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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第4話 物語遊園地でトリプルデート
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⑨ 小夏さんの想い

 ワゴンで小夏さんに買ってもらったアイスを食べたあと、わたしたちはアンデルセンエリアに向かったんだ。星崎さんや神谷先生たちとここで落ち合うことにしていたの。

「せいらたち、遅いね」

 雪の女王のお城モチーフのきれいなディスプレイの前で、ももちゃんが言った。

「そうね。ちょっと見て来るわ」

 小夏さんが中央のアンデルセン広間の真ん中に進んで行った。

「今のうちに、夢未を応援する作戦の続きを立てよう」

 マーティン、ありがとう……!

「首尾は悪くない。星崎さんにやきもちを焼かせる作戦は成功したといっていい」

 ん?

「星崎さんがやきもちって……?」

「マーティン、こういうのにのほほんな夢はほっといて、話進めよう。さっきの神谷先生とのタッグ、ナイスだった。で、次はどうしたらいいかな」

「あぁ。それなんだけど」

 マーティンは、せいらちゃんたちを見つけて手を振る小夏さんをじっと見据えた。

「敵を知ることだと思うんだ。小夏さんと星崎さんは大学で一緒だったらしいけど、どうして親しくなったのか。どういう関係なのか。辛いだろうけどこれは、夢未に探ってもらうしかない」

 わたしは頷いた。

「がんばる」

 マーティンも頷く。

「シチュエーションの設定は、協力する」

 え?

 マーティン、なんか難しいこと言ったけど、どういうことだろう……?

 隣でももちゃんも首をひねってる。

 そうこうしてるうちに、小夏さんが星崎さんを連れてこっちに来た。その後ろから神谷先生とせいらちゃんもやってくる。

「幾夜。次、あれ観たい。『雪の女王劇場』。すごく幻想的なんだって」

 小夏さん、まだまだアピールが衰えない。とほほ。

「星崎さん!」

 そこへマーティンが割って入った。

「『親指姫とつばめのコースター』、一緒に乗ってくれませんか。一六才未満は保護者同伴でないといけないんです。もも叶がどうしてもって」

 そうだろ、と彼に言われて、ももちゃんが、なにかに思いいたった顔をした。

「あ……う、うん! アンデルセンエリアに来たからにはやっぱ、親指姫のつばめに乗らなきゃ、ね!」

 星崎さんは、微笑んで言う。

「オレはかまわないけど」

 小夏さんがなにか言うより早く、マーティンはももちゃんに合図して走り出した。

「急がないと。今混みはじめてるんです。早く!」

「走らなくても、つばめは逃げないよ」

 星崎さんは笑って、後を追って行った。

 わたしたちは、しばらく親指姫のアトラクションの方へ行く三人を見てたけど。

「少年、なかなかやるな。――そういうことなら」

 ふいに神谷先生が呟いて。

「せいら、あれ乗るぞ」

「えっ」

 せいらちゃんはびっくり。

「二人きりで? 『白鳥の王子のつるかご』に?」

 神谷先生は微笑んだ。

「いやか?」

 せいらちゃんは俯いて、ぽつりと言った。

「……わかってるくせに」

 わたしは、せいらちゃんにだけ見えるように、そっとピースサイン。

 やったね、せいらちゃん。

 照れながらピースサインが返ってくる。

「そういうわけで小夏ちゃん、夢未ちゃんを頼むよ」

「え、ちょっと、神谷くん」

 二人は『白鳥の王子のつるかご』の方に行ってしまったんだ。

「もう、みんなマイペースなんだから」

 小夏さんは、マッチを模った柱でできたベンチに腰掛けた。

「しょうがない。夢未ちゃん、しばらくここで待ってましょ」

「は、はい……」

 小夏さんと、二人きり……。

 マーティンも神谷先生も、わたしが小夏さんに、星崎さんとの関係を訊けるようにしてくれたんだ。

 よし、せっかく作ってくれたチャンス、活かさなきゃ。

 わたしは小夏さんのそのきれいな横顔を見つめる。

 いつもはつらつとした大きな黒い目が、今はどこか切なそうに揺れてる。

 そんな表情も、きれい。

 ……いざとなると、やっぱり言い出しにくいよ~。

 心で叫んでると、小夏さんの方が口を開いた。

「さっきはやられたわ」

「え?」

「お土産屋さんで、あなたがペアのストラップを、他の人にあげるって言ったとき、おもしろくなさそうな幾夜の顔、見た? 夢未ちゃんもなかなかなもんね」

 え……。

 星崎さんがやきもちをやいてたってマーティンが言ってたけど。

 それってわたしに?

 ほんと?

 だったらちょっと、嬉しい……。

 少し話しやすい空気になったのをチャンスに、わたしは言ったんだ。

「あの、小夏さんは、星崎さんと同じ大学だったんですよね」

「そうよ。って言うより、先に入学した幾夜を追いかけて、あたしが同じ大学に入ったんだけどね」

 え……?

 っていうことは。

「大学生になる前から、知り合いだったんですか」

 小夏さんは頷いた。

「あたしと幾夜は、同じ場所で育ったんだ。

 栞の園って知ってる?

 栞町にある、児童施設。

 親に恵まれない子どもたちが、行くところ」

 そう聞いた途端、胸が、つかえたように、苦しくなる。

「幾夜はちょうど今の夢ちゃんくらいの年で、施設にきたんだけど。でも、本人はそんなこと感じさせないくらい、優しくて、年下のあたしたちともよく遊んでくれた」

 そうなんだ……。

 目の前が、ぐるぐるする。

 小夏さんがあっけらかんと笑った。

「もう昔のことだもの。夢未ちゃんがそんな傷ついた顔しなくていいの」

「……でも」

「だからね」

 身体の右側に、ちょっとだけ重みを感じる。

 小夏さんが、身体を寄せてくれてるんだ。

「あたしも幾夜も、夢未ちゃんには幸せになってもらいたいのよ。ううん。世界中の子みんなに、あたしたちのように途中でねじけたりしないで、そのまま、まっすぐ歩いていってほしいの」

 小夏さん……。

「今日はごめんね。ちょっとやり過ぎちゃった。だって……悔しくて。夢未ちゃんのこと大事そうに見る幾夜のこと、見てたら」

 泣きそうになって、わたしはスカートの裾をぎゅっと握りしめた。

「さっき買ってたぺアのストラップ。あれ、お父さんとお母さんに、渡すのよね」

 はっとしてわたしは顔を上げた。

 小夏さんには、わかっちゃうんだ……。

「幾夜はね、子どもにひどいことする親をどうしても許せないの。だから夢ちゃんにも、お父さんには会わないでって言うでしょうけど。あたしにはわかる。どんなひどい両親でも、お父さんとお母さんに仲良くしてほしくない子どもなんていないわよ」

 震えだす身体をそっと、小夏さんが包んでくれる。

「あたし、お父さんっ子だったからわかるんだ。いつも外国からかわいいお人形やお洋服を買ってきてくれてね。大好きなパパだった。まだあたしが小さい頃、南アメリカの僻地に向かって、そのまま行方知れず。あたしはそれで、施設に預けられたの」

 ……小夏さんも、辛い想い、してたんだ……! 

「大丈夫。夢未ちゃんが望む限り、お姉さんが協力する。ちゃんと、お父さんに会わせてあげるからね」

 わたしは、頷いた。

 その言葉が、単に励ましてくれるためのものであっても、よかったの。

 小夏さんのその気持ちが嬉しくて。

 お父さん。お母さん。

 わたしは心の中で報告した。

 わたし、すてきな友達がまた、できたみたい――。


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