34 ネグリジェという幻想文学に現れる羽衣を纏った妹が迫ってくる事案が発生
俺は、ロボ梓に完全に動きを封じられていた。
下腹部にまたがるように乗ったロボ梓の膝が俺の両腕の自由を奪い、太腿に乗っかった足の甲で両脚が動かせなくなっている。
そして両手が上半身を押さえ込んでいた。
完璧にマウンティングされていたのだった。
昨日運んでくるときには、重さを感じなかったが、今は柔道の達人に押さえ込まれているようにちょっとも動かせる気がしない。
「んふふ……兄様」
なんとか自由を確保できている首を起こし、ロボ梓に抵抗を試みる。
「……ッうぐッ」
意図せず網膜に映りこんだロボ梓の扇情的な装いに俺は、鼻梁が熱くなる。
肌色の面積が多すぎる!
襟ぐりが大胆に開き、臍まで覗けてしまう裁断のパフスリーブ(本来なら胸の谷間を強調するデザインなんだろうが)、寝巻きの要件を満たしているのかと問いたくなるくらいに短い丈からは白い太腿が露になっている。
袖口やボトムのフリルに胸元のリボンが愛らしくアクセントをつけている。
しかも、その淡いピンクの生地ときたら、目を覆いたくなるくらいに、スッケスケだ。
これもまた、下着本来の目的を放棄した男をその気にさせることが目的の布切れを、これでもかと透過させ見せ付ける。
紐で胸に括り付けられたフリルで縁取られた三角の布は、本来的な目的を達成するには小さすぎる! いくら梓の胸が薄いったって、これはないだろ。しかもこれ、梓の胸の頂上をかろうじて隠すくらいの面積だし! ぐふッ……裾野部分がチラチラ見えてるし!
太腿で結んでる紐パンにしたって、かろうじて隠せてるってレベルの股上の低さだ。ほんの少し腰を前後させただけで見えちゃうぞ! ……って、やめろ梓腰を動かすな! 見える!
「こ、こんな服どこから持ってきた!」
「ここの隣のお部屋のクローゼット」
ああ、この口調、せっかくのかわいい声が台無しだ。……って!
「なに!?」
「あーやに、あの部屋のものは自由に使っていいと言われた。これから、梓が兄様の御用を足すとき以外はそこで待機している」
待て待て待て! 俺の御用ってなんだ? ひょっとしてアレのことか? 待雪の指で輪っかを作って上下に振る動作を思い出す。
いやいや、もっとツッコミどころ満載だぞ。
あーやって誰だ? いやな予感しかしないぞ。
一個ずつ考えよう。
まずだ、この屋敷の長男であるところの『竜洞生徒』の部屋がここだとすると、常識的に推理すれば、隣室は兄妹の部屋ということにならないか?
……ってことは、亡くなった『竜洞生徒』の妹の部屋ってことにならないか?
「なあ、梓、その寝巻きと下着の他にはどんな物があった?」
ロボ梓が並べ立てた『竜洞生徒』の妹の洋服箪笥部屋の伝説級幻想級アイテムの数々に、俺は頭を抱えた。いや、両手は今、使用不可だけどな。
貴様の脳みそは何色だ『竜洞生徒の梓』!
「これは、『いつまでたっても起きて来ない兄様を起こすとき用』と書かれた引き出しに入っていた」
ぺろりと上唇を舐め、ロボ梓が不敵に微笑む。
お前ら、生前、兄妹で何をしていたんだ『竜洞兄妹』!
「んふふ、あ・に・さ・ま」
ちょ、……ま。お前、今、俺の頭の中を満たしたゲスな想像通りのことをしようとしてる?
