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第10話「タイムアップ」

「おいこら!意識飛ばすなよ!」


またクロミンか。

煽ってきたり、助けてきたり、応援してきたり、いったいなんなんだ。

体がめちゃくちゃ熱い、焼け爛れてしまうような熱だ。


「ここを乗り越えたら一つ関門をクリアできるんや、頑張れ!」


クロミンがぴょんぴょんと心配そうにこっちを見ているのがわかった。

だけどダメだ……

もう、意識が……


「だから、意識飛ばすないうとるやろがー!」


ぐはっ……


僕の顎にモサモサしたものが飛びかかってきた。

もちろんクロミンがその正体であることは分かっていたのだけれど、この一瞬気がそれたタイミングで自分の中の何かが弾けたような気がした。

遠のいていた意識がグンッと瞬時に引き戻されるような感覚とともに、悲鳴が聞こえた。


「ぎゃあああああああ!燃えるうううううう!」


燃えているのは毛玉だった。

ふと自分の体を見るとさっきよりもさらに大きな炎が身に纏っていた。

より赤く、より密度の濃い炎が、腕や足だけでなく、全身を覆い尽くしていた。


「鎮火ー!!」


あ、そうだ、クロミンのことをすっかり忘れていた。

とりあえず砂をかけて炎を消してあげることはできた。


「これが本当の魔法の姿や。次で決めるで」


しかしさっきと違ってゴブリンは避けてくる可能性がある。

ゴブリンはいつでも動き出せる体勢でじっとこちらを睨みつけ、こちらに攻撃する機会をずっと伺っている。

僕たちが何かしようと動けば間違いなく飛びかかってくるだろう。


「心配すんなアル坊。最大火力をお見舞いしたれよ」


クロミンは今までにない真剣な面立ちで僕にそう言い残すと、ゴブリンの元にビュンッと飛び出した。


そんなクロミンの動きを漏れなく察知したゴブリンは、ニヤッと口角を斜めに上げて僕の方に飛びかかろうとしてくる。


風の檻(黙ってみとかんかい)!』


クロミンの動きは今までにないぐらい速かった。

また、砂の中を潜って移動しようとするゴブリンの周りの吹き飛ばし、その風の勢いでゴブリンの動きを封じ込めてしまった。


「今や!やったれ!」


またとない好機……

今しかない!


熱より出し我が幻影よ、我に従いて敵を穿て――


炎魔法術・蜃気楼分身マジカルスタイル・ミラージュマン


僕一人じゃあ弱いんだ。だったら、その数を増やせばいい。

三方向から一気に撃ち抜く。

ありったけの気持ちを込めて……


放つ!!


三頂の炎矢(デルタフレイムアロー)!!』


僕と僕の幻影から放たれた矢はグングンと周りの風を吸い込み、より大きく、より速く、より赤さを増しながらゴブリン目掛けて一直線に飛んでいく。

クロミンの『風の檻』でその場から動けなくなっていたゴブリンには避ける術もなく、三本の矢はゴブリンの体を確実に貫いた。


ドーン!!


大きな火柱がゴブリンを包み込む。

それを見届けた瞬間、緊張の糸が切れてしまったのか身にまとっていた炎たちはボウッと音を立てて消えてしまった。


今度こそは確実に倒した。

クロミンもよくやったとぴょんぴょん弾みながら駆けつけてくれた。


だけど……、ここからが始まりなんだ。


「やーっと終わったのー?ゴブリン相手に手間取りすぎじゃなーい?あんまり僕をがっかりさせないで欲しいなぁ」


アイツの声だ……!!


「ほんとっ、いい暇つぶしになると思ってたのに、とんだ期待はずれだよね」


声が近づいてくるのがわかる。

いったいどこから出てくるんだ。

周りを見渡してもどこにも姿は見当たらない。

もう確実に目に見える範囲にはいるはずなのに。


「どーこみてるの?ここだよ!」


「バァ!!」


耳元でガラスが砕けるような音がしたと思ったら、とうとうアイツが姿を現した。

しかし、「バァ」と驚かされただけで、僕は不覚にも大きく吹き飛ばされていた。


「アハハハハハ!吹っ飛んでっちゃった!」


大きな高笑いとともにはしゃぎ回るアイツ。

とうとう出てきたのに、このまま塔の壁にぶつかれば重傷は免れない。

やっとアイツを引きずり出せたのに、何もできないなんて。


一時停止(ストップ)!』


動きが止まった……?

