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お茶会 2

 フリッツが留守の間、リディアは屋敷でのんびりと過ごしていた。ただ、いつものように部屋に引きこもっていたわけではなく、社交界での礼儀作法を復習したり、ダンスの練習をするなどしながら過ごしていた。フリッツの呼んでくれた教師の教えは分かりやすく、初心者同然のリディアにも根気良く優しく教えてくれている。

 しかし今日は普段と違い、屋敷の中をメイド達が慌ただしく走りまわっている。

 

「お茶会へ参加するのだから、しっかり綺麗にしてちょうだい」

 

 まるでこの屋敷の女主人のようにメイド達へ指示を出しているのはエレノアだ。リディアはただ言われるまま湯浴みをし、化粧をして髪を整えている。


「さすがは辺境伯様ね。ドレスの数も多いし、お姉様のことを考えて作られた物ばかり揃っているわ」

 

 ドレスを選んでいるエレノアはなにやら感心しているが、リディアは状況をまだ理解していない。


「あの、お茶会ってどういうこと?」

「手紙をくれたでしょう。ついにお姉様も社交をする気になったのだと嬉しいわ」

「手紙?」

「ええ、一緒にお茶をしたいって書いてあったから、まずは気心の知れた友だちのお茶会から参加するのが良いと思うの」

「いえ、あれは私たち二人だけでお茶をしようと思っていたの。どこかのお茶会に参加したい訳ではないのよ」

「ええ!? 私はてっきり辺境伯様のために社交を頑張るのかと思ったのに……。でもまあいいわ。とにかく、お茶会には参加してもらいます」


 一瞬驚いたエレノアだが、すぐにドレス選びに戻ってしまう。

 いずれ社交は頑張らなければならないが、今ではない気がする。それに以前、フリッツから余計なことはするなと言われている。勝手なことは出来ない。


「いずれ社交はするけれど、今は出来ないわ」

「なぜですか? せっかく王都にいるのですから、きちんと婚約者の役目を果たしたほうがよいのでは?」

「だって私たち正式な婚約者じゃないでしょ」

「何を言ってるんですか? 正式に婚約の取り決めをしているでしょう」

「それはエリィと取り決めるはずの婚約で、私ではないわ」

「そうかも知れませんが、お姉様の名前で取り決めてあるから問題はありません」

「それに、いつか婚約破棄する予定だもの」

「はい!?」


 さすがにドレスを選んでいたエレノアの手が止まり、リディアを見る。その顔は目を大きく開き、驚きの表情をしている。

 

「どういうこと?」

「え? どうって?」

「とりあえず、一旦人払いしましょう」


 エレノアは部屋にいるメイドに指示を出し、部屋から追い出す。誰も居なくなったところで、あらためてリディアに向きなおり問いただしてくる。


「婚約破棄するとはどういうこと?」

「騙して婚約したから破棄するのはおかしなことではないと思うけど」

「それは辺境伯様が破棄したいと仰ったの?」

「いえ、そうではないけれど……」


 そういえば、破棄したいと言ったのはリディアの方だ。フリッツからは、すぐに婚約破棄するのは良くないから時間が経つのを待てと言われただけで、具体的なことは何も知らされていない。

 

「なら、このままで良いじゃない。それに、やるだけやって捨てるなんて最低野郎よ!」

「え?」

「まさかとは思いますが、子どもが出来ていたりしませんよね!?」

「なっ、なんで!? 出来るわけないでしょう!」


 突然すぎる質問に、リディアは顔を赤くする。


「だってお姉様、すでにそう言う関係だと言ってたじゃない」


 エレノアの言葉に驚く。メイドたちを外に出しておいて良かった。妊娠しているなどと噂が立ってしまったら、フリッツに迷惑をかけてしまう。


「そんなこと言ってないわよ!」

「この間、言ったじゃない。辺境伯様としたって」

「この間っていつ!? そんなこと言わないわ」

「刺繍を頼みに行ったときよ。お姉様ったらだいぶお疲れのようでしたよ」


 刺繍? 疲れていた? と混乱する頭で考える。そして思い当たる。

 

「あれは散歩をしただけ! 変なことはしてないわ」

「……外で? 辺境伯様がそんな人だったなんて。やっぱり婚約は考え直した方が良いかも……」

「なんでそうなるの! だから誤解なの!」


 なにやら、あらぬ方へ考えが暴走しているエレノアに、リディアは説明をしようとする。


「お姉様が了承しているなら、私からは何も言いません」


 なにやら勝手に納得したらしい。


「エリィ、私の話をきちんと聞いて」

「分かっています。人の嗜好は色々ですから」

「全然分かっていないわ」


 このままではリディアの貞操と、フリッツの沽券にかかわると思い、必死に説明をするのだった。




 



「あら、私ったらとんだ誤解を」

「分かって貰えたなら良かったわ」


 リディアの必死さが伝わったのか、なんとか誤解を解くことが出来た。エレノアは思い込んだらそのまま突っ走る性格なので、早くに気がつけて良かった。


「一応確認するけど、誰にも言ってはないわよね?」

「……ふふふ」


 笑顔で顔を逸らされる。まさかとは思うけれど、誰かに言ったのだろうか。


「エリィ、誰かに言ったの?」

「詳しくは話してないわ。仲がとてもよろしいとだけ」

「それは誰に?」

「……お父様」


 小首を傾げて可愛らしく言っているが、よりにも寄って父親に言っているとは。


「大変仲がよいので、このまま式を上げても大丈夫だと伝えました」

「それでお父様はなんて仰ったの?」

「それは良かった、と。式の準備を早めると言っておりましたわ」

「それは具体的にはいつ?」

「そこまでは分かりません。けれど早めるなら辺境伯様にも手紙を送っているのではないですか」


 婚約破棄をしようとしていたのに、まさか順調に式の準備を進められているとは思わなかった。エレノアが来たときにしっかりと伝えておけば良かったのだけれど、すでに手遅れだ。フリッツに連絡がいっているのならば、きっと上手く説明してくれているだろう。そう思っていると、ふと思い出す。


「……手紙。私、手紙を送ったわ!」

「ええ、手紙なら読みましたよ。、だからこうしてお茶会の準備を……」

「違うわよ。私、お父様に婚約破棄をしたいと手紙を出したの」

「そんな手紙は届いてませんが?」

「いいえ、送ったわ。お父様宛だから、エリィが知らないだけよ」

「そうかしら……。お姉様からの手紙なら私にも教えてくれるはずなのに……」


 二人のことを良く理解している父親なら、エレノアの話を聞いてもリディアの手紙を見れば、きっと事情を察してくれるだろう。勝手に式を早めるようなことをして、フリッツに迷惑を掛けるのは避けたい。


「お姉様! 手紙のことはあとで確認するとして、今はお茶会の準備をしなければ!」

「もうお茶会に行かなくて良いんじゃない?」

「何を言っているの。たとえ破棄したとしても今後、社交は必要になるのだから、今のうちに練習しておいた方がいいわ」


 エレノアはベルを鳴らし、メイドを呼ぶ。


「さあ! 時間がないわ! 準備をしてちょうだい」


エレノアはリディアのかわりにテキパキとメイドに指示を出し始め、リディアはコルセットと奮闘することになるのだった。

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