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反戦団体を組織した私ですが、恒久的平和のため最終戦争を望みます!  作者: 河畑濤士
第2章 新王国統一議会議員/国際連合 編
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32.予感

 エンドラクト新王国軍航空総隊第201飛行中隊中隊長、ハルディマン・オルテル・ライオは、遥か下方――3000歩間(=約1500m)眼下の位置に敵騎を目敏く発見した。

 ヴィルヴァニア帝国航空艦隊の制空戦闘騎、シバルベ。

 騎体上面の竜鱗は視認性の低い鈍色であり、ともすれば先の大戦で荒廃しきった褐色の地表と融けあって見える。

 が、人並み外れた視力を持つハルディマンはその騎影を視認し、しっかりと捕捉していた。


『こちらリベラリア1、領空侵犯騎2騎を視認。俺が鼻先を抑える、ケツは任せた。終わり』

『了解』


 魔力波式の遠隔通信により部下に指示を出し終えると同時に、ハルディマンは相棒の肩を励ますように叩いた。と、まさに以心伝心。鈍色と濃緑の竜鱗が印象的な愛騎ライオファイア107期型は、すぐさま反転。背面飛行から急降下を開始する。

 そのまま重力に曳かれながら加速し、降下したハルディマンは、領空侵犯騎の進路へ一挙割り込んだ。

 戦争中ならばこの時点で、敵騎シバルベはハルディマンの逆落としの攻撃を受け、2騎とも墜ちているだろう。

 が、現在は休戦中だ。やるべきことは上空から誘導魔弾を乱射することではない。


『くそったれ、お出迎えが早すぎる! そのまま地面と接吻しちまえばいいのによ!』


 シバルベに騎乗する帝国兵は、進路に割り込んできた邀撃騎に驚き、反射的に飛行速度を落とした。

 その帝国騎の後方には中隊長のハルディマンに倣って、上空から降下してきた部下がぴたりと追随する。さらに帝国騎の頭上を抑える形で、数百歩間上空を2騎のライオファイアが翔ける。

 仮にヴィルヴァニア帝国騎シバルベが妙な動きを見せれば、すぐさま攻撃出来る態勢である。

 そして先頭を往くハルディマンは、体を捩って後方へと魔力波を送信する。


『こちらはエンドラクト新王国軍航空総隊第201飛行中隊。貴騎は現在、エンドラクト新王国領空を侵犯している。当騎の誘導に従い、速やかに退去せよ。どうぞ』

『……こちらはヴィルヴァニア帝国軍航空艦隊第333飛行隊。どうやら当方の航法に誤りがあったようだ。貴騎の誘導に従い、即刻退去する。どうぞ』


 帝国兵からの返信は一瞬遅れたものの、領空侵犯を認めてハルディマンの誘導に従うらしい。

 それでもハルディマンは気を抜かない。

 最先頭を往く以上、次の瞬間にでも帝国騎が空対空誘導魔弾を撃ってくれば、すぐさま回避機動を取らなければならない。僅かな反応の遅れが、死に繋がる。


『こちらエンドラクト新王国軍航空総隊第201飛行中隊……ご理解いただき幸いだ』

『本当はせっかくこんなとこまで来たんだ、模擬空戦やら曲技飛行でもやって帰りたいんだが』

『事故でも起こされて再戦となったらかなわない。やめてくれ』




 新王国軍航空総隊第2航空団が駐屯する基地に、夕陽を背負った201飛行中隊の翼竜が帰投する。賢い翼竜たちは魔力噴射を切り、主翼をはためかせて減速。最後にはその2本足でしっかりと地を踏んで、着陸を成功させていく。

 夕闇迫る滑走路を翼竜飼養兵たちが、自身が整備を担当するライオファイアへと駆ける。


「お疲れ様です!」

「お疲れ様。こいつを頼んだぞ。……しかしこう連日の出撃ではかわいそうだな」


 領空侵犯騎への対応を終えた4騎のライオファイアは、甘えるように甲高い鳴き声を上げながら、翼竜飼養兵に従って滑走路上から竜舎へと移動する。

 緊急発進任務に就いていた翼竜騎兵たちも、ライオファイアから離れて地上司令部へと向かう。待っているのは休息ではない。報告と僅かな食事の時間だ。

 1宴130万歩間飛翔(時速650km)の生体兵器から降りたハルディマン・オルテル・ライオは、緩慢な足取りで司令部への道を歩きはじめる。


「お疲れ様です、隊長」


 そのハルディマンに背後から駆け寄ってきて、横へ並んで来たのは同じ隊の新入り騎兵だ。

 彼女は戦時中に空中勤務に対する適性を見出されたものの、実戦参加には間に合わず、終戦後に訓練課程を終えて第201飛行中隊に配置された部下である。

 ハルディマンは当初、小柄な体躯の彼女が連日の激務に耐えられないのでは、と思っていた。が、実際には、体力的・精神的に負担がかかる緊急発進任務から平時の雑務まで、よくやっている。


「体調はどうだ」

「正直言うと、ここんとこきついですね。飛べないほどではないですけど」

「ああ――だがいちばん辛いのは、他でもない翼竜たちだ。いつも以上に騎体の状態に気をつけろ」

「了解です」


 翼竜騎兵にとって、自身の体調を管理するのは当然のこと。

 そして自分自身の体だけではなく、自身の翼竜の状態を熟知しておくことが重要になる。

 翼竜は機械兵器ではない。生体兵器だ。機械兵器のように整備兵が丁寧な整備をしていればいい、という代物ではない。

 疲労は蓄積するし、その日その日で体調も異なる。

 空中に舞い上がった際に十全にその性能を発揮出来るか。仮に翼竜の疲労が著しいようならば、他の翼竜と交代するか出撃自体を取り止めた方がよい――このエンドラクト新王国に、亜音速翼竜は約250騎しか存在しないのだから。


「しっかし緊急発進の頻度が増してる気がしますけど、なんでなんですかね」

「おそらく国際連合――実質の対ヴィルヴァニア同盟創設が動き始めているからだろう」


 国際連合創設に動いている中心国は他でもない、エンドラクト新王国だ。

 大陸中部諸国は貧弱であり、束になったところでヴィルヴァニア帝国にとっては脅威にはなり得ない。だが目障りではあるのだろう。

 これは恫喝か――それとも――。

 ハルディマンの想像が最悪に結びつく直前に、小柄の女性騎兵が「そういえば」と尋ねた。


「デモクラシア様って隊長の――」

「ああ。妹だ」

「やっぱりッ! すごいですほんと!」

「だが最近は会っていない。向こうも忙しいだろうからな、手紙もな」


 ここ最近、自身と同じ銀髪と紅蓮の瞳を持つ妹のことを想わない日はない。

 ハルディマンは決して、妹に執着的愛情を持っているわけではない。が、国家警察との対決、保守派政治団体との抗争、政界入り――嫌でも新聞に連日載るのだから、彼女のことを想わざるをえないのだった。


(頑張って生き残れよ)


 当然だがヴィルヴァニア帝国にとってすれば、国際連合構想は目障りな代物。彼らが大人しくしている保障はなく、工作員を派遣してデモクラシアの拉致や殺害を狙うことも考えられる。

 そしていざとなれば休戦条約を反故にして、国際連合創設運動の中心となっているエンドラクト新王国を突如攻撃し、国際連合構想を瓦解させるかもしれない――。


――連日の領空侵犯は、対エンドラクト新王国戦の侵攻路確認や情報収集が目的なのではないか。


 自分でも考えすぎだと思うが、ハルディマンはどうしてもそんな想像を振り切れずにいる。

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