103 対IELFHM戦闘開始。でかいニンジンに釣られ俺はロボットを繰る
お待たせいたしました。
今回ちょっとグロな表現がございます。
耐性のない方はご購読をお控えくださいませ。
『アンノウン降下速度さらに減速。落着予定時間30秒後に修正。カウントダウン開始。28、27、26……』
「梓、コクピットを開けてくれ」
『了、コックピット開放、23、22……』
縛帯を外し、コックピットから這い出す。
気を利かせてくれた梓が、ロボをしゃがんだ状態にしてくれていた。
これなら飛び降りても大丈夫だ。
「qうぇrちゅいおp@あsdfghjk!」
捕虜たちが、何事かをわめきながら滑走路の上でのたうち回っていた。
ロープで数珠つなぎにされていることを忘れているのか、各々が別々の方向へ逃げようとしている。
これが本当の足の引っ張り合いだ。結局どちらへも動けずに、その場でのたうつことしかできていないのだ。
「ドン、ムーブ! アイヘルプユー!」
搭乗員服の上に着けているサバイバルベストからナイフを抜きながら叫ぶ。
発音が壊滅的なのは許してほしい。なにせ元の世界で俺たちに英語を教えていたジジイ教師は、街でアメリカ人に話しかけられて一言も連中に通じなかったという逸話の持ち主なのだ。
言葉が通じたのか、のたうつのをやめた捕虜たちのそばにしゃがむ。
『15、14、13、12……兄様急いで!』
相変わらず無機質な梓の声だが、微妙に焦りの成分が含まれているように感じるのは、自惚れだろうか。俺のことを心配してくれているっていう、な。
サクサクと捕虜をつないでいるロープを切断してゆく。
「お、おお、おおっ! すげぇ」
直径1センチはあろうかという頑丈そうなロープが紙のように切れてゆく。
「このナイフすげー切れ味だな!」
『10式振動小刀。重装甲戦闘機の外板を切り裂いて脱出路を啓開するための装備。ロープなど紙のように切断できて当然』
なるほど、パイロットサバイバルナイフのすげーやつか。前の世界で松雪の叔父さんのコレクションのそれを見せてもらったことがあったが、峰のところにノコギリがついてて、それでコックピットの外板を切り開いて脱出するって言ってたっけ。
ちなみにそのナイフは背中のノコギリが潰れていた……ってことは脱出に使われてたってこと?
と、松雪は言ってたがさて、どうだったのか。松雪のおじさんはそういう触れ込みで買ったそうなんだが……。
一部のミリタリーコレクターにとっては未使用新品よりも、そういう実戦で使われたものにこそ価値があるらしい……とは、松雪の弁だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
捕虜を数珠つなぎにしていたロープを切断し終えたのと同時に、俺の周りがふっと薄暗くなる。
見上げると恐ろしく巨大な朝顔みたいなやつが俺めがけて降ってきたのだった。
「「「ひいいいいいいいいッ!」」」
空から音もなく降って来た巨大な異様に捕虜たちが恐怖に引きつった叫び声を上げた
ことごとくが腰を抜かし、中には水たまりを作っているやつもいる。
流石に俺の腰も抜けかける。
『アンノウン、タッチダウン』
梓の声が冷たく鼓膜を揺する。
メリメリと言う破砕音をたてながら、巨大朝顔が滑走路のコンクリートを穿ち突き刺さった。
そして。
ピッピリリ……!
俺のすぐそばに突き立った巨大朝顔から、薄衣を裂くような音が聞こえる。
それは巨大朝顔の花びらが縦に裂け始めた音だった。
「な…………!」
ぐぱぁ……ッ!
