⑮ ミンチン先生の文学テスト
玄人向け? 文学テストに夢っちがチャレンジ!
応接間は、今度は女学院の教室に代わった。
黒板の前の教卓にはミンチン先生。そのすぐ前の机に夢っちが座ってる。
ちなみにあたしとももぽんが観客よろしく座っているのは、一番後ろの席。
「では、さっそく試験を始めます。口頭で答えなさい。まず第一問」
ごくん、と夢っちが唾を飲むのがわかる。
「フランシス・ホジソン・バーネットの代表作と言えば『小公女』『小公子』もう一つは」
夢っちは即答。
「『秘密の花園』です!」
ミンチン先生は眉一つ動かさず答えた。
「正解です」
「女の子が荒れ果てた土地をお花でいっぱいにしていく、すてきな物語なんだ」
嬉しそうに言う夢っちに、あたしとももぽんはうしろでパチンと手を合わせる。
「さすが夢っち」
「やっぱりこりゃ楽勝だね」
ミンチン先生の問題は続く。
「第二問。英語文学の三大悲劇と言われているのは、シェークスピアの『リア王』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』と――」
「エミリー・ブロンテさんの『嵐が丘』です!」
ここでもすぐに答えた夢っち。やりぃっ。今まさに読んでる本だものね。夢っちにとってはサービス問題だわ。
ところが、ミンチン先生は続けたの。
「ですが、『嵐が丘』の中で悲劇を起こすきっかけとなったのは、どんなエピソードでしょう」
うう……なかなかの難問。
でも、夢っちにあわてた様子はないの。
「主人公のキャサリンさんが、好きじゃない人と結婚してしまったこと……。そのせいで、たくさん、悲しいことが起ります」
――そうだったの。
『嵐が丘』の主人公のキャサリンさん、さっきは旦那さんとディナーをひかえて幸せそうだったけど。
この先、悲劇に見舞われるかと思うと、敵方と言えど、気分が沈む。
ミンチン先生は、悔しそうに唇を噛んだ。
「なかなか、やりますね」
ふふふ、参ったか!
夢っちの文学少女っぷりをなめてもらっては困るわ!
「では最終問題は、論述式です。
それは、あなた自身が本に親しむ歴史に大きく影響を与えた人物について」
ミンチン先生がそう言うと、黒板に泉のような、不思議にうごめく丸い面が現れた。
そこに映し出されたのは、エプロンをつけて、本を整理してる男の人だった。
その人の名を、夢っちは呟く。
「星崎さん……」
ミンチン先生が手を叩くと、水が弾けるように、黒板から星崎さんを移した鏡が消える。
「彼の生い立ちを述べてください」
夢っちは――答えない。
なにかに憑かれちゃったみたいに、ぼうっとしてる。
どうしちゃったの!?
ももぽんと目を見合わせ、夢っちを見守る。
「どうしたのですか。答えられないのですか」
ミンチン先生にせっつかれてやっと、その口が開いた。
「わたし……星崎さんのことなにも知らない……」
夢っちが受けたショックが、ありありと伝わってきて。
あたしとももぽんは言葉もなかった。
「星崎さん、わたしに自分のこと、話してくれたこと、ない」
痛むように、こめかみに手を当てる。
「どうして……?」
あたしはぎゅっと胸を押さえた。
わかる。
夢っちの気持ち。
わたしも、かみやんが婚約や自分のことを話してくれないことがすごく、寂しかった。
つかつかと音をさせて、ミンチン先生が夢っちに近づく。
「彼があなたに心を寄せているのなら、自らのことを語るのではないですか」
夢っちがぎゅっと目を瞑って震えだす。
「その空欄は、あなた方の未来です。そこにはなにも存在しません」
あたしはきっとミンチン先生を睨んだ。
どうして、そんなこと言えるのっ?
でも夢っちはそのとおりだっていうように、言葉を紡ぐの。
「星崎さんは、わたしにすごく親切にしてくれて。でも、わたしは星崎さんになにもできなくて。だから、なにも言ってくれないの。星崎さんの未来に、やっぱり、わたしはいないのかな……」
机に伏せて顔を覆う夢っちにあたしとももぽんは駆け寄った。
辺りが真っ暗になる。
ミンチン先生の無慈悲な声がする。
「試験時間、終了です」




