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そのままでよかったのに

 いつも通っている定食屋がある。

 特別な店ではないし、名物があるわけでもない。


 ただ、私はそこの「キャベツの千切りサラダ」が好きだった。


 見た目は至って普通。

 細く刻まれたキャベツが、皿にこんもり盛られているだけ。

 派手さも個性もない。でも、それがいい。


 何を注文しても、私は必ずそのサラダを追加する。

 味を邪魔しない。

 それでいて、ちゃんと美味しいと思える。


 そんな理由で、二年ほど通い続けた。


 ところが、ある時から世間の空気が変わった。

 どうやら「セロリ、トマト、キュウリ」が流行り始めたらしい。

 他の店のサラダには、その三つが当たり前のように入るようになり、

 気づけば行列までできていた。


 そして当然のように、いつもの定食屋にも、その流れはやってきた。


 それを知らないまま、私はいつも通り

「キャベツの千切りサラダ」を頼んだ。


 運ばれてきた皿を見て、私は一瞬、目を疑った。

 キャベツの中に、見慣れない色が混ざっている。


 セロリ、トマト、キュウリ。


 私は注文を間違えたのかと思い、店主に声をかけた。


「すみません、これ……」


 皿を指すと、店主はにこやかに答えた。


「先週から変えたんですよ。今、流行りですからね」


「……そうですか」


 実は私は、その三つの野菜が苦手だった。

 だからこそ、野菜を食べるならキャベツを選んでいたのに。


 正直にそう伝えると、店主はまた笑って言った。


「でもね、お客さん。

 この野菜たちも悪くないんですよ。

 ただ、ここに加わっただけですから」


「認めてあげましょう。時代ですからね」


 私は目の前の皿を見つめたまま、箸を動かせずにいた。


 それはまるで、

 ずっと好きだったゲームに、

 突然タレントが声優として起用されたときのような気分だった。


 悪いわけじゃない。

 でも、

「そのままでよかったのに」と思ってしまう。

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