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サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
22/29

最大の危機★

    挿絵(By みてみん)

 クラスマッチもいよいよ、男子の決勝戦を残すのみとなった。


 グラウンドの隅に設置されたバレーボールのコートの周りに、A組とD組の生徒達が集合している。彼ら以外に、既に敗退したクラスの生徒も集まり、辺りは多くの生徒らで埋め尽くされている。


 夏田の描いた筋書きとしては、受け持つD組が優勝し、室井と高橋とのカップルが誕生しハッピーエンド……のはずだったが、ここへ来て思わぬハプニングが発生した。

 A組担任のガチホモ教師、保茂山がD組の男子生徒にちょっかいを出そうと目論み、決勝戦におかしな条件をつけてきた。


「さあ、約束通り、この試合A組が勝てばD組の可愛い男子生徒ちゃん達は、放課後生徒指導室に集合ヨォッ!」

 

 保茂山のケタケタという、気味の悪い笑い声がグラウンドに響く。そして、腰を前後に小刻みに動かしながら、不安げな表情を浮かべるD組の生徒達を横目で見る。夏田はそんな保茂山に近づき、


「あのなあ、保茂山。理事長が何と言おうが、生徒に手を出したら俺が警察に突き出してやるからな!」

 

 しかし保茂山は意に介さず、

 

「アラ、私平気よ。警察官にもイケメンは一杯いるから、むしろ楽しみダワ」


 審判の声がかかり、第一セットを戦う選手達はコートに散らばる。いよいよ決勝戦開始の笛が鳴った。


「いいかお前ら、集中していけよ! ガチホモ野郎の言う事なんか気にするなよ!」


 夏田の声に、皆返事を返したものの、やはりどこか煮え切らない印象。皆心の奥に不安を抱えているようだ。そして、D組の選手がサーブを打とうとした時、異変に気づく。なんと、保茂山が相手コートの中にいるではないか。


「おいコラ、保茂山! もう試合が始まるんだから、どけっ!」


 夏田は注意したが、保茂山は相変らず好色そうな脂ぎった笑みを浮かべたまま、


「私も試合に出ますノヨ」


「何言ってやがる!? てめえは教師だろうが!」


「そっちのチームにはバレー部の子が一人いるけど、こっちのチームには一人もいないから不公平ですワ。だから、昔バレーをやってて、国体にも出場した事のある私が入る事にしたノヨ」


「勝手に決めるな! クラスマッチは生徒同士で戦うもんだろうが!」


「アラ、ちゃんと理事長の許可は得てますワヨ。なんなら、また電話して聞いてみレバ?」


 夏田は再び理事長に電話したが、理事長は弱々しい声で「とにかく保茂山の言う通りにしてくれ」との事だった。呆れた顔で電話を切り、D組の選手達に声をかける。


「皆、とにかく今まで通り戦え! もしもの時は俺が何とかしてやる!」


 仕方なく、このまま試合を始める事になった。

 

 D組の選手がサーブを放つ。A組の選手がレシーブし、セッターが保茂山の頭上にボールを上げる。高々と上がったボールが落ちて来るタイミングに合わせ、保茂山がジャンプする。


 バシン、という大きな音がグラウンドに響く。


 保茂山の強烈なアタックが決まった。

 それは、彼の国体に出場した事があるという言葉を裏付けるのに十分な迫力に満ちていた。

 

 D組の生徒達の間に不穏な空気が流れる。

 須山や佐野までもが、微かに表情を曇らせている。


「ほら、しっかりしろ! あんなの全然大した事ねえぞ!」

 

 夏田の声が聞こえたのと同時に、A組の放ったサーブが飛んで来る。

 須山がトスを上げ、佐野がアタックを打つ。

 しかし、眼の前に保茂山が立ちはだかり、ブロックを決められてしまう。

 これでA組の2連続ポイント。


「やべえ……あいつ、本物だ……!」


 バレー部の須山が小声でつぶやく。


「とにかく、集中して行こう。一本ずつ」


 佐野の言葉に須山が頷く。D組としては、とにかくこの両輪が活躍しない事には話にならない。

 クイックプレーを駆使して打開を図るが、保茂山は周りの選手達に適格な支持を出し、D組に連続ポイントを与えない。それどころか、ジリジリと引き離されて行き、結局25対14で第1セットを落としてしまう。


 この大会で初めて第1セットを落としたD組。

 少しうなだれる様にしながら、戻って来る選手達。


「先生、あの人マジ本物だよ。国体に出たってのは、多分本当だよ」


 須山が渋い顔で夏田に言った。夏田はこっくりとうなずき、


「俺もそう思う。まあ、スポーツやってる人でも、たまにそういう人はいるらしいからな」


 室井はそんな彼らの会話を側で聞いていたが、これまでにない程の緊張が込み上げて来ていた。佐野はもう、第2、第3セットには出場出来ない。その2つを落とせばストレート負けになってしまう訳で、最低でもそのどちらかは取り、佐野が復帰する第4セット以降に繋げたい。しかし、第2セットには須山も出れないので、そうなると自分がどれだけ頑張れるかにかかって来る。


 まさに、最大の危機を迎えたD組。室井は緊張をなるべく表情に出さないように努めた。自分がこの第2セットに出場する選手達を引っ張らなければならないという自覚がそうさせた。


 審判の笛が鳴り、大きな声援が響く中、選手達は白線を越えコートの中に散らばった。


 

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