梓の顔が急接近してくる。俺は、未だにロボ梓のマウンティング下にあり、動けない。
「あ、あ、梓さぁん? 何をしようとしているのかなぁ?」
俺は敢えて、ロボ梓に言ってみた。
「お目覚めのキス」
神様からのGIFTともいえる、日本三大鳴鳥のオオルリのような涼やかなソプラノを、ドブに捨てるような口調で、ロボは答える。
首を左右に振ったり、伸ばしたりと、抵抗を試みる。
みるみるうちに、透明感のある桜色に色づいた唇が、俺の視野を埋め尽くしてゆく。
「あ、あず……」
妹を精巧に模った十八禁仕様(俺が元いた世界ではだが)のアンドロイドの唇が、俺のささやかな抵抗をものともせずに、目標に着弾した。
「んむ……ッ」
「んふ……んんん……」
マシュマロのような柔らかさと硬質ゼラチンの弾力、そして、かすかな湿り気が心地いい。
理性が反抗期を迎えた思春期一年生のように、サボタージュを始めた。
フワリと柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。
「はむ……んんんんん……」
その香りは俺のものでも、お部屋の消臭剤でもない。まさに梓から発せられている香りだった。
今よりももっともっとガキのころ、二本に割って食べるアイスを駄菓子屋で買って、梓と手をつないで食べながら歩いた陽炎がゆらゆらと立ち上るまっすぐな道をなぜだか思い出す。
「ん…くッ……」
ニュルリと柔らかく滑ったものが俺の口腔内に侵入して来る。それは海に住む軟体動物が食物連鎖下位のモノを捕食するときのように絡みつき締め上げ、優しい蹂躙を開始した。
「むふ……、ん、んんッ……ん」
甘い、少し粘性のある液体が、流れ込んでくる。
俺の口腔内を、暴れまわるロボ梓のそれは、ひたすら柔らかく優しい。昨日のパーソナライズのときの猫の舌の様なザリザリとした感触はなく、ただただ俺の口の中をニュルニュルとくすぐっていた。
「んは……ぁ」
やがて、粘性を帯びた液体のつり橋をかけながら梓の唇が離れる。
「兄様…元気……異常無し。体温正常、脳波正常、細菌ウィルス感染の兆候無し」
梓は舌なめずりしながら、俺の胸に手をついて上体を起こした。
「あず……うくッ」
俺も体を起こそうとするが、梓の手が、俺の胸を押さえつけ、体の自由を奪っている。
あと、恥ずかしい話だが、血が一点に集中してしまっているせいか、軽いめまいで少々頭がクラクラする。
こんな現象、『太刀浦資料』でしか読んだことないぞ。まるっきりの創作だと思っていた。
……って、結局昨日と同じかよ! 今回は俺の健康状態のチェックが目的かよ! 思わせぶりにそんなエッチいコスで俺のDT弄んだのかよ。
なんか、いろいろ元気になっちまったぞ、どーしてくれる。
まあ、健康チェックはありがとうだけどな。
「血圧ならびに心拍の上昇を感知。極軽度の脳貧血を感知。正常値の範囲内。対処の必要なし」
いや、それは、君のせいだからねロボ梓! 君のせいで血流が一点に集中したせいだからね。
「ところで、兄様、梓はアップデートした。内容の確認と動作試験をお願い」
ロボ梓は俺の都合というか、俺のさまざまを元気にしたことを忘れたように話題を強引に切り替える。
ものすごい力技だ。しかも、元気になりっぱなしのところに座ったままだ。
「え? ああ、うん」
「では、パソコンの電源をいれて」
ロボ梓が俺から降りて、机の上のパソコンを指差す。
「あ、ああ」
ベッドから降りて『竜洞生徒』のパソコンの電源を入れる。
あっという間に立ち上がり、使用可能状態になる。
相変わらず速いなこのパソ様は。
「ブラウザ選択、ブックマーク選択『極東人工少女廠』、ユーザーログインページ」
「え? え? え? え?」
コンピュータの画面が、梓の声にあわせて切り替わっていく。
なにそれ、コンピューターをマウスとか使わないで操作してるのか?
