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恋せよ文学乙女  作者: ほか
第1話 名作の国にご招待
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⑰ 星降る緊急会議

やっと事件発生です!

 六角形に囲まれたテーブルの真ん中のスペースにはホワイトボードとケストナーおじさんが立っていた。

 それと向かい合うようにしてテーブルについているのはわたし、ももちゃん、モンゴメリさん。

 ホワイトボードにはこう書かれてる。


 緊急会議 議題;メルヒェンガルテンに起きた大火事について


 「メルヒェンガルテンが燃えてる!?」

 ももちゃんの大きな声が響いた。わたしも思わず続ける。

 「庭のきれいなお花たちは? それからあのすてきなお店、『秘密の花園』は無事なんですか!?」

 議長のケストナーおじさんが答える。

 「急場はしのいだ。犠牲者も今のところは出ていないが」

 「それじゃ、火は消えたんだね」

 ももちゃんがほっとしたように息をつくけど、

 「それが安心してばかりもいられないの」

 モンゴメリさんが眼鏡の奥の瞳を細めた。ケストナーおじさんと深刻そうに目を見合わせる。

 「出火原因が厄介でね」

 「ま、まさか、放火犯!?」

 うそっ。

 怖い……!

 叫ぶももちゃんにケストナーおじさんは首を横に振った。

 「ひょっとするとそれよりも厄介かもしれない。火事の炎は、ひとりでに点火し、燃え上がったんだ」

 ……え?

 どういうこと?

 「本焼く炎という、少し特殊な炎でね。本だけを焼く炎がある。もちろん、本の命、ブーフシュテルンでできたメルヒェンガルテンも、燃やす対象となる。

 本は役に立たないとする人間の心が創り出した炎で、昔ヨーロッパでも日本でも実際にたくさんの本を焼いてきた。

 かつては本を焼くことを『払い清め』と呼んでいた時代もあるくらいなんだ」

 わたしとももちゃんはあんまりな事実に何も言えなかった。

 どうして。

 本を焼くなんてひどいことをするの……?

