桃……楓……」

「うん、そうかなぁ」

「ああ、そうだろうさ」

「まちがいない…な」


 俺が何を問いたいかを言わずとも、小桃たちは俺の頭の中に同意してくれた。

 海軍基地での部隊実習の間も俺たちは待雪に『失われた分隊』と揶揄されるに違いなかった。

 陸軍でのものすごく特別な部隊実習に続いて、こちら海軍基地での部隊実習でも、恐ろしく特別な実習内容が実施されるに違いないことが予想できたからだ。

 なぜかって?

 それは俺たちの目の前に鎮座しているロボットが答えだ。

 俺たちはこのロボットについて整備の仕事かなんかをさせられるために選抜されてここにいるのだろう。

 そして、ロボットの秘密を守るために陸軍で銃や格闘の訓練を受けた。

 この海軍基地では、このロボットの整備マニュアルなんかを徹底的に叩き込まれるんだろうな。


「あら、みなさんすっかり心の準備ができているようですね」


 陸奥中佐が微笑んだ。

 俺はこの微笑みをよく知っていた。

 長門教官や朝霧中尉、野分軍曹のそれと同種の匂いがプンプンだ。

 この手の笑顔は、シゴく対象を目の前にした鬼軍曹のそれだからだ。

 眼の前に立っているのは士官…その階級章が表しているのは確か中佐っていう、上から数えたほうが早い階級で決して下から数えたほうが早い軍曹じゃない。

 だが、この人も鬼軍曹でまちがいない。

 鬼軍曹っていう言葉は、実際の階級じゃなくて、その人の人格を表す言葉だからだ。


(こっちじゃ、どんなシゴキが待っているのやら……このロボットを分解して30分で組み立てろとか言われそうだな。だが、やってやる。俺はやるぜ)


 俺がそんな決意を固めたとき、俺達の前で鬼軍曹の微笑みを貼り付けた海軍中佐が口を開く。


「竜洞生徒! 乗ってみたくない? これに」


 陸奥中佐の微笑みの意味は俺の予想の斜め上を行っていた。


「へ!?」


 間抜けた俺の声が鼓膜を揺する。

 このロボットに乗るだと? 俺が?

 カチリ! と、すべてのピースがはまった音が耳の奥で響いた。


(……ッ! そうかッ! そうだったのか! そっちだったのか!)


 俺は息をのんだ、このとき俺は、俺達が陸軍で受けた訓練の意味、そして、この基地でこの格納庫を見学させられている意味。そして、俺たち『失われた分隊』が編成された意味を正しく理解したのだった。

 このロボットのパイロットになるために、俺たちは他の生徒達より一刻も早く一人前の兵隊にならなければならなかったのだ。

 つまり、俺たち『失われた分隊』は、俺と梓に親しく関わっている人間に自衛手段を教導するという目的で編成されたのではなく、この戦闘用ロボットに何らかの形で関わるため、もしくは関わってきた人間で編成されていたのだということをはっきりと理解したのだった。


「な、なんてこった……。俺は本当に最前線にドナドナされてきてたのかよ」

「たっちゃん……」

「辰哉ぁ」

「……兄様」

「お兄ちゃん……」

「あにき……」

「なんだ、竜洞……貴様……」


 ああ、今頃気がついたんだよ、俺以外の連中がここに入った途端にドナドナされてきた仔牛のようになっちまったわけにな。

 そして、俺達が他の生徒達よりも何年も先んじて軍事訓練をやらされていた理由にな。

 俺たちは、元の世界の戦争末期の学徒出陣よろしく、少年兵として戦争に参加させられようとしているってことにな!

毎度ご愛読誠にありがとうございます。

並びにブクマご評価感謝であります。

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