星降堂:別館にて
あれから十数年が経った。
僕はすっかり大人になって、かねてからの夢だった雑貨屋を営んでいる。
その名も星降堂・分館。幼いころ世話になった店にあやかってのことだ。
僕は魔法使いだ。
仕入れた雑貨に少しだけ魔法をこめて、少しだけ不思議な雑貨として、お客様に販売している。
例えば、勉強が好きになるボールペンだとか、スポーツが上手くなるリストバンドだとか。そういった、ワクワクが詰め込まれた雑貨だ。
「魔法使いさんは、誰に魔法を教えてもらったの?」
今日も、店にやってきた幼い子供が、僕に問いかけてくる。大人はともかく、子供たちは、僕が魔法使いだということを信じてくれている。
だから僕は、杖をふってこう答えるんだ。
「昔々、僕が子供だったころ、とある魔女さんに教えてもらったんだ」
空中に描くのは、かつて魔法を学んだ星降堂。売り場にかざられた、ため息が出るほど美しい雑貨たち。
あの出来事を、一時だって忘れたことはない。黒ずくめの魔女さんと、見えないブラウニーと暮らした一年は、宝石のような日々だった。
今はもう、あそこには行けないだろうな。そう考えて、さびしさを拭うように、描いた星降堂の景色を消した。
カランカランとベルが鳴る。新しいお客様が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」
僕は、顔を上げて声をかけて。
目を丸くした。
真っ黒で長い髪。黒いワンピースと、黒い三角ぼうし。黒い左目と、赤い右目の女の人。
彼女は店内を見回して、「くひゅひゅ」と引き笑い。そして僕に視線を向けて、あの時のようにからかった。
「姉妹店を作るなら、許可を取ってからにしてくれないかい?」
なつかしさのために込み上げてくる涙を、まばたきで追いやって、僕はその人にたずねた。
「何か、お探しですか?」
魔女さんは言う。
「キレイなお店だから、思わず入っちゃったのさ」
✩.*˚
『星降堂の魔女の弟子』おしまい
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
ちなみに、こちらの物語、作者の過去作から世界観を引っ張ってきております。
「私が本当にやりたいこと」→「キミのトリコ!」
https://ncode.syosetu.com/n0618iq/
「オバケなんか怖くない!」→「星の賢者と1等星」
https://ncode.syosetu.com/n5970hx/
宜しければ、こちらの作品にも遊びに来てくださいませ。
では、お粗末様でございました。ありがとうございました。