③ 新聞の中の少年
夏休みに入って、いよいよ明日はストーリーシーでトリプルデート!
『マーティンのことは当日、星降る書店の棚の前まで迎えに行ってあげる事にしたんだ。現代のテーマパークについて調べとくってはりきってたよ』
ももちゃんは嬉しそうに言ってた。
『なんと、かみやん、前日まで天金にある塾の本社にいるんですって。だから彼とは現地で待ち合わせなの。なんていう神の采配かしら!』
せいらちゃんも感動してた。
だけど、わたしが星崎さんを誘い出したときのことを話すと、二人ともそろって溜息。
『『小夏さんも、来ることになった!?』』
『はぁぁ。夢ってなんでそうお人よしかな』
『そうね。あたしだったら、これは彼と二人のデートなの! って思いっきり威嚇するわ』
うう~。
だって……。
『でも、これはある意味、いい機会だね』
ももちゃんが言ってくれたの。
『星崎王子だけじゃなく、小夏さんにも夢の本気を見せつけるんだよ!』
『さっすがももぽん! ピンチはチャンスってわけね!』
せいらちゃんもはりきってくれたけど。
わたしにそんなことできるかなぁ。
「サラダ、口に合わなかった?」
星崎さんの声で、わたしははっとした。
いけない。お夕飯の途中でぼうっとしちゃった。
「いえ。すごくおいしいです」
「最近、考えてることが多いけど、なにか悩み事?」
あ……。
星崎さんはなんでもお見通しだね。
うん。
いつかは訊いてみようって思ってたし、ちょうどいいかも。
「星崎さん。十三年前栞町で起こった事件のこと知ってますか。
当時、わたしと同い年の子が、車に置き去りにされてお父さんとお母さんに火をつけられたっていう」
「……あぁ」
……あれ?
星崎さんの顔から一瞬、表情が消えたような。
「両親は無期懲役だってね。新聞に出てた」
「車に置き去りにされた子、今どうしてるんですか」
なんかそれが、すごく気になって、考えちゃうことがあるんだ。
なのに星崎さんはなんてことないように言ったんだ。
「もう昔の、ありふれた虐待事件だよ。夢ちゃんが気にすることじゃない」
えっ。
そんなふうに言うなんて、星崎さんらしくないよね。
「でも、わたし、その子はどんな気持ちだったろうって思わずにいられないんです。
どんなに……悲しかっただろうって」
「そうかもしれないね」
星崎さんは今度はどこか悲しそうに、微笑んだ。
「でも、夢ちゃんまで悲しい気持ちにさせてしまったらその子だって、うかばれないんじゃないかな」
「……そうかな」
そう呟くと、星崎さんが少し驚いたようにわたしを見た。
「いちばん大好きなお父さんとお母さんに、車に置き去りにされて、火を付けられて熱くて、怖くて寂しくて。
そういう想いをしたその子は、一緒に傷んでくれる人がすごくほしかったと思うんです」
「……」
星崎さん?
星崎さんは、ぼうっと、机を見つめてた。
どうしたのかな。
はっと我に返ったようにわたしを見る。
「とにかく、あまり悲しいことを考えすぎるのはよくないよ。優しく考えすぎるくせは、たまに夢ちゃんを必要以上に追い込むからね。
もう寝よう。明日は朝早いから」
そう言って、お夕飯の後片付けを始めちゃった。
やっぱり星崎さんらしくない。話逸らすなんて。
そうは思ったけど。
「明日、楽しみだね」
その気持ちも、彼の笑顔に紛れていつの間にかなくなっちゃったんだ。




