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県立防衛幼年学校  作者: 茅野平兵朗
第3章 風雲校外実習
82/108

82 では、たった今から貴様らは有資格者だ!

「……ッ、そういう事か……。私たちはいつの間にやら本当の最前線に連れてこられていたらしい」


 ギリギリと音が出そうなくらいに奥歯を噛み締めて、美洲丸が呟いた。

 なんだ? どういうことだ? 最前線? 俺たち失われた分隊が、兵隊の訓練を他の生徒に一年も先んじて開始したのは、どっかのスパイとの実戦が迫っていたからじゃないのか?


「あははぁ……ほんとだわ。こりゃぁ、笑うしかないわなぁ……」

「なるほどたしかにかな。こういうことなら、銃の扱い方をいち早く覚える必要があったわけかなぁ……」

「はは……ッ、まさか、これがここにあるなんてなぁ……」


 楓が力なく笑い、小桃が得心したように頷いて陽が肩から制服がずり落ちそうになるくらい脱力する。


「なの……開発中じゃなかったの……」

「うへぇ……噂には聞いてたけど……」

「ですですぅ……ほんものです?」


 他の連中も程度の差こそあれ、唖然と俺達の目の前にあるものを見上げていた。

 おいおい、お前らまるで市場にドナドナされていく仔牛のようだぞ。

 ってか、お前ら、これが何か知ってるのか?


「がはははぁッ! 感動なんだなッ! 圧倒的存在感なんだなッ! がははッ、これならアメ公だろうが露助だろうが亜州超大国だろうが殴り倒して千年口をきけなくできそうなんだなッ!」


 ただ、太刀浦だけが興奮し、鼻息を蒸気機関車のように荒くして口角泡を飛ばし饒舌に物騒なことを大声で宣っている。


「でかいな……」


 思わず口に出してしまう。


「兄様、これに興味しんしん?」


 俺のつぶやきに耳ざとく気づいた梓がニッコリと微笑みながら袖を掴んだ。


「いや……そうじゃないが、こんなでかいロボットなんて始めて見たから少々度肝を抜かれた」

「そう……」


 俺の答えになぜだか悲しそうな顔色を見せて、梓もロボを見上げる。

 目の前のものに、俺が興味をそそられなかったことに傷ついたのだろうか。


(しかし、本当にでかいな。頭の天辺は校舎の二階ぐらいか?)


 俺達の目の前にあったのは、ロケットの発射台を思わせる構造物に固定された二階建ての家くらいの高さのロボットだった。


「ぅおお……これは……。むむ、ふむぅ! 思っていた以上なんだな!」


 太刀浦はロボオタクの本領全開に、小躍りしながらそいつを舐り回すように矯めつ眇めつしている。


(おいおい、太刀浦よ、それじゃまるで公園で幼女を眺めてる変態みたいだぞ)


 俺達の目の前に跪くようなポーズで鎮座している暗緑色のロボット。

 そう、この“海軍”の格納庫で俺たちが見学しているものは対潜哨戒機などではなかったのだった。

 俺たちが“見学”をしているのは、まさに二足歩行する戦車と表現するのがぴったりの人型ロボットのようだった。


(まるでボ○ムズだなこりゃ)


 それは、元の世界の待雪が見せてくれた昭和晩期のロボットアニメにでてくる主人公メカのようにずんぐりむっくりなみかけだった。

 待雪はそのロボットのことをえらく気に入っていたようで、二足歩行のロボ兵器をアニメで見るたびにしょっちゅう引き合いに出しては、スタイリッシュな汎用ヒト型兵器が好物な太刀浦と口論していたっけ。

 曰く「この無骨さこそが正に兵器!」「いやいやちがうんだな、アニメに必要なのはロボといえども萌なんだな」……全く噛み合わない議論を展開していた待雪と太刀浦……。

 俺は、そのどちらの論理も理解できずに、二人の間でオロオロとするばかりだった。


「我軍の最新鋭歩兵装甲はどうですか皆さん?」


 陸奥中佐が自慢げに声を弾ませている。そんなに声を弾ませて自慢するか? 中佐殿ともあろうお方が。

 俺以外の全員が手を上げて質問の意思を表す。

 ああ、やっぱりここでも俺だけが何も知らなかったようだ。俺以外の全員が目の前でそびえているロボットについて何かしらの情報を持っているようだった。


(ん? 今、中佐は最新鋭の歩兵装甲って言ったよな)


 待て、最新鋭? ってことは、これって秘密兵器ってことじゃないのか?