でかいワニが口を開けたような音とともに、朝顔の花が縦に裂け他部分が、粘液の糸を引きながら外側に倒れていった。
『兄様早く! 喰われたいのッ!?』
焦れたような梓の声が、呆然としていた俺を引き戻した。
「ちッ!」
慌てふためき、泳ぐようにしてロボットに取り付きよじ登る。
コックピットに体を押し込んで、縛帯ってやつを締めて機体に自身を縛り付ける。
『搭乗員帰機、コクピット再閉鎖、零式白戦機戦闘準備。兄様、少し距離を取る。全速後退ッ!』
「了! だ、ぐぼえッ!」
俺の返事を待たずに、ロボが後ろ向きにダッシュしていた。あの高速走行してたローラーってやつだな。
IELFHMのでっかい朝顔の陸側に向かって開いた開口部から反対側の海側に向かって、急速に離れる。
逆Gで胃の内容物が逆流しそうになった。
『兄様、吐瀉物、大便失禁は搭乗員が責任を持って清掃するのが軍の伝統。
自分由来の汚物清掃をしたくなかったら、我慢して!』
「ば、ばがっだ!」
逆流してきた、胃の中身を無理やり飲み下す。
(おとなしく胃の中で消化の順番待ちをしてやがれ)
『04聞こえるか! 04、こちら司令部長門! オクレ』
ヘッドフォンから長門団長殿のアルトが流れてきた。
「アイ、アイマム。聞こえてま~す。オクレ」
俺は、ワザとらしくふざけた口調で応える。
なんかそっちが格好良さげだからだ。中二病と嘲笑わば嘲笑え。
『ふん、それは海軍の機体だからな。まあいい。ヨシ、では、キサマに任務を与える。現在、揚陸型IELFHMの強襲着陸により、当基地及び駐屯地は危機的な状況に陥ったのは解るな。オクレ』
「アイ、マム! 理解しております。オクレ」
おどけた口調は変えない。このロボに乗っているというだけで、俺は安心しきっている。
なぜなら、梓がこの中はこの地球上で一番安全な場所だと言ったからだ。
30ミリ機関砲弾も跳ね飛ばすボディをもった、アンドロイド妹が地球で一番安全だと保証してくれているのだ。
安心するなって方が無理筋だ。
『観測の結果、敵総戦力は、戦車型IELFHM3、歩兵型が40だ。今、ここで、こいつらを殲滅しなければ、ここを拠点にIELFHMが日本を蹂躙する事になることは理解しているか? こいつらは威力偵察兼尖兵というわけだ。オクレ』
「そんなこったろうと思っておりました。マム。オクレ」
『よろしい、ではキサマの任務はなんだ? オクレ』
「アイ、マム! 速やかなる敵の殲滅であります! マム! オクレ」
『そうだ、速やかなる敵の殲滅だ! 一匹残らずの殲滅だ! キサマのやることは唯一つ。IELFHM共に地獄を見せてやれ! 我々人類が見てきた地獄をそっくりと返すのだ! オクレ』
「アイ! マム! 一匹残らずの殲滅、了! オクレ」
『ああ、ちなみにだが、我々が今日ここで得る勝利は、人類が初めてIELFHMを人類の領域から駆逐したという偉業となる。つまり、キサマは人類初の偉業を成し遂げる英雄様となるわけだ。嬉しかろう? オクレ』
「そんなもん犬にでも喰わせておけであります。マム。オクレ」
『上等だ! では速やかに任務に取りかかれ! 我々には敗北は許されない! すなわちそれは、日本の滅亡に直結するからだ! オワリ』
「了! 任務を開始します。オワリ」
『ああ、そうだ、首尾よく任務を完遂したなら、抗命罪での軍法会議の開廷は考慮してやる。オクレ』
「おお! それは特上のニンジンであります。オクレ」
『では敵IELFHMの死体の山を築け! オワリ』
「了! オワリ』
じゃあ、とっととIELFHMとやらを殲滅するか……。
『ふん、恩着せがましい。長門のくせに……。兄様と梓に頼らなければ歩兵型IELFHMの足止めがせいぜいのくせに……』
「そういうなよ梓。あのお方はそういうことを言うのが仕事なんだから、さ」
『ウフフフ、さすがは兄様……はぁと……梓の兄様。そこいらの人間とは余裕がチガウ』
「そうかぁ? 結構テンパってるぜ。俺」
