第1節 高校男子の憂鬱な春休み
高校一年生、蜂宮 耕平はこれから始まる春休みが憂鬱なものに思えてしかたなかった。彼は重い足取りで自宅のあるマンションに帰る。帰り道の大通りにある桜は五分咲きであり、桜の花などには大して興味の無い少年でも少しくらいは浮かれた気持ちになるものだが、蜂宮 耕平にはそれが全く無かった。
耕平は無言のまま玄関の鍵を開け、自室に入る。母親は出かけているようだ。
「がんばったんだけどな…」
彼は整理整頓された机の上に成績通知表を放り投げた。
どうせ、母親が勝手に見るだろう。
成績通知表は10段階評定で、平均7.5。悪くはないが、それほど良くもない。少なくとも彼の努力が報われたとは言えなかった。
耕平が通っているのは、この地域で一番と言われる進学校(共学)である。
受験のとき、耕平の合格判定はCやDであり、合格の見込みは事実上無かったが、耕平は「本人の強い希望」で押し通して受験し見事合格した。しかも、耕平は入学式で一年生総代に選ばれた。それは合格者の中で成績首位であることを意味しており、家族を含め中学自体の彼を知る周囲をいたく驚かせた。
しかし、総代として周囲の耳目を集めた割には、入学後の成績は芳しくなかった。彼はそれから勉強はしたものの、結果は7.5だった。
「はああ、マジかよ、何でだよ」
彼はスマホをもう一度確認した。
仁子がいきなり耕平のIDをブロックしたのだ。ブロックしたことを隠す様子もない。
藤安 仁子と耕平は彼氏彼女として付き合っていたわけではないが、良い異性の友達としてイイ感じではあったのだ。
仁子にそんな真似をされるような覚えが彼には無かった。
さて、彼がスマホを懸命に操作している間、彼の人となりに話を移す。
まず外見だが、蜂宮 耕平はいわゆるイケメンと周囲に認識されている。だからといって、それを彼が鼻にかけることは全くなかった。
そして、高校一年生の男子の割には、男子に対しても、女子に対しても、耕平はきちんと気遣いができていた、それだから人柄も好かれ、周囲の評判もとても良いものだった。
彼は生徒会に所属している。
総代に選ばれたことで、入学式のリハーサルで生徒会と交流があったことから、なし崩し的に所属したのだが、他の部活に魅力を感じなかったこともあり、生徒会に入ったことに後悔はなかった。
だが、入学して1年経とうとしている今、なんとなくうまく行かない気持ちから、彼は逃れることができなかった。
「なんでだよ」
自分しかいない部屋に向かって、彼は文句を言った。着替えるときに定期券がないことに気づいたのだ。
最寄り駅の改札は通り抜けているのだから、定期を無くしたのは駅から家までの間に違いない。彼はどうすべきか考えた。部屋を探すか、駅まで引き返すか、やはり、先に駅まで探しに行くのが正しいだろう。そうだとはわかっても、これからもう一度外出しなければならないことが、彼にはおっくうだった。
「はああ、ついてないな」
そういいながら、蜂宮 耕平はもう一度スマホを開き、指で何度かメニューをスクロールしてタップする、何度も行ってこなれた動きで、何度も見返したアプリを開いた。
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「は~、せっかく転生したのに、イマイチだよなあ」
耕平はそう言って、玄関の鍵をかけた。