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県立防衛幼年学校  作者: 茅野平兵朗
第1章 並行世界転生
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19 強制卒業の危機

「さて……、と、行ってみるか」


 俺がガキの頃から世話になっていた養護施設に足を向ける。

 高校生の俺なら、ここからでもたいした距離じゃない。小学生の頃は、まるで、別世界のように遠く感じたものだったけど、な。

 小桃のヤツはよくもまあ、こんな距離を一人で歩いて来れたものだとあらためて感心する。そしてまた、向こうの世界の彼女の行動力に感嘆する。


「あいつ、やっぱすげえ」


 俺が、厄介になっていた養護施設は、『竜洞生徒』のお屋敷から繁華街を挟んで反対側の官庁街の外れにあった。

 スパイナーと一緒なので、商業地区の端っこの人通りが少ない通りをコースに選ぶ。

 歩きながら、俺は、この世界をあらためてじっくりと眺める。

 まず気がついたのは、人の少なさだった。

 響と一緒にいた時間も含め、もうかれこれ30分以上歩いているのに、すれ違ったのはほんの二~三人だ。


(いくら端っことはいえ人通り少なすぎだろ)


 元の世界なら、同じコースを歩けば十数人くらいとはすれ違う。

 明らかに人が少ない。まるで、人間の数自体が減っているような感じだ。

 そして次に気がついたのは、すれ違った人の性別だ。男と出会うことがなかったのだ。だいたいどんな田舎の村でも、人口の半分くらいは男だろう。

 俺達の街はド田舎にある。市街地からちょっと外れるだけで田んぼが広がってたりするくらいのド田舎だ

 確かにド田舎ではあるが、この街は人口23万ちょっとを誇る地方都市でもある。

 東京でいったら調布くらいの人口だ。


(まあ、その数字は元の世界のこの街の人口なんだが……)


 こちらの世界のこの街では、30分も歩いて2~3人としかすれ違わず、なおかつ、男とはただの一人として出会わなかった。

 あと、街のあちこちに貼ってある、軍人の募集ポスターだ。元の世界で自衛隊のポスターをこんなに見かけたことってあっただろうか?

 とりあえず今のところ、断トツで目立つ俺の世界との違いは、人間の少なさ。特に男の少なさだ。

 あと、自衛隊が、軍隊として存在していること、憲法第9条はどうなってるんだろうか。


(防衛幼年学校なんてものがあるくらいだから、第9条なんていうものはないのかもしれないな)


 そういえば、メイドさんたちもなんか軍人さんっぽい言葉使いが混じってたような気がしないでもない。


「ふむぅ」


 俺は、この世界について、ある仮説を立ててみた。だが、そんな異常なことがあるのだろうか? それは、地球という惑星が育んできた生命の営みの否定につながるものだった。


 ※※※※※


「ねえ、きみぃ……どうしたのぉ、こんなところで」


 突然、後ろから女の人が俺に声をかけてきた。


「ひとりぃ? ねぇ、お姉さんと遊ばない?」


 え? え? え? なんだ、なんだ? これって、逆ナンってやつか?

 あんまり美人とはいえないが、俺みたいなサクランボ背負った男子には刺激的な胸元が大きく開いた体の線を目立たせるような成型された洋服にムチムチなボディを包んだ、二五~六歳くらいのお姉さんが、豊かな胸をゆっさゆっさと揺らしながら、近づいて来る。


「ねえ、ぼうやぁ。もう、あるんでしょ? お姉さんといいとこ行こうよぉ」


 お姉さんが、女性とは思えない力で俺の手首を掴む。


「え? いや、俺、急ぐんで」

「そぉんなこと言わないでさあぁ、お小遣いあげる・か・らぁ」


 お姉さんは俺の手を自分の胸に持っていく。

 ち、ち、ち、痴女だ。痴女だ。痴女だ。痴女だ。痴女だ。痴女だ。

 やばい、やばい、やばい、やばい! 今はそんな状況じゃねえのに!


「ねぇ、お姉さん、今、のーぶらなのよぉ」


 くそ、その気が無いのに、俺の意思とは無関係にナニが反応しちまう。


「ね、そこ、入ろ……。お姉さんが全部してあげるからぁ……。ぼうやは寝てるだけでいいから……、ね」


 むにゅむにゅとした、柔らかくもはね返すような感触……。これは、弾力というものか! その真ん中から手のひらに感じる異物感。シュウマイのてっぺんのグリーンピースに火が通っていないような……。

 こ、これは、ち……。

 っくくぅッ! いかん、いかん、いかん! どんどん血流が一点に集中していく。

 これは危険だ。デンジャラスだ! 今の俺にその気は全く無い。だが、それはそれ。オスガキの本能が勝手に反応しちまってる。臨戦態勢を整えちまってる。


「んふふッ……。お姉さん、キミみたいな子大好きよ」


 お姉さんの真っ赤な唇が迫ってくる。頭の中の警告灯が激しく明滅している。これは本当に危険な状況だ。

 だが、本能がものすごく気持ちいい状態だと判断している。


「や、やめてくだ……」

「んふふふ……、やめていいのかなぁ…。キミのこっち期待にはちきれそうなんだけどぉ」


 ペロリとお姉さんが真っ赤な唇を舐める。

 頭の中が沸騰して、ピンク色の靄で染まっていく。だめだ! だめだ! だめだ! だめだ! だめだ! だめだ!  だめだ! だめだ! だめだ! だめだ! だめだ!