「兄様、IDとPASSをお願い」
さすがにそれは、俺がキーボードで入力しないとダメなのか。
IDとパスワードを入力。
画面が切り替わり………………。
ファンファーレが鳴った。
画面を見ると、
おめでとうございます。竜洞辰哉様。BD-XM000045 Mod-azの以下の機能が開放されました。…………だと。
「な……どういうことだ?」
「今日、会社の人が来て、梓の初期メンテナンスを実施した。その際、梓のいくつかの機能が解放された。それがこれ」
ロボ梓がパソコンの画面を指差す。
「えーと……」
身長を最高百五十五センチから、最低百三十センチまで、無段階に調節ができるようになりました。
バストサイズをAAカップからFカップまで無段階に調節できるようになりました。
ウェストサイズを四十八センチから六十センチの間で無段階に調節できるようになりました。
ヒップサイズを、六十八センチから八十四センチの間で無段階に調節できるようになりました。
手足の長さに関しましては身長とスリーサイズに合わせて自動調節されます。
年齢を八歳から二十歳までの間で指定できるようになりました。
各年齢ごとの標準体型が設定してあります。
設定は本画面下部の体型数値設定アイコンをクリックすることにより、設定画面がポップアップで表示されますので、LANでパソコンとBD-XM000045 Mod-azをつなぎ、その画面上でおこなうか、数値をBD-XM000045 Mod-azに音声で入力することで行えます。
お気に入りの容姿を十個まで登録できます。
お気に入りの登録および読み込み削除などは、BD-XM000045 Mod-azへの音声入力または、設定画面の管理アイコンから行えます。
「ん? 年齢設定って身長の他に何が変わるんだ?」
「目鼻口の間隔や、顔の長さ、骨盤の傾きなど、初潮を挟んで女子の体型は大きく変化する」
初ちょ……そうか、骨盤の傾きか……。かあっと耳が瞬時に熱をもつ。
「……てことは、百四十センチの身長で、二十歳の梓とか、百五十五センチ八歳体型の梓とかできるってことか?」
更には太刀浦の閉架資料にあった『ロリ巨乳』なる女神体型の梓もありってことか……。
……いや、まてよ。
「目鼻口の形は同じでも、位置を変えられるということは、全くの別人に成りすますことも可能」
俺の考えを見抜いたようにロボ梓が答えた。すごい機能だな。まるでくの一だ。
「うふふ、毎日違う容姿の女の子をとっかえひっかえできる。兄様、ハーレム主」
「いや、確かに趣旨的には合ってるかもしれないけど、ハーレムってやつは、たくさんいるからこそハーレムなんじゃないか?」
「だめ、兄様の夜伽は梓だけの務め」
夜伽って……。いやいや、それおかしいから。たとえロボとはいえ、それ専用アンドロイドとはいえ、君は妹だから。
ギシッ!
『竜洞 生徒』の社長さんのイスといってもいいような高級そうな(実際そうなんだろう)が軋む。
ロボ梓が向かい合わせに俺のひざに乗って腕を首に絡めてきた。
「だめ……兄様は梓専用」
いや、ちょっと待て。それって、主客が転倒してないか? あえて言うなら、ロボ梓が俺専用だろ?
そういう行為はしないけど。
……たぶん。
なんだ、このロボ梓の独占欲は。まるで人間みたいだ。
ああ、そういう性格設定なんだな。そういう子供っぽい性格に萌えて張り切る嗜好の人もいるだろうからな。
俺は違うから、そこらへんは今度、少し変更してもらおう。
「ん? まてよ」
この状況からは、全く脈絡がないことを俺は閃いた。
さっき、ロボ梓はこの伝説級のコスチュームを『竜洞生徒』の妹のクローゼットから持ってきたといってたよな。
ってことは、『竜洞生徒』と『竜洞生徒の梓』はマジでそういう関係だったってことか?
背中をいやな汗が流れ落ちる。
こっちじゃそれもありなのか? 人口減りすぎて禁忌も犯し放題なのか?
「メタモルフォゾ、マァマ、E」
ロボ梓が何事かつぶやく。…と、見る間に胸が膨らんでゆく。
「な、な、自分でも体型変更できるのか?」
「うふふふ、可能。オーナーへのサプライズを実施する機能が搭載されているから。うふふふ……、このサイズなら余裕で兄様を挟める」
は、は、挟むだって?
それって、あの、そして伝説になった絶技ぱふぱふの完全上位互換にして、円周率がズッコケたような発音で、フランス王ルイ十五世の重度ロリコンを矯正すべく愛妾ポンパドール侯爵夫人が考案したとまことしやかな俗説のくせに、フランスではなぜかスペイン方式と呼ばれている上に、日本では十八世紀の吉原遊郭の遊女指南書にも掲載されていたという紅葉あわせ。米国英語ではティットジョブ。
さらにいえば、お笑い芸人山○邦子がその呼び名を思いつき、当時アイドルだった榎本加○子が広めたという、あの技か? あの技を俺にかけるというのか!
以上の出典は前の世界の太刀浦だ。
「梓は今日この時点では最先端。頭部採取装置も下腹部採取装置も、兄様を最高の状態に導き、最大吐出量を採取することができる」
ロボ梓さぁん。それって、何気にとんでもなくエロッエロなこと仰ってませんか?
