表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋せよ文学乙女  作者: ほか
第3話 恋に悲劇はお呼びじゃないわ!
76/434

⑬ 悪女ヒロインたちのお茶会 ミンチン女学院へ

かみやんを助けにせいらたちは『小公女セーラ』のミンチン女学院へ。

そこでは児童文学のなかの有名悪女さんたちがお茶会をしていました。

 夢っちとももぽんに連絡して、急いでやってきたメルヒェンガルテンは、辺り一面、バラの茂みに覆われてた。

 濃い緑の茂みの中に看板が立ってる。


六月のテーマ 不思議の国のアリス


 真っ赤なバラは心を落ち着け時に情熱をくれます。

 時には女王様に逆らって、好きな色に庭園を彩ってみるのも一興でしょう。


 みどりの指の庭師


「まずは聞きこみだね。神谷先生を見た人を探そう」

 ももぽんがきびきびと言ってくれる。

 わたしは茂みの前で梯子をかけて登り、そこで白いバラに赤いペンキを塗っている男の子に目をとめた。

 金髪のきれいな小さい男の子。

「ちょっと訊きたいんだけど、いいかしら」

「わっ、びっくりした」

 あらっ、ごめんなさい。

 焦るあまり、いきなり話しかけてしまったわ。

 男の子はわたしを見るなり、形のいい眉をハの次にした。

「お姉さんも、悲しそうだね。最近、女の人たちが悲しい顏をしていることが増えて。

 花を植えて、少しでももとのメルヒェンガルテンに戻そうとしているんだ」

 横から夢っちが言う。

「あなた、もしかして『みどりのゆび』に出てくるチト?」

「うん。ここで庭師をしてるのは僕だよ」

 ぱっと、夢っちの顔が明るくなる。

「いつも季節に合わせてあの看板を変えて、お庭を作ってくれてるのはあなたなんだね。それじゃメルヒェンガルテンのことは文字通り自分のお庭みたく知ってるんだ」

「もちろんだよ。僕の仕事場はメルヒェンガルテン全域だから」

「チトくん! ちょっとお尋ねしたいんだけど!」

 あたしは勢い込んで前に出る。

「さらわれた男の人を捜してるの。スーツとシャツが似合って、目は大きめで男の人にしてはかわいい感じで、雰囲気はちょっとくだけてて――」

「せいら、説明に主観入りすぎだよ」

 ももぽんが冷静につっこむけど。

「僕、見たよ」

 伝わった!?

「そのお兄さんを乗せた馬車が、北西のお屋敷のほうへ行ったよ。金色の豪華な馬車だったから覚えてるんだ。

 英米文学の住人が住んでる地方だよ」

 英米文学っていうのは、イギリスやアメリカで生まれた物語のことね。

「汽車で追いかければ、間に合うんじゃない?」

 ももぽんの言葉にチトくんが頷く。

「リトルプリンセスっていう駅で降りればすぐだよ」

「パレ駅に急ごう。せいらちゃん!」

 夢っちにあたしは頷いた。

 あたしたちはチトくんにお礼を言って、パレ駅に駆けだしたの――。



 リトルプリンセスに着くと、そこにもピンクや赤のバラがいっぱい。

 汽車を降りてすぐ、バラたちの咲き乱れる小道を走って行く、金色の馬車を見つけたの!

 馬車はそのさきの、レンガ造りのお屋敷に入って行った――。

 よし。

 あのお屋敷に潜入よ!

 わたしたちは急いで入口に回る。

 玄関の扉の真鍮の板には黒い文字でこう書いてあったの。


 ミンチン女学院


 さすがにあたしもちょっと怖気づく。

 ここって、小公女セーラに出てくるあの意地悪なミンチン先生の学院なの?

 夢っちもあたしと同じような顔をしてる。

「二人ともどうしたの? 真っ青になっちゃって」

 ももぽんにあたしは説明する。

「ここは、『小公女セーラ』に出てくる学校なの。校長のミンチン先生は、屋根裏に閉じ込めたり、食事を与えなかったりしてセーラをいじめるのよ」

「なにそれ、犯罪も犯罪。ってことは、そのミンチン先生が、神谷先生をさらった犯人?」

 その可能性、否定はできないわね……。

「大丈夫!」

 景気のいい声をあげたのは夢っちだった。

「セーラはそれでも、負けなかったもん。わたしたちのせいらちゃんだって、平気だよ」

 ……そうね。

 ありがと、夢っち。

 ちょっと勇気出たわ。

 ももぽんが合図してくれる。

「じゃ、こっそり忍び込むよ。せーのっ」

「『こっそり』のわりに、随分と騒がしいのですね」

 で、でたーーっ!!

