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第3話 大家さんを説得してもらいました

「おばあちゃん、蜜柑です。入ってもよろしいでしょうか?」


「大丈夫ですよ、お入りなさい」


「は・・・はい、失礼します」


 零夜と蜜柑の二人はミカン荘と隣にある別館を繋いでいる短い廊下を渡って行き、とある一つの部屋でその足を止めた。

 蜜柑は部屋の襖を軽くノックして、部屋の中に居る人物から入室の許可を貰ったことを確認してから、襖を開けて部屋の中に入って行った。

 部屋の中にいたのは紫色を基調とした着物を身にまとい、座布団の上で正座した状態のまま湯のみでお茶を飲んでいる蜜柑の祖母でありこのミカン荘の大家である智子だった。


「朝からそんなに慌てて一体どうしたのですか?それに、後ろに居るのは・・・」


「はい、先程お話したミカン荘の前で倒れていた黒崎零夜君です。実はこの黒崎君のことでおばあちゃんにお話したいことがあって来ました」


「話したいことですか?」


「は・・・はい」


 智子は慌てて自分の部屋にやって来た蜜柑に若干呆れながらも、無言で蜜柑の後ろに立ち部屋中を見渡している零夜の存在に気が付いた。

 蜜柑は何処か緊張した面持ちで、自分の後ろに立っている零夜のことで話があると言った。

 智子は蜜柑の話を聞くと、今まで手に持っていた湯のみを目の前にあるちゃぶ台の上に置き、座布団に座ったままの状態で身体の向きだけを蜜柑と零夜の方に変え、話しを聞く姿勢を整えた。


「それで、蜜柑の後ろに居る黒崎零夜君について話したいことって何ですか?」


「じ・・・実は、この黒崎君は記憶喪失で自分の名前と年齢以外のことを思い出すことが出来ない見たいなんです」


「なるほど、それは何とも可哀想な話ですね」


「だから、せめて記憶が戻るまで黒崎君をこのミカン荘に住まわせて上げたいと思って・・・ダメでしょうか・・・?」


 部屋の中にピンッと張り詰めた空気が流れる中、緊張した面持ちのままで蜜柑は零夜が記憶喪失であり、名前と年齢以外のことを思い出すことが出来ないと言うことを智子に話した。

 蜜柑は零夜が記憶喪失だと言う話を聞き、同情している智子を見て、更に畳み掛けるように零夜を記憶が戻るまでこのミカン荘に住まわせて欲しいと言うお願いをした。


「確かに、蜜柑の話を聞く限り私も黒崎君のことをミカン荘に住まわせて上げたいのは山々何ですけどね・・・」


「や・・・やっぱり、ダメでしょうか・・・?」


「ダメでは無いですけど、これに関しては私と蜜柑だけで決めていい問題では無いですからね・・・」


「や・・・やっぱり、そうですよね・・・」


 蜜柑はそんな智子の表情を見て、やはり零夜を現在女性しか住んでいない、このミカン荘に住まわせることは無理なのかと悟り、悲しそうな表情で眉を落としていた。


「・・・・・・分かりました。蜜柑がそんなに言うのなら、黒崎君のことは私が責任を持って皆さんにお話をしておきます」


「えっ!?本当ですか!?」


「はい、本当ですよ」


「ありがとうございます、おばあちゃん!!」


「お礼はいいですから、蜜柑はまず学校に行きなさい。いくら、ここから学校が近いと言ってもそろそろ出ないと遅刻しますよ」


「あっ・・・本当だ!!おばあちゃん、本当にありがとうございます!!それじゃ、行ってきます!!」


「慌てずに車とかに気を付けて行くんですよ」


 自分の表情を見て悲しそうな表情で眉を落としている蜜柑を見た智子は多少の間を開けながらも零夜を自分が責任を持って自分から他の住人に話をしておくと宣言した。

 智子のそんな言葉を聞いた蜜柑は嬉しそうな表情で顔を上げると、そのままの勢いで座布団に座ったままの状態である智子に勢いよく抱き着いた。

 孫である蜜柑に勢いよく抱き着かれた智子は若干よろけながらも座布団に座ったままの状態で蜜柑をしっかりと受け止め、恥ずかしそうに蜜柑を引き離すと早く学校に行くように言った。

