死面
祭りの人波の中すれ違った人は、昨年亡くなった私の上司だった。
他人の空似だろうと思っていると、小学生の頃亡くなった同級生が私の横を走って通り抜けた。
何十年も前の記憶だ。顔だってうろ覚えだ。だから似ていると思い込んだだけかもしれないと自分に言い聞かせた。
辺りは笛や太鼓のお囃子をBGMに、人々の賑やかな音と楽しそうな笑顔で活気にあふれている。
またしても知っている顔が歩いてきた。
数年前に亡くなった叔母だ。
叔母は生気のない顔で、ゆらゆらと向こうから歩いてきた。
賑やかで華やかな空間の中、叔母やすれ違った彼らの表情は異質だった。
みな虚ろで、表情のない顔が張り付いている亡者のようだった。
いや、そもそも故人に似た人ばかりすれ違うことが異様な状況だ。
他人の空似で済ませていいのだろうか……。
……私は彼らが来た方に進んで行った。
屋台が並ぶ賑やかな空間を離れて、だんだんと人の気配がなくなっていく。
その間にも私は、何人かの故人とすれ違った。
友人、親戚、学生時代の教師、職場の同僚。
私は声を掛ける事が出来なかった…。
誰もが虚ろで無表情だった。
提灯の灯りも無くなった端の端に、お面を売っている屋台があった。
店の前に立ったとき、私は愕然とした。
並んでいるお面はすべて、私の亡くなった知人や親族や友人の顔をしていた。
死面――。
ここでは死面が売られているのだ。
そこに一人の客が来た。
客の顔には黒い靄がかかっていた。
「店主、ひとつ」
客がそう言うと、店主が死面をひとつ差し出した。
「はいよ。今朝出来たばかりの新鮮なものだよ」
客が代金を払って受け取った面は、入院中の恩師の顔だった。
病気で入院していて、つい三日前にお見舞いに行ったばかりだった。
客は受け取った恩師の顔の面を付け、去って行った。
営業のための出張先で、こんなカタチで恩師が亡くなったことを知るなんて思ってもみなかった。
いったいここは何なんだ。
そもそも、どうして私はこんなところにいるのだ。
祭りになんて来た覚えはない。いつの間に…。
ふと店主の背後を見ると、一台の機械が置いてあった。
わが社のライバル社が出している最新の3Dプリンターだった。
私はいつの間にか名刺とパンフレットを店主に渡していた。




