21.挙動不審な自称お姫様
私たちは朝食を終えると、準備してもらった馬車へ向かう。今日は珍しく父も外までついて来ているけれど、たぶん監視なのだろう。
「いいかブレシア。必ず二人を会わせるのだ!」
「最善をつくしますわ」
「フン! 会わせなかったらどうなるかわかっているのだろうな?」
父はどうやら、マナーも何も分かっていない者が、公的な場である王宮で王族と向かい合うことについて何もわかっていないらしい。
父には常識がないのだろう。いや、どちらかというと娘可愛さに瞳が曇っている気がする。
(ブレシアは最善を尽くすと言うが、王宮に行ったら毎日会っているのだろう!? 遅刻しているとはいえ、王宮には行っているのだから、私だってその程度のこと知っているのだぞ! 最善でなくとも、必ず殿下とお会いするだろう。それにしてもサラは可愛いな……。あいつにしか似ていないブレシアとは大違いだ。リーズも言っていたが、ブレシアは本当は不義の子だとか、そういう可能性もあるのではないか? 成人の儀で聖女ではないと判明したら、間違いなく不義の子なのだろうな)
お母様を疑っているのか、この男は。私は別に不義の子ではないと思う。もし、そんなことを口にするようなら、いよいよ父にもパンを投げてしまうかもしれない。
というか、リーズという女性のことを証拠もなしに信じるなんて。父はどうかしていると思う。
「それでは行って参ります。ところでお父様、お仕事は大丈夫ですの? サラに顔が立ちませんわよ?」
「フン! 私はバルトと共に後で出る。気にするな」
気にするなと言われても、気になるものは気になる。というのも、今のうちに出発しないと父も遅刻してしまうからだ。
私たち三人──私とサラとメリダ──が馬車の席に座ると、乗降口が閉じられ、馬車が走り出す。父の姿が見えなくなったあたりで、私は隣に座っているサラに声をかけた。
「さて。それではあの面倒なお父様の願いを叶えるために、貴女をレオン様と会わせることになっているのだけれど……貴女には今日からマナー教育を受けてもらいます」
「え? 今日から? なんで?」
「今日からよ。当然でしょう? 別に必ずしも学ばなければならない……というわけではないのだけれど。お姫様になりたいと言ったのは貴女でしょう? 恥をかくのは貴女なのよ?」
「なりたいなんて言ってない。だってわたしはお姫様だから、ね?」
そんなにかわいいウィンクをしたところで、私には効かない。メリダも呆れたような視線を向けている。
「お姫様も大変なのよ。姿勢を正しくしたり、挨拶の仕方から正しい歩き方まで、何でもよ」
「おかあさまは言ってたの。お姫様は何をしても許されるって」
「まあ……。せいぜい頑張ってちょうだいね? 貴女自身のために」
あまり言いたくはないけれど、やはり平民からは貴族の生活というのが見えていないようだ。
この時点で彼女がお姫様向きの性格ではないというのはひしひしと感じているので、早く諦めてロッテルダム公爵家の中で大人しくしていてほしい。
もっとも、父が彼女を家の中で大人しくさせておいてくれる……なんて都合のいいことはないと思うのだけれど。
☆☆☆☆☆
王宮に到着すると、今日は近衛騎士の方が出迎えてくれた。ユージン様ではない、私の知らない殿方だ。
「ブレシア様、殿下のもとまで案内いたします。そちらが……」
「ええ。彼女がサラよ。それでは案内、よろしくお願いいたしますね?」
(案内を任されるとは……いつも通り扉の前で立っていたかったな。まあ、サラという少女が何をしでかすかわからないから、護衛を増やす必要があるというのは殿下のおっしゃる通りだが)
彼も面倒くさがりらしい。というか、扉の前に立っていたとは。気づかなくてごめんなさい、と心の中で謝っておく。
「ご案内いたします」
私はいつも通り王宮に足を踏み入れる。
私たちの足音──と言っても主にサラのものだが──が広々とした廊下にやたら大きく響いた。
少し後ろに視線を向けてみれば、サラが周囲をキョロキョロと見回している様子が目に入る。
こうして歩くことしばらく。いつもの部屋の前で近衛騎士の方が立ち止まり、ノックをすれば中から返事が聞こえてきた。
「ロッテルダム公爵令嬢をお連れいたしました」
「ああ。入れ」
「失礼いたします」
室内は、まったくのいつも通りだった。左手側のソファにはレオン様が、入口近くの一人掛けのものにはアマルナ様がこちらに背を向けて座っている。
彼女は私たちの方を振り向いたかと思えば、私の後ろにいるサラの様子を見て顔をしかめた。
一方、レオン様の後ろにはいつも通りユージン様が直立不動で控えていた。
「ブレシア。そちらが君の手紙にあった……」
「ええ。父がどうしてもとうるさくて。彼女がサラですわ、レオン様。サラさん、こちらが──」
そう言いながら私がサラの方を振り返れば。
「うそ。なんで……?」
「サラさん? どうかして?」
彼女は両手で口元を覆い、しばらくの間、目を大きく見開いていたかと思えば、突然踵を返して退室していった。
「サラさん!?」
「自分が後を追います。ロッテルダム公爵令嬢はこちらで殿下と」
そう言って、ここまで案内してくれた近衛騎士の方は、サラの後を追って出て行った。