 いいのか? 俺たちみたいな高校生にこんな軍のトップシークレットを見学させて。


「質問を許可します。では…そうね。太刀浦生徒」

「は、はいッ! 本機の呼称は“試製歩兵装甲零式白兵戦闘機”でありましょうか?」


 上ずった声で太刀浦が尋ねた。

 俺ならキーゼルバッハ部位が決壊するくらいに興奮しているようだ。


「その通りです。本機は陸軍及び海軍陸戦隊での運用を想定して開発された歩兵装甲です。よく情報を収集していますね太刀浦生徒。ただし、それは軍法会議モノですよ。気をつけなさい」

「はいッ!」


 太刀浦が応えるのと同時に美洲丸が手を上げた。


「はい、では美洲丸生徒」

「私の元に届いている報告では、本機は当基地での起動試験すらできていないとのことですが?」

「大変よい質問です。が、それも軍法会議モノです。一体誰が幼年学校生に特別防衛機密を漏らしているのでしょう。我軍のインテリジェンスはどうなっているのやら……全く嘆かわしい」


 陸奥中佐は芝居がかった動作で眉間を揉んで見せる。


「はあ、当家がこの試作機の開発資金の一部を提供をしている関係上、開発上の情報は逐一当家に報告されておりますので知り得たのであります」


 うへえ、こんなもんの開発って何百億円もかかるんじゃねえのかよそれを出してるってどんだけ金持ちなんだよ。


「ああ、ちなみに竜洞生徒。御勲爵家からも本機には資金提供いただいております」


 陸奥中佐が俺に向けて片目を閉じてみせる。どうやらウィンクのつもりらしい。

 俺が今お世話になっているお貴族様の家も相当なもんだった。


 それにしてもさすが異世界だ。俺が元いた世界じゃこんなロボ兵器、ラノベや漫画アニメにしか出てこない。


「むっはああああッ! たまらんッ! ちゅっ、中佐殿ッ!」


 ロボットを舐め回すように眺めていた太刀浦が、シュンシュンと頭から湯気を立ち上らせるくらいにのぼせ上がって陸奥中佐に詰め寄った。


「「「ば、馬鹿ッ!」」」

「太刀浦くんッ! よすかなぁッ!」


 俺たちが止める間もなかった。

 はあ、これで腕立て確定だ。上官不敬のかどで三百回くらいオーダーされっぞ。


「許可する。太刀浦生徒。この格納庫内でなら、誰にでもなんでも質問してよろしい。この機体について理解を深めるように。君は本機の開発者の一人として開発の最終段階に立ち会う権利と義務がある」


 そう言って陸奥中佐はポケットからストラップが付いたピンクのカードを取り出し、太刀浦の首に掛ける。


「え?」

「くッ!」

「かなぁッ!」

「はぁ?」

「む…」

「なの!」

「ぅわぁッ!」

「ですですぅッ!」

「「「「「「「えええええッ!」」」」」」」


 陸奥中佐の意外過ぎる行動に俺たちはあんぐりと口を開いたまま閉じることができなかった。

 そして、俺は太刀浦の意外過ぎる正体に目を回しかけていた。


「た、太刀浦がこのロボットの開発に関わっていただって?」


 中佐が太刀浦の首に掛けたのは、元いた世界ではサラリーマンさんたちが会社でつけてる身分証とかIDとか入館証とか呼ばれてるものとそっくりな代物だった。

 首にかけられたピンクのIDカードを眺めて太刀浦は口角を吊り上げ、中佐に敬礼する。


「ありがとうございます中佐! 不肖太刀浦圭輔、砕骨粉身の覚悟で本機の全てを彫心鏤骨いたしますッ!」


 あっけにとられた俺達を尻目に太刀浦がエゾリスのような身軽さでロボットの周りに組んであるロケット発射台のような構造物の足場の梯子を登っていった。


「太刀浦って、あの体型ですっげー身軽だよなぁ」

「うん、いつも感心してるかな」

「粉骨砕身だ。ばかもの」


 そんな太刀浦を見送りながらそれぞれに感慨をつぶやく。

 ああ、美洲丸よ、ちなみにだが粉身砕骨でも可だぞ。どっちにしろ太刀浦がちょっと間違っているがな。


「ああ、ちなみにですが……」


 陸奥中佐の声に振り向くと、中佐の手には、たくさんのピンク色のカードがぶら下がっていた。


「全員分あるからね。写真は延…もとい、長門教官から提供してもらったものです」

「「「ええええええッ!」」」


 俺たちの首に次々とピンクのカードが掛けられてゆく。


「はぁ? こりゃ……」

「うそかな、特防かなぁッ?」

「中佐! 私達はたかだか幼年学校生徒です。特別防衛機密に触れる資格など……」

「では、たった今から貴様らは有資格者だ!」


 美洲丸の抗議に、中佐がきっぱりと応える。

 てか、なんで抗議するんだお前?


「くッ! ……ううう」


 どうした美洲丸、おまえさっきからなんか変だぞ?

 この格納庫に入ったときから……、てか、ロボット見てからか。お前、妙な悲壮感を漂わせてるぞ。

 いや、美洲丸だけじゃない。

 辺りを見回すと俺と太刀浦以外の全員が、額から陰を落としている。

 ほんっと、お前らドナドナされてる仔牛みたいだぞ。

毎度ご愛読誠にありがとうございます。

並びにブクマご評価感謝であります。

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