 重そうな扉をガチャリと開けて出てきたのは間違いなく。

 見上げるほど高い背丈。

 きつく結った髪にどんよりした目。

 落ち着いたグレーのドレス。

 ミンチン先生だわ。

「おや。女の子が三人も。入学希望ですか」

 ぶんぶんぶんっ。

 あたしたちは、激しく首を横に振る。

 ここは、冷静に対処したほうがよさそうね。

 あたしは前に進み出た。

「お尋ねしたいことがあって参りました。ご迷惑でなければ、院内の方々みなさんにお聴きしたいのですが」

 そう。

 馬車はこの建物の中に入って行ったんだから、今学院にいる全員がかみやんをさらった容疑者になる。

 ミンチン先生はあたしをじろりと見たけど、意外にもあっさり頷いた。

「いいでしょう。今生徒たちは休暇中でおりませんが、ちょうどお茶の時間で、当院に招いているお客様はひとところに集まっておいでですので」

 これは都合がいいわ。

 あたしは夢っちとももぽんと頷き合って、ミンチン女学院の中に足を踏み入れた――。



 応接間はとっても豪華だった。

 品のいい赤いテーブルの周りを花柄のソファが囲ってる。

「お茶の時間に申し訳ないのですが、この方々が尋ねたいことがおありのようです」

 そこでお茶を楽しんでいたのは、ミンチン先生のほかにあと二人。一人は、一人掛けのソファに品よく座った、金色の波打つ髪を肩まで垂らして、やっぱり金の豪華なドレスを着てるすっごくきれいな若い女の人。もう一人は、その横の三人掛けソファにゆったり座ってる。ちょっとぽっちゃりめで、目つきの鋭い、ふりふりの豪華なワンピースを着たわたしたちと同い年くらいの女の子。

「先程、金色の馬車でこちらにいらしたのは、みなさんの中のどなたでしょうか」

 わたしは慎重に聴いてみたけど、ぽっちゃりした女の子があっさりと言った。

「もって回った言い方しないではっきりおっしゃいよ。馬車で連れ去られた人を捜しにきたんでしょう?」

 なっ。

 いきなり切りこまれた!

 どう答えようか迷っていると、ももぽんが堂々、一歩進み出た。

「そうだよ。神谷先生を、早く返して!」

 ふふんと女の子は意地悪く笑う。

「あなたたちの推察通り、このなかの誰かが彼をさらって隠してるわ。まぁあたしには関係のないことだけど、それでも、通りすがりのあなたたちに、タダで教えてあげるのは気が進まないわね」

 むかっときて、言い返そうとするももぽんを止めて、あたしは言った。

「では、せめてお名前だけでも教えていただけないかしら」

「いいわよ。あたしはジョシー・パイ。プリンスエドワード島ってところから、ここのお茶会にお呼ばれしてきたの」

 夢っちが小さい声で情報を囁いてくれる。

「赤毛のアンのクラスメイトだよ。いつも一言多くて、ちょっと意地悪なの」

 なるほどね。

 さてどうしようかなと次の手を考えてると、やっぱりももぽんが行動に出た。

「もういいよ。あんたには訊かないーだっ。ミンチン先生、神谷先生はどこですか」

 ところが、ミンチン先生ももちろん、筋金入りの悪役。そう簡単にいくはずもなく。

「それを言うことで、わたしになんの得があるというんです」

 ももぽんがげんなりして呟く。

「そろって性格わる……」

 ほんとね。

 これってもしかして、お茶会・オブ・英語圏の悪女?

 それでも、ももぽんはめげない。

「じゃ、お姉さん」

 そうだわ。

 あと一人、美人の彼女が残ってた。

 指された彼女はきれいな首筋を傾げて、

「そうね。案内してあげたいんだけど、あたしもうお暇しなくちゃ。これから新婚の夫とディナーなのよ。またにしてくれる?」

「ま、待ってください! もう少しだけ」

 あたしは慌てて引き留める。

 容疑者の一人に逃げられてなるもんですか!

「その前に、お名前を、教えてください」

 時間稼ぎと、推理の材料を集める意味で、あたしは言った。

「キャサリンよ。キャサリン・リントン」

「『嵐が丘』のヒロインだよ。星崎さんが、神谷先生の代わりに日本版の映画の製作権をとってきたっていうあの作品」

 さすがの夢っちが、耳元で囁いてくれる。

 これで、容疑者のプロフィールはそろったわ。

 わたしたちは丸くなって、彼女らに抱いた第一印象を相談する。最初に口を開いたのはももぽんだった。

「フツーに考えて、神谷先生をさらったのはキャサリンじゃないの?」

 そうね。さっき立ち去ろうとしたのが怪しいわ。

 と言おうとしたら、ももぽんの根拠は違ったらしく、

「だってイケメンに憧れるのは、年頃の女の人でしょ」

 ももぽん、もう少しちゃんと推理して……。

「でもキャサリンさんには、旦那さんがいるんだよ。見たかんじだと、幸せそうだし」

 夢っちの反論には説得力がある。

「わたしはミンチン先生が怪しいと思うな。神谷先生、授業も上手だし、学院の先生にしようとしたのかも」

 なるほどね。

 あたしも、意見を述べる。

「でも、ジョジー・パイも外せないわね。あの挑戦的な態度。あたしのところにわざわざ手紙を寄越して挑発してきた犯人の姿勢に重なるわ」

 やっぱり、まだ犯人候補は絞れそうにない……。

 こそこそと相談していると、ジョシーが口を開いた。

「キャサリン。せっかく来たんだからゆっくりして行きましょうよ。どう、向こうもこっちも、ちょうど三人。一対一ずつ勝負して、この子たちが多く勝ったら、真実を教えてあげるっていうのは」

 ジョシー・パイ、悪役にしてはナイス提案だわ!

 ソファから立ち上がりかけたキャサリンさんもあっさり腰を落ち着ける。

「あら、それは楽しそう。ちょっとディナーには遅れちゃうかもしれないけど、いいわ。やるわ」

 ……スリル好きと見たわ。

「時間の無駄に思えますが、仕方ありませんね。そうでもしなければ、彼女たちは納得しそうにありませんから」

 ミンチン先生もしぶしぶそう言って、ラッキー。

 チャンス到来ね。

 よーしっ。

 あたしたちチーム・文学乙女は円陣を組んだ。

 絶対、負けないんだから……!


次回は赤毛のアンに登場するちょっといじわるなジョシー・パイとバトル!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