吹き飛ばされていたはずの体が、ピタリとその場で固まってしまった。

体を動かそうとしても全く動かない。

それどころか、空中に浮いているのに落ちずにとどまっているのだ。


何だろうこの感じ、どこかで見覚えがある。


「君も雨みたいに固まっちゃったねぇ」


また耳元でアイツの声がした。

いったいいつの間に移動してきたんだ。

それにこいつ、思ってたより小さい……

まるでまだ5歳くらいの子どもに見えた。


「ねぇ、君の動きを止めて助けてあげたんだよ?お礼ぐらい言ったらどうなの?まぁ口も動かせないんだろうけどっ」


アイツは両腕を振り下ろし、僕を地面へと叩きつけた。

幸い、積もり積もった砂がクッションの役割を果たして、あのまま壁にぶつかるよりかはダメージは抑えられたと思う。

体の硬直も解け、僕はよろめきながらも立ち上がった。


「お前は何なんだ、3人を早く解放してくれ!」


アイツは空中であぐらをかきながら、ふわふわと空中を漂い、僕の話はまるで聞こえてないかのように口を開いた。


「ねぇ、ねぇ、そうだ!僕と遊ぼうよ!儀式はもう終盤に差し掛かっててさ、あとは時間が経つのを待つだけなんだ!」


「遊んでる暇なんてない、とにかく3人を解放するのが先だ」


「何して遊ぶ?暇を潰せたら何でもいいんだけど……」


全く僕の話を聞いてない、今すぐこいつを倒して3人を解放したいところだけど、正直言って体はもうボロボロだ。

今こうして立っているのがやっとの僕にできるだろうか……。

迷ってる時間はない、やるしかないんだ。


魔法は気持ちで作られるんだ、いろんな気持ちを糧にして、僕はまだ闘える。


炎体術(ファイトスタイル)……』


さっきのような密度の濃い炎はもう纏うことはできなかった。

手や足に炎を集めるのがやっと……

どうにかこいつに一撃でも食らわしてみせる……!


「はぁ?なに?僕とやりやう気でいるの?せっかく遊んであげようと思ったのに……、だったらもういいや…」


「すぐに殺しちゃうね★」


純粋な狂気っていうのはこういうことを言うんだろう。

ニタァっと笑いかける顔には、僕がこれからどんな殺されかたをするのか容易に想像させた。

あまりの恐怖に最後の力を振り絞った炎も体からするすると抜けていってしまった。


ゆっくりとゆっくりと近づいてくる。

もうすぐ死ぬ。それだけが頭の中を支配した。


息をすることもできず、震える体を抑えることもできない。

これが、死なんだ……



ウオオオオオオオオオ


ドウリャアアアアアア



……なんだ??

大きな叫び声とともにキーンと何かが飛んでくる音がした。


「お前の相手はワシがしたる!」


風波動(吹っ飛べええええっ)!』


クロミン……!?

クロミンは口をパカっと大きく開き、風の塊をぶつけて、アイツを吹っ飛ばしてしまった。


「アル坊っ!コイツはお前にはまだ早い、ワシが受け持ったるから回復に努めとき!」


ここから、クロミンとアイツの戦いが始まった。

異次元の戦いだった。

クロミンはあんなに小さな体なのに、さすがは契約獣と言ったところなのだろうか、魔法のレパートリーも威力も僕とは比べ物にならないほど強力だった。


アイツもアイツでやっぱりというべきか時間に関する魔法を使っていた。

アイツが指を鳴らすたびにクロミンは動きを止められて、地面や壁に叩きつけられていた。


「君、強いね!なんでさっきあの弱いのにやらせてたの?」


「うるさいわ、だまっとれ!アル坊は弱ない!」


「あー、楽しいなぁ!どんな技を見せてくれるの!」


水を得た魚のようにイキイキと戦いを楽しむ姿。

わざとクロミンに技を出させるために、挑発を繰り返す。

そして、今までどの技も致命傷を与えることはなかった、今、アイツは完全に油断しきっている。

クロミンがその一瞬の隙を見逃すはずがなかった。


風刃(蹴散らせえええ)!!』


あれは、イオ兄がゴブリンを倒す時に使った技だ……!

無数の風の刃が球状にアイツを取り囲む。

こうなればアイツは切り刻まれるほかない、いける!


「いいねー!こういう大技が見たかったんだよ!だけど……」


……なんだ??

アイツを取り囲んでる風の刃がぴたりと動きを止めた。

まさか、風すらもその時間を止めれると言うのか!?


そんな心配を見透かすように、クロミンは僕の方をチラッと見てニヤリと笑った。


「お前どうやってそこから出るつもりや?触れたら切れるこの風の檻からお前は出られへん!」


……………………


「お前どうやってそこから出るつもりや?触れたら切れるこの風の檻からお前は出られへん!」


すごい……!

アイツは今風の檻の中で身動きが取れなくなってるんだ。


「そっかそっか、じゃあ抜け出しちゃえばいいんだよ」


その声は風の檻の中からではなく、別の方向から聞こえた。

まさか、あの風の檻から抜け出せたっていうのか?

一体どうやって……


「一体どうやってって顔してるね。時間は止まるだけじゃないんだよ?巻き戻せるものさ」


「君がもっと早くあの弱いのの代わりに戦うことを選んでいたら、3人を助けられたかもしれないのにね」


また、アイツはニタァっと笑い、指を鳴らしてクロミンの動きを止めると、大きく両手を振り下ろして地面へと叩き落とした。


その時だった……


ゴーン

ゴーン

ゴーン


僕を絶望へと叩き落とす音が鳴り響いた。

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