「い、やば…」


 だめだ、逆らえない。お姉さんは俺の手を掴んでグイグイと引っ張ってゆく。

 そ、そっちは……。俺らみたいなガキが出入りできるような宿泊施設じゃ……。


「やめないか!」


 すうっと、頭の中のピンクの靄が晴れていく。


「何してるんだ! こんな少年相手に!」


 俺をサクランボからの強制卒業から救ってくれたのは……。

 ………………男性ファッション誌から抜け出してきたようなスマートなイケメンだった。ただし、胸についている大きな双房を除けばだが。

 おいおい、ふつう、ここで出てくるのは、堕ちた彼女を気遣う幼なじみの青年だろう?

 ことここに至ってまでヅカ系かよ。


「すまなかったね。彼女、もうすぐ終わりそうなんで焦っているんだ」

「だって、だって、あたし男の子が欲しいんだもん。男の子を産みたいんだもん! 男とセックスしたら男の子を妊娠できるかもじゃん! おどごのご生んだらいっじょうらぐでぎるのよおおッ! うわあああああああん!」

 

 お姉さんは辺りかまうことなく、泣き崩れる。

 オイオイと大声で泣き喚きながら、ヅカ系イケメンにすがりつく。


「大丈夫だから、ね、イザとなったらボクが君を貰うから。ね」


 たぶん、お姉さんの幼なじみなんだろう。一人称ボクの美人さんは、お姉さんを抱きしめ頭を撫でながら、俺にウィンクを飛ばした。

 俺は、声に出さずに『ありがとうございます』を言って、その場をそおっと離れる。

 お姉さんの泣き声はしばらく先まで聞こえていた。

 それにしても、『もうすぐ終わる』って何だ?

 『男の子が欲しい』って言ってたぞ。痴女って、行きずりの男とヤッて妊娠するのが目的か? いや、痴女ってのはナニするだけが目的だろ。その先はむしろ考えたくないはずだろう。

 だけど、あのお姉さんは俺とヤッて男の子を妊娠したがっていたんだよな。

 どういうことだ?

 男の子産んだら一生楽できるとも言ってたぞ。と、いうことは男の子を出産すると生活がかなりなレベルで保証されるということだろう。それこそ、最低限の文化的生活どころじゃなくてだろうな。


(……ってことは、やっぱりそうなのか?)


 不意打ち的な痴女との遭遇は、俺が立てた仮説に現実味をもたせるできごとだった。


(何らかの理由で男の子が生まれにくくなっている?)


 そして、その男児出生率は継続的に低下し続けている?

 ゾクリと背中を冷たいものが流れ落ちる。

 男児の出生率の継続的低下は、すなわち最終的には有性生殖の終焉を意味する。

 と、いうことは、人類という種が絶滅を迎えることに繋がってゆく……。


(まさか……な)


 俺はこのとき、この仮説が間違っていることを期待していたが、それが儚い希望だったということがすぐに判明することになろうとは……。


 ※※※※※


「へえ、ずいぶんカチカチな施設に変態してんな。元の世界のはもっと、ゆる~い感じの施設だったんだがな」 


 俺が厄介になっていた養護施設があったその場所には、『厚生省青少年寮』という偉そうな名称の施設があった。

 門前には人一人が入るくらいの箱状の建物があり、黒か濃紺の制服の目つきの鋭い女の人が中から辺りに殺気を放っている。


「こっわー、あんな怖そうな警備の人なんていなかったぞ」


 警備員自体がいなかったしな。


「あんな警備員置かなきゃならないくらいぶっそうなのか? こっちの世界は」


 物陰からしばらく観察していると、下は小学二年生位から上は俺みたいな年齢の女の子が警備の女性に挨拶して次々に入っていく。ランドセルを背負ってたり、制服を着てたりと年齢はバラエティに富んでいたが、ここでもやはり、男の子は見ることはできなかった。


「ほんとに男子が少ねえんだな」


 どうやら、養護施設は、名前が変わっているだけで基本的にはその業務内容は変わっている様子だった。

 男子の存在はその影さえ感じることはできなかったけどな。


「帰るか……、スパイナー、行こう」


 引き綱を軽く引く。


「くぅん」


 返事をするようにスパイナーは軽く鳴いて、とととっと、俺を追い越し前を歩き始める。

 俺を追い越すときに、俺のことを小馬鹿にしたような視線を投げつけることを忘れずに……な。

 ふん、どうやらこいつ、俺のことを完全にナメきってるな。ナメてるのが『俺』なのか、『竜洞生徒』なのかは、わからねえけどな。まあ8:2で『俺』なんだろうが。

お読みいただき誠にありがとうございます。

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