「大丈夫、まかせて、兄様は何もしなくていい。梓が全部実施する」
ロボ梓の大きく膨らんだ胸がたゆんと弾む。フリルで縁取られた小さな三角の布切れは、忠実に仕事をして梓の胸の頂上を隠している。いや、だが、その裾野は……以下略。
そういえば、バストが大きくなったのにブラジャー(といっていい代物だろうか?)の紐がちぎれもほどけもしていないのはそれがゴムだからか? ゴム製なのかその三角ブラの紐!
「兄様、梓のおっぱいを揉んだりつまんだりするといい。しゃぶられたら、梓はそれだけでもう……」
しゃ……しゃぶ……。
細く白い梓の指が、パジャマのボタンをはずし、俺の胸をはだけさせる。
「ああ……兄様の逞しい胸。梓はこの胸に抱かれるのをずっと夢見ていた」
ロボ梓は全身を俺に密着させる。脚が腕ごと胴体に巻きつき俺から自由を奪う。
俺のはだけた胸にロボ梓の巨乳が密着する。俺の胸と梓の間でつぶれ、ひしゃげて刺激的な眺めを作り出す。
「ふ、ふ、ふふ……これでまたリード」
ああ、たしかにお前にはリードされっぱなしだ。
ロボ梓は、アダルトな行為のためのアンドロイドだ。
そんな気になれない、役立たずな武器を奮い立たせ、立派に努めを果たせるようにするくらいの手管や会話術を山ほどインプットされているのだろう。
それはそうだ。たくさん搾り取って、国に納めなければ国家存亡の危機だからな。
「んふふ……兄様……」
再び梓の唇が、俺の唇をふさぎ、乱暴に舌を絡ませる。
絡み合った舌がほどけ、わずかに唇が離れる。が、すぐさまに吸い付かれ、俺は梓に唇を貪られる。
「ん、ん、ん、んんんんんっ……ふ」
ロボ梓の脚から少しだけ力が抜けて腕が解放される。
「さ…あ、兄様。これは兄様だけのもの。兄様だけが触れていいもの」
俺の右手がロボ梓の左手に導かれ、俺とロボ梓の間の隙間に入り込む。
「おおお……ふおおおおッ!」
そして……、俺の手に、この世の幸せを全部詰め込んだような感触が伝わった。
少し力を入れただけで、指が埋まるくらいにとてつもなく柔らかいのに、その指がはじき返されるような弾力。
しっとりとしてすべらかな肌は、まさにもち肌という表現しか思いつかない。
「おわああああ」
すっげー! 女の子の胸って、こんなにえもいわれぬ触り心地だったのか!
触ってるだけなのに幸せで頭が爆発しそうだ。
いや、正確にはアンドロイドの胸。擬似的触感だから、本物とはまた違うのだろう。
だが、ロボ梓は金持ちから投資を募る目的で作られた、手作り一点物のウルトラスーパーデラックスなモデルだという話だ。触り心地はおろか、全ての面で実際の女の子に限りなく近いに違いない。
と、すれば、俺は今、実際の女の子のおっぱいを揉んでいるのと大差ない感触を感じているということになる。
俺史上初の経験に、俺のDT部位が激しく反応してしまっている。
心臓の鼓動に合わせて脈動し、血流が集中して痛いぐらいだ。
だめだ俺、がんばれ俺、ロボとはいえ、そういう使用目的なロボとはいえ相手は、元の世界では、合意の上でも犯罪者になってしまうような娘だ。
それに、こっちではどうだか知らないが、俺は妹とそんなことはしない! ……たぶん。
だが、このままでは……くふッ! 所詮俺はこの程度なのか? 兄である前に、オスなのか? 情けないぞ俺!
「んふぅ」
ロボ梓が乗っかっている股間がじんわりと熱くなる。おいロボ梓! これって……。
「あふ…、兄様……ぁ」
鼻梁がカッと熱くなり、鼻の中を熱いものが流れ落ちる感覚。
キーゼルバッハ部位が限界を迎えた。さすがチェリーな俺様。GJだ。
ロボ梓よ、それは、サクランボをしょった俺には過ぎた刺激だったようだ。
「兄様!」
おお、ロボ梓よ。その発音は実にいいぞ。
それは、スケートの練習中にこけて頭をスケートリンクにぶつけた俺を心配して駆け寄ってきた『俺の梓』の声にそっくりだった。
毎度ご愛読誠にありがとうございます。