『大丈夫、兄様の心拍並びに血圧、脳波はいたって平常値にある』
「そっか、じゃあ、とっとと終わらせよう」
『了……はぁと……あ・に・さ・ま』
と、腰だめに30ミリライフルを携え、前進する。
そして、そこで目にしたものの悍ましさに嘔吐く。
「んぶッ! おえッ! おえええええええッ!」
『兄様! しっかり!』
「……ッ、くそ! なんてことしてやがる」
俺は今度こそ胃の中身をぶちまけた。
前進した俺が目にしたのは、生命を冒涜し尽くしたような悍ましいフォルムの歩兵型と呼ばれているIELFHMという地球外生命体が、逃げ遅れた亜洲超大国の捕虜を相手に繰り広げている惨状だった。
いや、それは惨状というのも生ぬるいものだった。
手足を引きちぎられて喰われながら、歩兵型IELFHMの股間から生えた突起に刺し貫かれ、うっとりとした表情で体を上下に揺さぶられているさっきまで敵だった亜洲超大国の兵隊。
その腹部に別の歩兵型がかぶりつき、ハラワタがぶちまけられる。
だが、亜洲超大国兵は相変わらずうっとりとした表情のままだ。
『04、その光景を網膜に刻みつけろ。キサマがそいつらを殲滅しなければ、大和や信濃、おまえのクラスメイトたちが皆そうなるんだ』
「了! ぐぷッ、おえぇ……」
『兄様、いつでもいける。敵はお食事に夢中でこちらに気づいているものはいない』
「了! だ。クソったれッ!」
急激に視界が暗くなり、例のスポットがIELFHMの背中に浮かび上がる。
そのスポットに、ヘルメットのバイザーに浮かび上がった照準が合致するように腕を動かす。
「死ィねええええええええええええええええええええッ!」
元の世界の親にも、元の世界のあのゴリラの美洲丸勇にさえ抱いたこのとのなかった殺意を込めて、人差し指に力を込める。
ダムッ!
外では轟音になっているだろうが、この中では指を鳴らした程度の30ミリ対IELFHMライフルの発射音が聞こえたかと思うと、捕虜を貪り喰っていたIELFHM二体が臓物を撒き散らしながら飛び散っていた。
『攻撃開始! ぅてええええええええええッ!』
鼓膜を劈くような長門団長閣下の号令が響く。
とっさに俺はでかい朝顔の陰に隠れる。
『兄様、大丈夫。梓の装甲は、対IELFHM小銃ごときでは歯が立たないのはこの世の真理。梓の装甲は、駆逐艦クラス以上の主砲で二十連射しなければ撃ち抜けない。それを知っているから長門もあーやたちもこちらに向かって攻撃を開始した』
「でもなぁ、梓。フレンドリーファイアだっけ? にさらされるのは嫌なんだよ」
『ウフフフ、ついさっき、兄様自身がやらかしたことなのに?』
「あ、ひょっとして、みんな、ここぞとばかりに仕返ししてるのか?」
『ンウフフフ、それは否めない』
「うへえ……」
キンコンカンコンカンコンと、俺達に味方の銃弾が当たっている。
その音を聞きながら、俺は、
(でも仕方ないじゃないかさっきはそうする以外に、捕虜を人喰いインベーダーから助ける方法を思いつかなかったんだから……)
と、今の状況を嘆く。
何人かはIELFHMに喰われてしまったが、大部分の捕虜は逃げおおせたはずだ。
『04、聞こえるか。仕事だ。先発の敵歩兵型は概ね黙らせた。ここからはキサマの仕事だ。上陸突撃してくる戦車型を殲滅せよ。爾後、残敵歩兵型の掃討を開始する』
「アイ、アイ、マム!」
ちょうど朝顔の開口部から生命を冒涜し尽くしたフォルムの大型IELFHMが出てきた。
『兄様、戦車型の後にも歩兵型が残っている。さっき出てきたのは威力偵察員だったみたい。戦車型の後に本隊が続いている』
「了! 敵戦車型を殲滅する。梓! 前進だ!」
『了! 零式白戦機、戦闘前進を開始する』
「おう! 派手にやるぜ! 零式白戦機、前へーッ! だっけ?」
『うん、兄様、白戦機前へ』
そう言って俺は腰だめに30ミリ突撃銃を構え、一歩を踏み出したのだった。
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