 星崎さんが言ってた。ケストナーおじさんの本も焼かれたことがあるって。

 ケストナーおじさんがつらそうにしているのを見てとって、モンゴメリさんが先をつけたしてくれる。

 「一つのことが絶対に正しいと考えて、他のいろいろな考えを認めない気持ち。

 特に、戦争で相手国に勝つこととか、目に見える成果だけに取りつかれると危険ね。

 様々な考えが書かれた本を目の敵にしやすくなる。 

 よい物語は、勝つことにこだわっている社会が持っていないものを拾い集めて作られているから」

 むずかしいことだけど、わかる気がした。

 本を読んでわくわくする気持ち、ほっとする気持ち、感動する気持ち。

 そういうのをくだらない、だめなものだって決めつける人たちも、いる。

 「おそらく、ここ栞町に、特に強く本を憎んでいる人がいるんだろう。その気持ちが炎となり、ブーフシュテルンを燃やすためにメルヒェンガルテンに現れた。

 今は炎はメルヒェンガルテンに収まり、ブーフシュテルンを焼いたにとどまっているが、いずれは地球に飛び火してしまうだろう」

 「地球に飛び火?!」

 「そしたら、どうなるんですか」

 わたしとももちゃんの問いにケストナーおじさんは答えた。

 「誰かをターゲットにしてとりつき、今もなお地球に残っているすばらしい本たちを焼かせるかもしれない」

 わたしはあっと声をあげた。

 「どうしたの? 夢」

 「お父さん……」

 わたしを殴ったときの、お父さんの目。

 赤い火みたいなものが見えたっけ。

 「その、本を憎んでる誰かって、お父さんかも」

 頷いたのはモンゴメリさんだ。

 「その可能性は高いわね。本のよさを理解せず、目に見えて役に立つものだけがよいものとする考えにとりつかれた人からは炎が発生しやすいの」

 ももちゃんが寒気がするみたいに両腕をかかえた。

 「……みりの目の中にも見えた。赤い火。それにみり、すごく熱かった」

 「そうだ。もしかしたら白石さんも、本焼く炎に取りつかれちゃってるのかも」

 「助けなきゃ」

 わたしは震えるももちゃんの手を握って力強く頷く。

 モンゴメリさんが説明を続ける。

 「反対に本の尊さを知っている人ほど本焼く炎は避けて通る傾向があるんだけれど、今回現れた炎はあまりにも強い。普段本を大切にしている人を僕にするのも時間の問題ね」

 わたしとももちゃんは多分今同じことを考えてる。

 ブックトークを聴きに行った図書室がすごく暑かったのは、本を焼こうとする炎の気配が迫ってきてたからなのかもしれない。

 炎はもうすぐそこまできてる。

 本を読みなさいって言ってた校長先生ですら、ブックトークなんて必要ないって考えになっちゃってたんだ。

 「なんとか、火を消す方法はないんですか?」

 わたしが言ったけど、みんな黙り込んでしまった。

 一言、ケストナーおじさんが呟いた。

 「本焼く炎にとりつかれた人間の威力は恐ろしい」

 薄々、わかってた。

 本を焼いたナチスは、当時ドイツですごい力を持ってたんだって。

 『南海千一夜物語』をまっぷたつに引き裂いて、わたしに向かってきたお父さんの顔が浮かぶ。目がこれ以上ないくらいつりあがって、口元は歪んでた。

 膝が、震えた。

 「炎が街の本を焼きはじめたら、地球から本がなくなっちゃうだけじゃない。

 みんなの中のすてきなもの、大切なものが消えて、怖い世界になる。

 みんながわたしのお父さんみたいな顔をするようになるんだ――」

 どうしよう。

 今度はわたしの手を、ももちゃんが握ってくれる。

 「残念だが今のところ、具体的な手立てはなにもない。すがれるとすればただ一つ。メルヒェンガルテンに伝わる伝説だけだ」

 伝説?

 あたしとももちゃんは顔を上げた。

 先を引き取ったのはモンゴメリさんだ。

 「炎が本を脅かす時代に、壮大な滝が現れて、炎を消していくという伝説があるの。その名はナミダガラの滝」

 食いつくようにももちゃんが言う。

 「どうすればその奇跡の滝を起こせるのかな」

 「それは誰も知らないの。なにしろ伝説だから」

 また、みんなで黙ってしまった。

 会議も行き詰まりだって思ったそのとき、発言したのはケストナーおじさんだった。

 「待てよ。モンゴメリ嬢。確か、パレ駅は火事を免れていたね」

 「えぇ、被害の酷い場所を除いて汽車も運行しているけれど――。そうだわ。それよ」

 二人は顔を見合わせている。

 「あぁケストナー。あなたはやはり天才だわ。どうしてこの手に気が付かなかったのかしら」

 モンゴメリさん、珍しくケストナーおじさんを褒めてる!

 「なにか、方法があるんですね」

 「えぇ。パレ駅は、メルヒェンガルテンをつなぐ汽車の中央駅よ。あそこはブーフシュテルンが特にたくさん集結しているところだからなんとか火事の難を逃れたの。

 あの駅は、普段は広いメルヒェンガルテンの移動に使うターミナル駅なのだけれど、実は、違う使い道があるの」

 ケストナーおじさんが先を続けた。

 「人生においてどうしてもある問いの答えを知りたいとき、その答えを知る人のもとへ連れて行ってくれる番線があるんだ。

 そういうのは昔から本がになってきた大事な役割だったからね。本の力が集う駅でこんな番線があっても不思議じゃないだろう?

 千四十四番線がそうなんだ」

 ひらめきに強いももちゃんがすぐに言った。

 「としょ、だから千四十四番線か」

 そっか。千四十四――1044、ごろ合わせでとしょ、だね。

 わたしたちはさっそく、少女文学の棚から、メルヒェンガルテンのパレ駅に向かった――。


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