 蜜柑は智子から離れて壁に掛けられている掛け時計を見て時間を確認すると、改めて智子にお礼を言ったあと学校に行くために部屋から飛び出して行った。


「自分から言うもの何ですけど、本当に素性の知らないこんな俺をここに住まわせても大丈夫何ですか?」


「まぁ、大丈夫な訳は無いですよね」


「そうですよね」


「ですが・・・、孫である蜜柑の頼みですから私が責任を持って住人の皆さまを説得して黒崎君がこのミカン荘に住んでもいいと言う許可を貰いますから安心してください」


 蜜柑が学校に遅刻してしまうということで慌てて部屋を飛び出して行ったため、今部屋の中には零夜と智子の二人だけで、二人の間には何処か気まずい空気が流れていた。

 この部屋に来てから蜜柑の後ろに立ったまま一言も喋っていなかった零夜が遂に口を開き、智子に"素性の知らない、自分を住まわせても本当に大丈夫なのか"と聞いた。

 すると智子は、ハッキリと"大丈夫な訳は無い"と言ったあと、"孫である蜜柑の頼みだから、自分が責任を持って他の住人を説得する"と言った。


「お孫さんである蜜柑さんからの頼みだといえ、素性の知らないこんな自分のことを受け入れて下さり本当にありがとうございます」


「別に良いんですよ、黒崎君はまだ子どもなのだから。子どもが困っている時に迷うこと無く手を差し伸べるが私たち大人の役目なのだから」


「はい、本当にありがとうございます・・・」


 零夜は改めて智子の口から"責任を持って自分が住人を説得する"という言葉を聞くと、頭を下げながらお礼の言葉を口にした。

 智子はそれに対して"困っている子どもに手を差し伸べるのが自分たち大人の役目なのだから"と答えた。

 智子のそんな暖かい言葉を聞いた零夜は思わず涙を流しながらも、再びお礼の言葉を口にしたのだった。


「男の子がそんな簡単に泣いてはいけませんよ、ほらこのハンカチでその涙を拭きなさい」


「ありがとうございます・・・」


 智子はお礼の言葉を口にしながら涙を流し続けている零夜に対して、持っていたハンカチを手渡し目から流れている涙を拭くように言った。

 零夜は智子からハンカチを受け取ると、何度も"ありがとうございます"と言いながら、受け取ったハンカチで涙を拭った。


「すいません、ハンカチをありがとうございました」


「いいえ。それで、零夜君からは私に何かをお願いしたいこととかはありますか?」


「いや、これ以上皆さんにご迷惑をお掛けすることは出来ないですよ」


「先程も言いましたが、困っている子どもに救いの手を差し伸べるのが大人の役目。子どもが大人に遠慮するものではありませんよ」


「・・・・・・分かりました。それじゃ、俺を学校に通わせてください、お願いします」


 零夜は涙を拭い終わると涙で濡れたハンカチをお礼を言いながら智子に返した。

 智子はそんなハンカチを受け取ると、ハンカチが涙で濡れていることを気にすることも無く、普通に受け取り机の上に置くと、零夜に"他に何かお願いしたいことは無いか"と聞いた。

 零夜は"これ以上、迷惑を掛けることは出来ない"と答えが智子に"子どもが大人に遠慮するものでは無い"と言われると、少し考え込んだ末"学校に通わせて欲しい"と言った。


「学校ですか?」


「はい、学校に通えばもしかしたら俺を知っている人に出会えるかもしれませんし、もし出会えなかったとしても何か記憶を戻すキッカケを得ることが出来ると思って」


「なるほど、確かにその可能性はあるかもしれませんね。分かりました、私が黒崎君の身元保証人となって蜜柑が通っている高校に編入させましょう。あそこの高校の校長とは古くからの同級生ですしね」


「ありがとうございます」


 零夜は学校に通いたい理由を話すと、そんな理由を聞いた智子は"なるほど"と納得したあと、自分が"身元保証人となり、蜜柑が通っている高校に編入させる"ことを了承した。

 零夜は無茶なお願いを聞き入れてくれた智子に対して三度お礼の言葉を口にした。


「別にいいのよ、これも大人の役目なのだから。それでは、他の皆さんが帰って来るまで、ここで私とお話をしていましょう。お互いに色々と話しておいた方が今後のためにもなるでしょうから」


「はい、分かりました」


 そして零夜と智子は身元保証人になるのならお互いにお互いのことをより深く知っておいた方がいいとなり、蜜柑を含めた他の住人達がかえって来るまでの間、この部屋でお互いのことを知るために色々な話をし始めた。

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