80 俺の鉄砲の銃身は斜めについている?
「昨日同様に、最後の五メートル射撃十発と二十五メートル射撃十発の計二十発で検定を行った。二十五点未満は不合格だ。では上位五名を発表する。美洲丸生徒九十五点、信濃生徒九十二点! 鹿島生徒九十点! 香取生徒八十八点! 太刀浦生徒八十五点! ちなみに最下位は竜洞辰哉生徒の五点だ。他の生徒諸君は皆六十点以上の一級だ」
朝食前と朝食後に分けて行われた『拳銃射撃訓練体験』の結果を野分軍曹の太いアルトが朗々と読み上げた。
朝食は、例によって、特殊部隊携行糧食だった。ちなみにメニューはビーフステーキだった。
野分軍曹殿の俺の名前と得点を発表したときの、実に嬉しそうなとてもとてもいい笑顔が恐ろしい。じつに鬼軍曹という表現にピッタリの笑顔だ。
俺的にはしっかりと狙って撃ったつもりだったんだが、何をどうしたものなのか、最初の一発がマンシルエットターゲットと呼ばれる凸型を引き伸ばしたような的の出っ張った部分のど真ん中に命中した以外、ことごとくが的の得点圏に命中しなかったのだ。
(まいったな。モンロー伍長が尾を引いてんだろうなぁ)
拳銃を撃つ瞬間、俺が撃った弾が人にあたったところをリアルに想像してしまってたから、微妙に狙いがズレたんだろうな。
くそ、逞しい俺の妄想力め、呪われろだ!
「銃返納時にプリントアウトした成績表を配布する。各自よく検討して、玩具銃等で自主的に訓練をするように。特にハンドリングは毎日五分でいいから時間を取れ」
横目で俺の様子をうかがっている小桃たちの、かわいそうな子を見るような表情が心苦しい。
「級外の竜洞生徒については、安全管理はほぼ満点に近いレベルなので、今次“実弾射撃体験”においては再訓練とはしない。だが、夏期休業時において再訓練を実施する」
野分軍曹が喜々として俺の夏休みの予定を告げてきた。
たしか、長門教官様にも同じようなことを告げられていたような気がするが、ダブルブッキングもいいとこだな。
俺以外の連中が、俺を憐れんでいるのがひしひしと伝わってくる。
ああ、俺の夏休みは、なくなっちまったんだな。
長門教官殿の学校の補習で腕立て伏せ。
特殊部隊のお姉さん方からの訓練で腕立て伏せ。
入道雲とセミと腕立て伏せか。高1の夏休みが腕立て伏せ塗れなんてあんまりだ。
てか、夏休み明けには俺の腕はどんだけ太くなってるんだろう。ポ○イみたいになっちまったらどうしよう。
「ではこれで、『拳銃射撃訓練体験』を終了する。お疲れさん!」
「敬礼っ!」
朝霧中尉が告げた訓練終了の号令も、最早上の空だ。
が、こっちの世界に転生してきた二週間あまりで体に叩き込まれた停止間の動作は、野分軍曹の号令で延髄反射的かつ正確に実施される。
「「「「「お疲れ様でしたッ!」」」」」
朝霧中尉が答礼して、ジープみたいな車に乗って立ち去る。
「では、各自銃を安全状態にして返納しろ! 移動時間を含め一時間後のヒトマルサンマルから武道場において『徒手格闘訓練体験』を実施する。各自十分に給水等をしておけ」
「美洲丸生徒!」
「はいっ!」
トラックの荷台入り口の両脇にいるお姉さんたちにピストルを渡し、美洲丸、小桃、鹿島さんと、順にトラックに乗り込んでいく。
縦隊に並んでいた順ではなく、どうやら成績順に名前を呼ばれて、ピストルと交換に成績表を渡される段取りみたいだ。
「竜洞、ちょっと待て」
一番最後にピストルを返そうとした俺を野分軍曹が呼び止めた。
「はいッ!」
立ち止まり回れ右をして、俺は野分軍曹に駆け寄り敬礼する。
まさか、この場で腕立てか?
「御用でしょうか? 軍曹殿」
「楽にしていい」
「はい! 軍曹殿。失礼します!」
休めの姿勢に移り、軍曹の言葉を待つ。
「竜洞、あれは……」
数瞬俺の目を覗き込んで呆れたような笑顔を浮かべ、何かを問いかけようとした野分軍曹だったが、思い直したように口を閉じた。
「……いや、いい。行ってヨシ。10分でいいから体を締め付けているものを全部緩めて横になれ。給水を忘れるな」
「はい! ありがとうございます軍曹殿」
ビシッと音が出るような敬礼を決め、再び回れ右をしてトラックに駆け戻る。
よかった、腕立て伏せじゃなかった。
「ふん……あいつめ」
そんな野分軍曹のつぶやきが聞こえたような気がしたが、迂闊に振り向くわけにもいかず、トラックの荷台ゲートの脇に控えているお姉さんにピストルを渡し成績表を受け取る。
この成績表は昨日ももらったが、縮小された的……俺たちが鉄砲をぶっ放しまくったなだらかな凸型を引き伸ばした的に同心円が重なったやつ……が印刷されていて、何発目がどこに当たっていたかが記録され、なおかつ何発目が何点で合計何点だったかも記載されている。
(ああ、なんてこった……)
俺は座席に着いて項垂れる。
なぜなら、的のど真ん中に当てた五点以外、見事に的を外しまくっていたからだ。
「うわぁ! これ、すごいよあにき。二十五メートル射撃で何発か散っちゃってるけど、それ以外、何センチか左にズレてたら美洲丸くんよりいい成績だったんじゃない? 五メートル射撃なんか、特にさ、5センチ左に着弾してたら満点だったよこれ!」
俺の隣に腰掛けている陽が、目を見開いて嬉しそうに俺の成績表を読み上げる。
「なんだと! 紅黄見せてみろ。な、なんだこれは……何の冗談だ?」
陽が俺から成績表を取り上げて美洲丸に渡す。
「ええッ! ちょ、ちょ僕にも見せてくれないかなっ! うそッ! たっちゃん、これ、どういうことかなッ? 何センチか左にズレてたらオールヘッドショットじゃないかなッ! こんなの特殊部隊の隊員でもなきゃできないかなっ!」
「何だよ辰哉ぁ、お前これワザとかぁ?」
「すごいの! やっぱりお兄ちゃんはすごいひとなの!」
「む、兄様がすごいのは天地開闢以来の当然。きっと銃身が斜めについていたに違いない」
俺の成績表を回し見して、みんながゲラゲラと笑ったり呆れたりしている。
そりゃぁそうだ。
二十五メートルの的では何発かがバラバラに着弾していたが、間延びしたなだらかな人間を象った凸型の的の頭のすぐ横、原寸でおそらく数センチのところに、これもまた原寸でなら五百円玉くらいの大きさの範囲で全弾が着弾していたんだからな。
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